どうか空の女神よ


 温泉郷ユミル。状況の整理や今後の動きを考えるため、なにより心身を休めるために今日一日は休みということになった。
 スノーボードをしてみたり、ユミル饅頭の製作に付き合ったり、マキアスとチェスに興じたり、裏山でシャロンから突発的な訓練を受けたり……。雪の積もるユミルで皆が思い思いにすごす様子を見ながら、リィンも暫しの休息を楽しむ。
 故郷にZ組の生徒がいる……思い出すのは、やはりルーレの特別実習のあとに皆できたユミルだろう。学院祭の出し物について話し合ったり、温泉に入ったり、怪盗Bからの挑戦をうけたり。そう、あの時はZ組みんながいて、当然クロウもその中にいて、彼女も。

「……メリル」

 今はどこにいるのだろう。そう思いながら雪が落ちてくる灰色の空を眺める。
 貴族派の旗艦であるパンタグリュエルに乗っていると双龍橋で耳にした。蒼い騎士人形と一緒に西部の戦線で活躍しているのだと、帝国時報で読んだ。どれもこれも人伝でいまいち実感が湧かない。彼女がこの内戦の真っただ中、最前線で戦っているということへの実感が。
 鳳翼館にいけば、あるいは自分の家である男爵邸に行けば、『リィンさん』と聞こえてきそうだと思ってしまう。Z組の誰かがユミルを歩いていると、その横にいるのではないかと思ってしまう。それはあの灰色ではなく、明るい茶髪のメリルを思い浮かべてしまうのだが。

『できれば、もう二度と会わないことを祈っています。……さようなら、リィンさん』

 あんな別れ方をしたからだろうか。離れてからというものの、妙に彼女の事ばかり気にしてしまう。
 それは、普段の学院生活や実習の中で些細な事でも気付けていたら少しは変わっていたのだろうかという、遅すぎる後悔からくるものでもあるのだろう。思い返せば確かに様子がおかしい時は何回かあったのだ、思い返してどうにかできるものではないが……。

(まだ、これからだ)

 堂々巡りの思考に区切りをつけようと、緩く頭を振る。
 Z組の皆と合流することが当面の目標だ。その先の事はまだわからないが、それでもクロウやメリルに会うことはできると思っている。いや、会うつもりでいる。だから、もし会った時には聞きたいことが沢山あるのだ。もちろん、言いたいことも沢山あるが。
 全員で会いにいって教えたい、”もう二度と会わない”なんてことはないのだと。
 あの祈りばかりは、空の女神もどうか受け取らないで欲しいと思ったのはきっと。さようならの声色が、今も寂しく耳に残っているからだろう。

12月、ユミル休息日



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