「あれ? それ、セノが使うデッキ?」
普段は▼の手料理が並ぶテーブルを、いまは七聖召喚のカードが彩っている。ただ、三枚の人物カードもそれを補助するカード達も普段セノが使う傾向ではないように感じ、▼は首を傾げた。新しいカードが増えればデッキの流行も変わるので、セノが新しいデッキを作っているといえばそれまでなのだが、ここ最近で多忙だったため、追加されたカードをセノも▼もまだ手に入れていない。
▼の疑問に、セノは小さく首を振る。
「いや、これは旅人に渡すために組んでいるデッキだ」
旅人。スメールで起きた騒動解決の立役者のひとり。
▼も勿論その人を知っている。騒動もそうだが、その後のキノコンピックや教令院の学院祭、モンドでは風花祭の時に世話になっている。そういった行事でなくとも、彼がスメールにいる時はシティに来ることが多いので、▼は仕事でシティを不在にしがちなセノよりも顔を合わせる機会が多い。
「もうすぐ誕生日だったはずだ。俺もあいつも多忙だから、当日に会うのは難しいだろうが、次会った時に渡せたらと思ってな」
「そっか〜、お誕生日なんだ。そういえば、旅人とパイモンに会ってからそろそろ一年くらい経つのかな?」
「そうだな、それくらいになるだろう。俺もお前も、行動するようになったのはこの時期だったと思う」
「時間が経つのは早いね」
セノの隣に座り、▼は候補群に加えられていくカードを眺めた。
彼がデッキを組んで渡すということをしたのは、自分やティナリやコレイが初めて七聖召喚を遊ぶという時くらいしかない。セノにとって七聖召喚というものは当然プライベートのことで、それに関するものを渡すというのは、彼が旅人のことを友人として受け入れているということの証なのだろう。
「フォンテーヌに行ったって、この間ディシアから聞いたよ。暫くスメールには来ないかなあ」
▼は旅人のこともパイモンのことも好ましく思っている。だから、暫く彼等の顔を見ないかもしれないということに寂しさを感じた。元々彼らは一箇所に留まらないので、それなりの頻度で会えていた今までが特別だったのかもしれない。次の国へ行くことは彼等の目的のためで、今生の別れではないと分かっていても、やはりどうにも寂しいものだ。
炎元素をあてられたキノコンのようにしゅんと萎んでしまった▼の様子を見たセノは、カードを置くと▼の柔い茶髪を撫でた。
他人に親しみというものを抱きにくい妹がこうして寂しそうにすることは、彼女の中に大切に思う人が増えたのだと▼の世界の広がりを感じ、兄としては嬉しく思える。それはそれとして、寂しげな様子というのはずっと見ていたいものではない。頭を撫で、すべらせた手で頬に触れる。
「直接会わなくとも、フォンテーヌの冒険者協会宛に手紙を出せば彼に届けられるはずだ。もし顔を見たくなったら、事前に日を確保してから俺達がフォンテーヌに行けばいい」
「でも、セノの有給、もうないんじゃない?」
「……まだ、ある」
少し考えた様子に「本当かなあ」と▼が笑うと、平時のほよほよとした空気が戻ったことにセノは目元を和らげた。自分勝手と分かりつつも、彼女がずっとこうして和やかな表情でいるようにと願わずにはいられない。昔から続くセノの願いなど知らず、▼は並んだカードに再び目を向ける。
「このデッキを旅人に渡して……セノはこのデッキの旅人と決闘したいの?」
「うん……それについて、俺も少し考えたんだが。旅人が人の組んだデッキで戦うのなら、俺も人の組んだデッキで戦うべきだと思う。だから▼、俺のデッキはお前に組んで貰いたい」
「やったー! それじゃあ、わたしはこのデッキ組んでるとこ、もう見ないようにしなきゃ!」
言うが早いか席を立ち、跳ねるような足取りで自分のカードを取りに行った背中を見送ったセノはカードを一枚デッキに加える。
▼は自分のためにどんなカードを選ぶのか。
それらを使って旅人とする決闘はどれほど楽しいだろうか。
カードをなぞったセノの指先は、先程の▼の足取りと同じように喜びと未来への期待に満ちていた。