妙な距離感のふたりである。
早朝から国外船の出入りが多かったからか、花神誕祭の如く賑わうオルモス港の酒場。視線の先、真白な雲の色をした髪が砂漠の肌の色でひときわ目立つ少年……青年だろうか? その傍らには鮮やかな新芽の色をした瞳の、幼げな表情に反して豊満な体つきの少女が寄り添っている。恋人同士かと思ったが、それにしては青年の表情には子供を慈しむかのような色が宿っているし、少女も親兄弟に手放しに甘えているような表情だ。では血縁かと言われると、そもそも生まれた国すら違うように見える。青年は先の通り防砂壁の向こうに広がる砂漠の民だろう、少女に関しては雨林とも少し違う、モンドかフォンテーヌの血でも入っているのかもしれない。
テーブル席に座りながらも対面ではなく隣に座っている男女。広めのテーブル席にいる理由はテーブルの上に所狭しと並べられた料理で納得がいった、隣同士に座っているのも少女がべったりと青年にくっついているからだろう。並べられた料理を食べる合間、体を寄せたり、互いの口に料理を運んだり、青年に頭を撫でられては嬉しそうにしている。やはり、恋人なのだろうか。
烈炎花も普段の倍ほど温度の上がりそうな様子に酔っ払っいの下手な野次が飛ばないのは、時折青年の目が周囲に向けられるからに他ならない。不埒な視線の主を睨めつける様は、しなやかに伸びた木の上から睥睨するリシュボラン虎だ。屈強な船乗り達もだが、教令院の制服を着た学生の顔が水スライムのように真っ青になっていた。気にしていないのか、慣れているのか、その虎の縄張りでのほほんと食事をしていた少女は「セノ」と口を動かした、彼の名前だろう。彼女の前に並んでいた料理はいつの間にか大半が空の皿になっている。
「デザート食べたい」
「わかった。何が食べたい?」
「グジャとファールーダとねぇ、ダヒプリも食べたいな」
「それなら料理が来るまでザイトゥン桃でも切ってもらおう」
店員を呼びつけた青年は少女の要望通りに注文し、ザイトゥン桃を切るように頼む、どうやらあの青年はいま名をあげられた甘味の全てが少女の体の中に納まると思っているらしい。空の皿を何枚も重ねて持った店員は少しばかり崩れた笑顔で厨房にもどっていった。気持ちはわかる、少女の体のどこにあれらの食べ物が入っているのか不思議でならない。
最後の皿の最後の一口を食べ終えて、幸せそうに少女は顔を綻ばせ、それを見た青年も口許を緩めた。兄妹のような、恋人のようなふたりは、船乗りや漁師特有の荒々しさが目立つ酒場の喧騒の中でも穏やかな空気をまとっている。
「美味かったか?」
「すごく美味しかった! でも、どうして今日はなんでも食べていいの?」
「この間先生が新しい絨毯を持ってきたのも、リサがはるばるモンドから葡萄ジュースを一箱送ってくれたのも、▼がたくさん食べていいのも、今日が結婚記念日だからだ」
「そうだっけ」
「そうだ」
そうなのか。
落雷のような衝撃に思わずフォークを取り落とす。夫婦といわれれば納得をするような、しないような。再びフォークを手にして自分の食事を進めた。
一足先に提供されたザイトゥン桃を少女にすすめて、青年は二切れほど食べたあと少女を眺めている。食料を優先して与える姿は求愛給餌のようだ、そうでなければ番の片割れに餌をやっているか、親鳥が雛に餌をやっているか。どれにしろ、自然にそれを行い受け入れていることで彼らの普段の生活が見えるようだ。恐らく霧氷花も融けている。喉の乾きを覚えて水を飲み、視線を上げた。
赤。
「先程からずっとこっちを見ているが、何か用か?」