名を呼ぶ声と同時に腰を襲った衝撃のまま▼は地に倒れ込む。強かに後頭部を打ったが、幸いなことに石などのない柔らかい草の生えた地面だ。痛いことに変わりはないのだが。
「……レザー、どうしたの」
「見つけたから来た」
そう、としか帰すことができなかったのは、レザーは本当に言葉にした通りのことしか考えていないと知っているからだ。今回だって本当に自分の姿を見つけたから寄ってきたのだろう。意外と甘えん坊なのか、レザーがこうしてくっついてくることは多い。
仰向けに倒れたままの▼に馬乗りになって鼻先を摺り寄せる姿は彼の家族たちにそっくりだ。ぺろと舐める舌先だけは狼のものと違う自分と同じ人間のもので、「これは傍から見たらすごい光景なのだろうな」とぼんやり考えていた▼だったが。己の唇にレザーの舌があたったものだから驚いてレザーの頭を掴んだ、少々乱暴だったかもしれないがレザーは気にした様子はない。
「甘い」
「夕暮の実を食べていたから甘いだろうね、いやそうじゃなくてねレザー。顔は舐めてもいいけど、唇を舐めるのはちょっと……やめてほしいな……」
「なぜ?」
恥ずかしいからだよ! とは言えずに▼は黙る、何故恥ずかしいかを説明するにはまずキスについて教えなければいけないだろう。そもそも彼の家族には許していることなので、ここでレザーだけに止めろというのも不公平な気がしてきてしまう。レザーも外の人間と接するようになったのだからある程度人間の常識を教えなければいけないのではという自分と、レザーと彼の家族を同じように扱わないことでレザーに疎外感を抱かせてしまうのも良くないのではと言う自分が鬩ぎ合っている。
赤い瞳とその後ろの青い空を交互にみて、しまいには唸り始めた▼に痺れを切らしたレザーが頭を振って拘束を逃れた。
「▼好き、触りたい、ダメか?」
ルピカ好き、肉好き、かけっこ好き。この三つを同列にするレザーなので他意はないだろう、しいていうならルピカ好きの部類だ。首を傾げて言われてしまえば、狼がおやつを手にした己を見上げる時の姿が重なり、唇に触れた時とは違うときめきが▼の胸に湧く。
先程まで掴んでいた頭をわしゃわしゃと撫でまわしたい衝動を抑えるように、何も掴んでいない手で己の顔を覆った。
「それは……いや、可愛いからもうなんでもいい気がしてきちゃったな……」