ぺち、ぺちぺち。
この小さな音は▼の素足が、同じように素肌を晒しているセトスの足にぶつかっている音だ。まぁなんとも気の抜ける音である。それがしばらく続いているものだから、セトスは使用している椅子の足元――カーペットの上に転がっている▼に目を向けた。その姿は、先日フォンテーヌからきた観光客に見せられた写真にいたプクプク獣が浜辺に転がっている姿に似ている。尾びれではなく足先が揺れて、ぺちと音を立てた。
「▼、なにしてるの?」
「……」
ちらと視線をよこして眉を寄せているので、セトスは少し困ってしまう。
この少女はセトスの事を嫌ってはいないが、どうにも態度はひねくれていると知っている。それなりに感情は理解できると思っているのだが、このように何も言わずただただ物理的に干渉をしてくることは珍しかった。何かしたかなぁと記憶をさかのぼっても、▼が特別不機嫌になるようなことはしていないはずだ。
果物を切り終えたセノがキッチンから戻ってきたので、セトスは助けを求める。
「ねえねえセノ、▼がずっとこうなんだけど」
「ん? ……ああ、眠いだけだろう」
「ええ、小さい子供じゃないか。ほらほら▼、寝るならせめて上に上がりなよ」
大マハマトラの家のリビング、酒場にも置かれているような大型の椅子は寝台としても使えるものだ。その真ん中を陣取っていたセトスは端に寄ると、いまだじっと見つめる新芽の瞳に笑う。言われてみれば、眠くなってむずがる子供のようだった。普段の▼からはあまり考えられないが、己の家、セノの傍ならこういうものなのかもしれない。
小さく唸りながら体を起こした▼が這うようにやってきて椅子にあがった。そのまま横になると、少し丸まって目を閉じたので、セトスはその柔らかな髪を撫でる。セトスの記憶にはないが、昔の自分もこのように赤子の▼の髪を撫でたのだろうか。▼はくぁとあくびを一つして寝入ってしまったので、椅子の隅に丸まっているブランケットを手繰り寄せてかけてやる。……と、烈日の赤い視線を感じて、今度はなんだとセトスはきょうだいを見た。
切り分けたザイトゥン桃を頬張っていたセノが果肉を飲み込み、その瞳をやわらかくする。
「仲が良いのはいいことだと思っただけだ」
お前たちが仲がいいと俺も嬉しいよと続いた言葉に、普段の▼の己への態度を脳裏に描いたセトスは盛大に首を傾げたが、寝姿を晒しても大丈夫という判断をうけていることはそれなりに仲が良いのだろうということにした。