おもちゃばこ


 それで、とメリルはベッドの上で正座するリィンに声をかけた。
 平時よりやや険のある声の原因はベッドサイドに置かれた箱のせいだ。リィンの持ち帰った紙袋からでてきたそれは、白地に濃いピンクで装飾がプリントされ可愛らしい印象を受ける。問題はその中味で、震える声で自身の名前を呼んだメリルの冷たい目線にリィンは居住まいを正したのだ。

「一応、弁解させてくれるか。教え子からの貰い物だ」
「……捨ててもよろしいですか? 」
「まっ、待ってくれ。やましい理由で貰ったわけじゃない!」

 訝しげな表情を崩さずにメリルはリィンの話の続きを待った。
 卒業生のひとりが久しぶりに学院を訪れた。小さな導力機器の企業に就職した彼は商品開発の道を楽しく歩んでいるようで、充実した毎日を送っているらしい。そんな教え子の話を聞いていると、「教官も協力していただけませんか」と話を持ちかけられたのだ。周囲に使ってくれる人間がいないことと、購入者からの超えがあまりないせいでアイテムに対してこれだという確信がもてない。リィンにはパートナーもいるしよかったら使って感想をくれないか。夜の営みを彩る道具――つまり淫具の試用者になってくれと、そう言われたのだ。

「事情はわかりましたわ」

 その言葉にリィンがパッと顔をあげると、そこには箱を持ち上げていまにも床に叩きつけようとするメリルがいた。いつになく行動的なその姿にベッドを降りたリィンが止めにかかる。中身はともかく、一応貰い物ではあるのだ。
 メリルが羞恥で瞳を潤ませながら普段より少しばかり大きな声を出す。

「こ、これを使えと。しかも感想までつけろと、そうおっしゃるのですか!?」
「感想はできればでいいらしいんだが。本人のモチベーションを考えると、やはりつけたほうが良いと思うんだよな」
「……リィンさんのお人好しを少し恨みましたわ」

 それに、とリィンは言葉を続ける。
 視界をやった箱の中には見たことや知識はあっても縁のなかった道具のいくつかと、使えと言わんばかりに小さなローションのボトルが入っていたはずだった。
 マンネリ防止に、と教え子の声が思い出される。マンネリ化した覚えはないが、まあ悪くないのではとリィンは思ったのだ。もちろん、好奇心もある。

「俺は少し、使ってみたいんだが」

 ちら、とメリルの様子を伺う。
 真っ赤なまま俯き視線を右往左往させるその姿に、あと一押ししたら頷くだろうなと思いながら手を伸ばす。自分より小さな手を握り、異なる虹彩を覗き込む。揺れた瞳がリィンの紫色の瞳とかち合って、困ったように眉を下げた。

「少し、ですよ」
「メリルは本当に俺に甘いなあ」

 先程まで正座していたベッドに引き込んでするりと背中をなぞると、「リィンさんのばか」と小さく呟かれた。可愛らしい反抗にくつくつと喉の奥で笑うと、メリルが唇を引き結んだので機嫌を損ねたかと顔を覗き込み、そして安堵の息を吐く。
 まだ何もしていないというのに、耳まで真っ赤に染めた顔がそこにはあった。

::これはあげてOKなのか?と3分くらい悩んだので恥ずかしくなったら下げます



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