大マハマトラ夫妻へ。
そんなはじまりかたをした友人からの手紙を▼はなぞった。数百年残っても恥ずかしくなさそうな綺麗な文字が縁石のように整然と並んで、近況を語りかける。
スメールを離れ、フォンテーヌにいた旅人は今はモンドにいるらしく、西風騎士団の試みのひとつに手を貸して錬金薬のショップを開いているのだとか。スメールには教令院――元素学と錬金術を専門としている素論派があるため、他国よりはまだ錬金薬に親しみがあるほうだろう、特に学生は。しかし、璃月やフォンテーヌ、そしてモンドで錬金術やその産物が親しまれているイメージは▼にはあまりなかった。去年の風花祭の時にスクロースに聞いた話では、アルベドが来るまでモンドで錬金術はそう盛んではなかったらしいので、モンドに関してはあながち間違ったイメージでもないだろう。
であれば、民間にひろく知らしめるための活動として錬金薬の売買は正しいのだと思う。ちゃんとした人間が関わって運営しているのなら悪いようにはならない。旅人もだが、手紙によればこの企画の中心にはあのリサがいるというのだから安心だ。自分達にとって姉のようなあの人は、とても頭が良くてしっかりしている。
「……何の冗談だ?」
セノから零れた言葉に手紙から▼は視線を上げた。彼の手にあるのは手紙と共に小包に入っていた小瓶だ。
手のひらに収まる程度のボックスボイテルにはスメールローズを溶かしたような紫色の液体が満ちている。その色を見ただけではどういう薬効なのか▼にはとんと分からないが、素論派を卒業しマハマトラになった今でも錬金術に触れているセノにはある程度見目で分かることがあるのかもしれない。瓶の蓋を開け、その匂いを嗅いだセノはやはりどこか神妙な顔をして蓋を戻し、▼に「手紙には何て?」と聞く。
「近況と、あとは同封したものはお節介って」
「だろうな」
「さっきちょっといい匂いがした、何の錬金薬なの?」
▼の問いにセノはひとつ瞬きをした。
スメールローズの香りで確信したが、小瓶に入っていたのは簡単に分類すると魅力効果のある錬金薬だ。スメールローズが使われた錬金薬の全てがそういう効果ではないが、「お節介」という旅人の言葉もある、そうみていいだろう。錬金薬だけでなく、香油も香水も、魅力という言葉がつけば材料は大半スメールローズである。雑なようで本当の話だ。
遠方の友人からのからかいにセノは溜息をついた。相手が親しい、稀にお茶目が過ぎるあの旅人だから溜息で済んでいるが、これが下手な商人や学者であれば腕があらぬほうに曲がっていてもおかしくない。旅人は夫婦円満くらいの気持ちで入れたか、これを見たセノの反応を後々聞くのを楽しみにして入れたのか……どちらにしろ返信で釘をさしておかねば「気遣い無用」と。
鮮やかな紫色を興味津々に見る▼の頭を撫でる。
「俺達にはあまり必要のない錬金薬だ。しかし折角あいつが作ったものだし……▼が気に入ったならどこかに飾っておくといい。蓋は開けるんじゃないぞ」
「うん、わかった」