夢路には

※極

 修行に旅立っていた鬼丸国綱の帰還からしばらく、すっかり日常の中に鬼丸の姿を取り戻した末が縁側の桃を眺めてふと零した。
「あなたがいないあいだ、わたくしのゆめのなかにあなたがいたわ」
「……そうか」
 妙な間をもって返ってきた声に目を緩ませると、末は隣に座る鬼丸にしなだれかかった。鬼丸はもう身を固くすることもなく柔らかな体を受け入れている、彼の肩にかかった上着をちょいと摘まんで見上げた末の真っ赤な瞳が楽しそうにきらめいて、西洋の甘ったるい酒のようにとろりとした声がそっと囁く。
「あなたにはひとのゆめにでるいつわがあるでしょう? だから、あなたがゆめにでるほどわたくしにあいたかったのかとおもったのよ」
 夢を見ていた。人と鬼の違いに悩み、迷いに触れる旅の合間、鬼丸は主たる鬼の姿を夢に見ていたのだ。同じ夢を共にしたのかは分からないが、鬼丸にとって数日間の夢は心地よいものだった。だから末の言葉に何も言えず、かといって今まで通り言われるばかりでもいられず、ただただ末の赤い瞳を見つめかえした。
 ほんの少しの沈黙。風に舞った花びらがさらさらとした白髪に咲いたので、鬼丸はそれにそっと手を伸ばした。
「逢瀬を望むのは悪いことか?」
「ゆめぢには あしもやすめず かよへども うつつにひとめ みしごとはあらず……」
「その通りだ」
 捕まえた花びらを再び風に流し、その手でまろい頬に触れる。刀剣男士の指を人間と変わらぬ温かさで迎えた鬼は悪戯に頬を擦り寄せると目を閉じた。
「ねぇ、すこしねむるわ」
 先程よりも明確に鬼丸へ体を預けている様子が彼女の里の者からしたら数回目を擦るようなものであることも、流れる白髪に隠れた耳が淡く色付いていることも、鬼丸は知らない。なんの躊躇いもなく「主」と呼べるようになった者の気侭な様子に小さく笑い、長い睫毛が落とす影を眺める。
「……あんたの夢の中にいる鬼でも斬ればいいのか」
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