おさないゆめ
高く賑やかな声の方向へリィンの視線が向く。住宅の多い区画だからか、ほかより子供が多いのだ。いまはちょうど日曜学校の帰りだろうか?女の子たちが集まってなにやら話しているようだった。
その横を通り過ぎる時に子供たちの視線が痛いほど自分達に向けられる。同性から見てもメリルは綺麗だからとリィンは思い、小さな子供からみてもリィンさんは素敵だろうからとメリルは思っていた、ほんの一瞬の沈黙。
また喋りはじめたその声の先を拾い上げて、リィンは歩みを止めずに小さく笑った。隣を歩く人が笑ったので――いや、メリルの前ではだいたい柔らかく微笑んでいるような人ではあるが。不思議に思ったメリルが見上げると、その視線に気付いたリィンが歩みを緩めた。
「お嫁さんになるのが夢、って聞こえて。可愛いなと思っただけなんだ」
エリゼさんが同じことを言っていたら卒倒しそうだ、と思ったが口には出さずにメリルは通り過ぎた道を振り返る。
ちいさな女の子たち。
自分があのくらいの頃、『お嫁さん』だなんて考えたこともなかった。そもそもメリルは嫁入りするにしてもお見合いで、とてもお嫁さんだなんて可愛い響きが似合うことはなかっただろう。そう生きると思っていたのだ。最近は少しだけ、お嫁さんという柔らかな響きが自分と同じ世界のものであるように思えるようになった。柔らかな世界に自分が在ると、柔らかな世界をくれる人がいるのだとわかったのだ。
眩しそうに目を細めてから、メリルはリィンと同じ道の先を見る。
「わたくしも、同じ夢をみているのです」
そうして、ゆっくりとリィンの小指の先を握った。
手を繋ぐなんて慣れたことのはずなのに、まるで初めて握るように心臓の音がうるさくて、メリルは思わず息を止める。一秒待たずにふっと息を吐いて、すみれ色の瞳を見つめた。
「お嫁さんになりたい、と、夢みていますわ」
見つめて、胸の奥から苦しくなって俯いたメリルは、自分の爪先を眺めて歩く。頬ばかり熱くなって、外気の冷たさを感じている。また、沈黙。
ふっと手の中にあった小指が抜け出て、今度はメリルの手を包むように握った。メリルに柔らかな世界を与えてくれる手のあたたかさに足を止める。同じように足を止めたリィンは、そのすみれ色に柔らかな感情を湛えてメリルを見ていた。
「次の夢をはやいところ探してもらわないといけないな」
その言葉の意味がわからないほど、他人ではなかった。
::求婚の日の小話でした。