優しさは美徳である


 優しくあることは、美徳であると思う。
新学期が始まり、ライノの花が咲く中でリィン達は二年生としての生活が始まっていた。その中で、かつてトワ達がそうしていたように、リィン達二年生が新入生に手を差し伸べ、助けるのは当たり前だ。生徒会の手伝いが、新入生関連のものばかりになっているのを見て、改めてそう思う。
そう、思ってはいるのだが……。

「なぁ、メリル」
「はい、リィンさん」

 リィンの声に、制服を繕う手を止めて顔をあげたメリルが微笑む。身にまとう紅い制服は以前と同じまま、髪色だけは彼女本来の柔らかな灰色に。
校舎二階の共有スペースのソファに、校内でたった二人の紅い制服を着た人間がならんで座っている。嫌でも目立つ光景だった。いや、リィンからしたら目立ってくれた方がありがたい。とにかく二人が特別な関係にあることを周囲に、主に新入生に認知してもらいたかった。あまりにも形振り構わない自分の行動に、思わず苦笑いをしてしまう。
理由はさまざまであったが、一番はメリルの善意からくる行動にあった。

「新入生にも在校生にもメリルが優しいのは前から知ってるし、俺もそれはいいことだと思うんだ。」
「えぇ、トワ様たちがしてくださったように。わたくし達も一年生達になにかしてあげるべきですもの。もちろん、同学年の皆様にも」

 リィンも無論それは理解している。
しかし、悲しいかな人間は勘違いをする生き物だ。そう、つまり、メリルの善意を好意と勘違いする生徒が出てきてもおかしくはない。要請はあれど、ようやく平穏に二人で学院生活を送れるようになったというのに、そんな邪魔をされたらたまったものではない。……というのがリィンの本音だった。
だがメリルはそんな事は何も考えてはいないし、何度も言うようだが彼女はすべて善意で行っている。他人に何かをして喜んでもらうことが、彼女の喜びであることもリィンはわかっている。だから、"止めろ"とは言えないのだ。妥協策が必要だった。
 黙ったリィンの表情からなにか感じ取ったのか、メリルはその二色の瞳を不安げに揺らした。

「リィン様。わたくし、なにか気に障るようなことでもしましたか?」
「いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくて、そうだな……。新入生の手伝いのことなんだ。困っている生徒がいたら声をかけるのは良いことだと思う。ただ、女子生徒だけにしてくれないか? 別に男子生徒を見捨てろって言うんじゃなくて、そっちは俺がなんとかするからさ。同性だから頼みやすいこともあるだろ?」
「……確かに、異性だとお話し難い事もありますものね。わかりましたわ」

 納得して頷くメリルに、リィンはほっと息を吐く。なんとか自分の本音を、たくさんのオブラートに包んで良い方向に持って行けたと思った。
これでリィンが、新入生からメリルに向けられる憧れとも好意ともつかない視線にやきもきする機会も減っていくだろう。二年生はリィンとメリルが恋人であるということを、当然のように理解しているので、下手なことはしないのだが……。
こういった話を先日アランとしたばかりだった。彼は彼で恋人のブリジットが心配らしい、奇妙な親近感をもってリィンはアランと話していた。その日のその会話も、『周知徹底が望ましい』、そう結論付いたことを思い出す。

「なぁメリル。キスしていいか?」
「えっ……と、寮に帰ってからにしていただければと」
「半分冗談だよ」

 半分は本気だったのですね。と頬を赤くしたままのメリルを眺めていると。自分が嫉妬と牽制で物を言っていることを、きっと彼女は理解していないのだろうなと、リィンは思った。
もちろん、ずっとわからないままで良い。どこまでも自分の為の、子供っぽい行動なのだから。それはそうと、寮に帰ったらキスをしていいんだな、そう頭の片隅でぼんやりと思って、時計を眺めた。放課後になるまであと三時間。

2年時、嫉妬する人



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