先輩と後輩


 『まぁ』とのんびりした声を上げるメリルの前で、クロウは四度目となるブレードの勝負を終えた。

「クロウ様はお強いのですね。はい、クッキーですわ」
「いやこれは……これは、後輩ちゃんよ、たぶんすごい弱いぞ」
「まぁ……」

 今度は困ったような声をあげて、メリルはほっそりとした手を頬にあてた。
 クラスメイトとブレードに興じる機会ができたらしく、今回キルシェの一角でクロウと勝負をすることになったのもブレードの経験を積むためだった。トリスタの子供達と共に、どこから聞きつけたのか手作りの菓子をもって。
 四度目の勝負が終わったいま、クロウの傍には小分けされたクッキーが四袋。そう、クロウの全勝だ。

「皆様のお相手さえできるのなら、わたくしがブレードに勝てなくても特に問題はありませんし……」
「いーや。勝負事である以上、相手は強ければ強いほうがいい。きっとあいつらもそう思ってるぜ」

 あいつ等……Z組の事を強調して言うと、さすがのメリルも顔色を変えた。しばらく考えた後、難しい顔をしてクロウを見る。

「イカサマ……は、難しいでしょうか」
「思ったより考えることが俗っぽいな!?」

 思わぬ一面を見てしまった、そう思いながらクロウは戦利品の袋に手をかける。バターの香りが仄かに広がり、キルシェの中に溶けていった。

::4月 ブレードが苦手



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