▼が過ごしていた場所と同じように、一年が十二に区切られ季節が巡るテイワット。この世界の多くの人々は、己や親しい人物の誕生日を祝う。
九月九日といえば、レザーの誕生日――森に捨てられた彼の正確な誕生日であるかは疑問だ。ルピカとなった日かもしれないし、レザーという名のついた日かもしれない。▼になる前の▼にとっては興味のないことだったので、▼の記憶にはない。まあ、レザー自身が誕生日としている日だ。
誕生日は嬉しいもの。人間と触れ合うようになってから、レザーはそういう認識をしているようだった。誰かの誕生日には肉や花を用意していたし、旅人の誕生日には祝いの言葉をかけていたのを見た。成長したなぁとしみじみ思ったことがつい昨日のようだ。
それはさておき、レザーのことをどう祝おうか。▼は何も準備をしていない。準備が悪いと言われればぐうの音も出ないのだが、誕生日というものを重要視していない為に忘れていた。
肉は旅人が用意していそうだ。冒険に付き合うのは自分よりベネットやクレーが向いている。大剣は先日どこからか新しいものを持ってきていたし、衣類はレザーが着るとは思えない。
傍らに寝転がっている狼を撫でて、その身についたググプラムを取る。
「食べ盛りだし、やっぱりご飯がいちばん無難な気がするなぁ……。ね、どう思う? ご飯貰ったら嬉しいよね」
聞いてみればぶんぶんと尻尾が揺れた、ルピカ的には大いに有りのようだ。明日のご飯のリクエストでも聞いてみようかと頷いていると、不意に三角の耳がぴんと立ち上がった。警戒はしていないので、家族の誰かがこちらにくるのだろう。▼の耳が森を駆ける音を拾い始めると、その足音で誰がやってくるかわかった。この奔狼領の森で、狼に警戒されず二本足で駆けるものは▼かレザーしかいない。
「▼!」
緑の間から白い塊が飛びついてくる。
間を置かずぎゅうぎゅうと▼を締め付けてくるレザーはルピカの上にも乗り上げているが、相手は慣れているので呑気に欠伸をしていた。
「おはようレザー。お誕生日おめでとう、ご飯を作る以外でなにかして欲しいことはある?」
「▼、おはよう」
ひとまず挨拶をしてから、問いに対してレザーはううんと考えはじめる。
レザーからしたら▼はいつも「してほしいこと」をしてくれるので、改めて何かあるかと言われると難しい。頭を撫でて欲しいと思うけれど、今まさに頭を撫でられている。葉やググプラムを取って、髪を梳いて、優しげに自分を見る存在にこれ以上なにを求めればいいかわからずに首を傾げていたレザーが、はっとなって青い目を見た。
蒼紅が交わって数秒。体を離したレザーが、幼子が抱っこをせがむように両手をのばす。
「ぎゅってして欲しい」