窓の近くの木に瞑彩鳥がとまっているのだろう、賑やかな鳴き声にセノは目を覚ます。
任務で四日ほど砂漠方面にいた為、森林色のガラスを通した柔らかな光と適温で迎えられる朝というのは久しぶりだった。数秒窓を眺めて外の音を聞き、セノは体を起こす。自分とくっついて眠る▼の体温でぬくもる寝具は離れ難いが、休日といえど寝てばかりというわけにはいかない。昔と変わらぬ無防備な寝顔。その頬を撫でてから、腰に回る▼の腕をそうっとはがし、気配を消して音を立てずに寝台から降りたセノは寝室を後にする。
軽く身支度を整えて数日ぶりのキッチンに立つと、水や全粒粉、塩、植物油、少量の牛乳などを並べ、かつてジュライセンの弟子に教えてもらった手順通りにボウルに材料を加えて捏ねる。そうして出来た生地をある程度丸くまとめ、ボウルに布を被せてからセノはふぅと一息ついた。▼が起きてくる頃には生地を伸ばしても良いだろう。チャパティに挟む具材を切るのも▼が起きてからで良い。時計を確認し、手を洗ってから寝室の様子を見るためにキッチンを離れた。
寝室の様子はセノが出ていった時と変わらない。透き通った光と、鳥の鳴き声、そして慣れた寝台だ。ひとつ違うことといえば、▼がセノが寝ていた位置に移動しており、セノが使っていたブランケットを掻き抱いてすやすやと健やかな寝息を立てていることか。
落ち着く場所を探し、安心出来る状態をつくって眠る。生き物として当然の行動だろう。▼が安心出来る状態≠フなかに自分の気配や匂いがあることをセノは知っている、だから彼女が眠る姿を見る度に愛おしく思うのだ。自分が▼を大切にし、▼もそれに応えてくれている証のようで、心のやわい部分が穏やかに満たされていくのが分かる。
まろい頬を手の甲で優しく撫でて、寝台を出た時と同じようにそうっとセノは寝室を後にする。「お腹すいた」と起きてきた▼にこたえて、穏やかな朝食の時間を迎えるために。