どうしようもない



 石に刻まれた文字を目でなぞる。生年と享年にこの墓の主の生きた年数を数え、それが自分よりも短いことに▼はいつも不思議な気持ちになった。あの人間の時が延びることはもう無く、いつだって死者を置いていくのは生者なのだと思い知る。

「また来ていたのか」
「お前もな、また俺の墓参りか?」
「ああ」

 ▼の墓参りをする時は花を持ってきているらしいジェパードは何も持っていない、もう自分の墓に花を置いてきたのだろう。
 律儀だなと思う。生きていることが分かったのだからもう墓参りなどする必要はないだろうに、ジェパードは度々▼の墓参りをする。▼は墓というのはただの石でしかないと思っているが、己の墓は棺の中に何も無ければ本人も生きている、本当に言葉そのままただの石だ。足を運ぶ時間も花を買う費用も無駄ではないかと言う気は、同じように墓にいる時点で失せてしまった、自分も律儀に花まで買ってしまっている。

「君がこうしてずっと誰かの墓の前にいるのは珍しいな」
「そうか?」
「死者に祈ることに意味があると思っていないだろう」
「お前に言うと怒られると思って言わなかったのに」
「そのくらい分かる」

 だってここには何もいないだろ、とは言えずに▼はまた石を眺めた。
 飲酒していたり薬物を使用しているならその限りでは無いが、ただの石が祈りや願いに返事をするわけが無いのだ。気持ちの整理をするためと人は言うが、▼にはよく分からなかった。自分が今こうして同期の墓の前にいることは、気持ちの整理をしたいからなのだろうか? 少し違うような気がした。どうにもならないと知りながら、自分の中に答えがないことを、もういない人間に聞きに来ている、虚しいことだ。

「お前って俺の墓見て何思ってたんだ?」

 ふとした疑問をジェパードにぶつけて、▼は少し後悔した。近年泣いたところなど見せたことがない男が、瞬きよりも短い間泣きそうな顔をして、そうして前線にいる時のような厳しい顔になる。「乗り越えられただけで傷ついていない訳じゃない」とセーバルに言われたことを思い出した▼は、流石に申し訳ない気持ちになって俯いた。やっぱりいいと顔を上げて、青い瞳と目が合う。

「どうして勝手にいなくなったのだと、君を責めていた」
「お、おう」
「どうして君を守れなかったのだと、自分を責めていた」
「いや、そんなのは仕方ないだろ。だってお前はあの時いなかったし、どうしようもなかったんだから」
「そう、どうしようもないことを思っていたんだ。……さっきの君も、そういう顔をしていた」

 珍しいと思う、そう続いた言葉に▼は今度こそ沈黙する。そんなに顔に出ていたのかと軽く言うことも、そんなんじゃないと笑って否定することもできなかった。どうしようもないことにさっぱり言葉が出てこず、ただ悲しげな青い瞳が目を逸らすところを見送った。

「帰ろう」

 シルバーメインの装備をしていない手が手首を掴んで突然歩き出したので、虚をつかれて前のめりになった体勢を立て直す。その一瞬がまるであの墓への未練のようで、▼は少し笑ってしまった。
 どうしようもない。
 





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