おさなご

 幼子を腕に抱いている。
 時の政府の施設、待合室で鬼丸は検査の結果を待っていた。鬼丸にどこか異変があったわけではなく、主である末が幼い子供の姿になっていることが異変だ。足元をちょろちょろされると視界に入らず蹴りそうで怖いという理由で鬼丸の腕の中にいる白い頭の子供は、思ったより大人しく時をすごしており鬼丸は安心した。肉体だけではなく中身まで子供の頃に戻っているようで、どんな癇癪や我儘が飛んでくるかと臓器の一部が痛む思いだったのだ。本丸の他の刀剣達は末の我儘の対象になることが少ないので「身体が小さいと大変そうだな」くらいの感想で終わっていた、もう少し気にかけてやるべきことがあるんじゃないか? と鬼丸は思ったが、黙っていた。
「おにまる」
「どうした」
「あまいものがたべたいわ」
 常識の範囲内の要求だ。本丸を出る際、側仕えに持たされた飴を取り出すと末は赤い瞳をきらきらと輝かせる。当然なのかもしれないが、幼い頃は相応に感情が顔に出ていたようだ、大きい末はいつも妖しげに笑みをのせているから少し新鮮に感じる。
 膝の上、コロコロと口の中で飴を転がす姿は普通の幼子と変わらず愛らしい。粟田口の短刀達にしてやるように髪を撫でると末が大きく頭を振った、嫌だったようだ、鬼丸も正直そんな気はしていた。バランスを崩す、飴玉が変なところに入っては危ないだろうと鬼丸は小さな体を抱え直す。
「おい」
「あなた、あるじのなまえもおぼえられないの?」
 にこにこと笑いながらの言葉に、小さくても末だな……とある種の感動を覚えた、自分より大きな生き物にこうも高圧的に出られるところは昔からの気質か。これがいつか、自分が他者に劣ると思ったことがなさそうな自信家の暴君になるのだ。
「……」
 鬼丸は片手で足りる程度の回数しか末の名前を呼んだことがない、「あんた」「主」で事足りており、呼ぶ必要がないからだ。なにより、名前で呼ぶより主と呼ぶほうが末は喜んでいるような気もした。
「末」
「さま」
「あんた」
 べち、と腕に衝撃。痛くないが叩かれたらしい、頬をふくらませた末はたいそう不満気で鬼丸は思わず笑みを零した。これが大きな末の全力の平手であれば、こうも呑気にしていない、鬼の身体能力は刀剣男士に傷を負わせられる。それが今、「べち」などという軽い音ですむような力になっているのだから、微笑ましくもなる。
「……愛らしいことだ」
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