はつこい
リンクスに初恋について聞かれたと話しながら、▼がコーヒーを啜りながらつまらなさそうに雑誌の恋愛相談を眺めている。この男に恋という言葉は似合わないなと思いながら、ジェパードは朝食のパンにバターを塗った。ジェパードが覚えている限り複数人恋人がいたことがあるのだから、もしかしたら恋の一つくらいはした事があるのだろうか?
「君はなんて答えたんだ?」
「した事ないから知らないって言った」
想定内の答えにため息が出る。
一応いまジェパードと彼は恋人関係にあるが、ジェパード自身▼から恋というものを向けられるとは思っていないので、彼が「恋をしたことがない」という事にどうこう思いはしない。歴代の恋人に不誠実だったのではと思うが、「付き合ってくれと言われたから付き合った」と平然と言ってのける人間には関係の無い話だろう。
「お前の初恋は?」
「君だが」
紛れもない真実である。
悔しいことに、ジェパードの初恋も今抱えている恋も目の前の男のものだ。色々な事が原因で、もはや恋と言えるほど可愛らしい感情ではなくなっているが、仕方の無いことだろう。
「趣味悪いな」
珍しくはっきりと顔を顰めた▼は人生で初めて強く向けられた好意を思い出し、続けて恋とかいうものが人を変えてしまうことを思い出していた。ジェパードが恋をして何がどう変わったかなど分からないが、初恋がもう少しマシな相手だったら▼も彼の先の人生の心配をせずにすんだだろう。カップを傾けて苦い液体を喉に流し込んで、雑誌を閉じる。
「自分のことだろう」
ジェパードは赤い瞳に一瞬浮かんだ嫌悪について深く考えるのを止めた、理由を問いつめても答えは返ってこないと分かっている。▼が言う通り、この男が好きな自分は趣味が悪いのだろうなと考えた。どうしようもないことだ。