雨音/another
雨音を耳に、メリルは繕い物からそっと意識をはずし、目の前で読書に勤しむリィンを盗み見た。
指が紙を擦る音、一定のリズムで捲られていくページ。リベール王国で出版された大衆娯楽小説だったか。普段そういったものを読まないのだが、彼や周りの感想次第では読んで見たいと思った。彼等――Z組の人間から与えられるものは、いつだって、いつからか、メリルをメリルたらしめるものの一つになっていたから。手にしてみたい。求めて見たい。そう思える勇気を貰ったのだと思う。
ふと文字を追っていた目が留まって数回瞬き、そして上げられようとしていた。慌ててメリルは目線を下げる。何故だかじっと見られているような気がして、落ち着かない。自分の心臓の音が雨音よりもうるさく思える。じわじわ、顔が熱をもっていくようで。いつの間にか手に力がはいっていたのか、フィーの上着に皺がよっている。
「リィンさん、何か御用ですか?」
落ち着いてと心がけたが、少し声が上ずっていたような気もする。まっすぐに見た薄紫の瞳が少し揺れて、次いで「なんでもない」と返される。文庫本に戻った視線はまた文字を追い始め、指かページを捲る。それに少し安心したような、残念なような。相反した感情を覚えながら。メリルもまた繕い物に集中しようとした。
何故だか胸が燃える焔のようで、それは叶わなかった。
停泊中のカレイジャスにて、主視点