余計な一言が招く

 美しいかんばせに不安が濃く影を落とし、涙で潤んだ赤い瞳が縋るように視線を彷徨わせる。儚げという表現が正しく、守りたいという感情が湧いてもおかしくないそれを前に、鬼丸国綱が抱いたのはうっすらとした恐怖と気味悪さだ。
「つまり、演練相手の審神者と中身が入れ替わっていると」
「ええ、そうね。もんのいちじてきなふぐあいのようだから、せいふがなおしたあとにおなじことをすればもとにもどるそうよ」
 どこか拙くのんびりとした口調で、しかしそれを紡ぐのは知らない顔と声だ。鬼丸がじっと黒い瞳を見つめると「あのこがかわいそうだからやめなさい」と窘められる、人の体に入った鬼は、人の子には優しかった。演練相手の近侍である加州清光が、己の主を心配する合間に末の入った主の体を見てなんとも奇妙な顔をしている。どうにも相手の審神者と末は真逆の性格をしているようで、体と中身のバランスが悪い。刀剣男士として顕現してからいきものの魂の輪郭のようなものをなぞるように感じとることができるが、末の魂は他の器のなかにあっても己の強さを主張するようだった。
 末の声が加州清光の名をなぞる。呼んだのは末ではなく相手の審神者だ。呼ばれた加州清光が内緒話でもするように顔を寄せて一言二言口にすると、末の顔が笑いの形をとる。中身が少女なのだから当然だが、本当にただの少女のように笑った。
 おにまる、と知らぬ声が鬼丸を呼ぶ。
「ねこをさがしてきて」
「政府の施設の中に猫がいるわけないだろう」
「いまなら、うんとかげんをせずともねこやいぬをさわれるでしょう。さわりたいの、はやくつれてきて」
「いても管狐か鳴狐の連れている狐だ、我慢しろ」
 口答えするのかいうような視線、その目の動きは元の体にいた時と変わらない。我儘加減も人の体に入ったからといって大人しくなるものではないようんで、鬼丸は少しばかり安堵した。安堵してから、己の中で末のあの傍若無人さがすっかり受け入れられていることに気付いてしまい、それは大きな溜息となって零れ出た。他人の入った末の身体が跳ねて、怯えの色を持って鬼丸を見る。
「……気味が悪いな」
「いまのからだだと、あなたのほほをはったらてがきずついてしまうわね、ふべんだわ。しゃざいだけでけっこうよ」
「すまない」
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