Parfum


 ふ、と隣に座るメリルの香りが鼻を擽る。
 いつも感じる人を落ち着かせるような淑やかな花の香りではない。満開の花が蟲を誘うような、どこか艶めかしい華やかな香り。この匂いにリィンは覚えがあった。自分が選んで彼女に贈った香水だ。
 エリンの里に咲いているあの花の香りもメリルには合うと思うのだが、あれはどうも別の人物を思い出してしまいそうで、最終的な候補からは外れていた。最終的にカルバード共和国で人気があるという店の物を選んでみたのだが、正解だったようだ。
 黙っていたリィンを心配するように見上げるメリルの耳元に鼻をよせると、彼女のにおいと、香水のにおいがする。突然縮まった距離にメリルは驚いていたが、下手に動かないほうがよいと判断したのか、少し体を硬くしてそのままでいた。

「いい匂いがする。明るい印象になるな、いつもの香りとどっちも好きだ」
「先日頂いた香水をつけてみたのですが、あの」
「メリル?」

 声を上ずらせるメリルに、今度は疑問符を浮かべて様子を窺う。ちらと見える耳が僅かに赤い、ということは頬は言わずもがなだろう。

「耳元で喋られますと、その、変な気分になりそうで」

 ああ、とリィンは納得する。
 彼女は耳が弱いのだった。今も小さく笑ったリィンの息に、縮こまらせた肩を揺らす。その様子をみて可愛いなとリィンは笑みを深くした。自分の感情などを隠すことが得意な彼女が、ここまで素直に反応をみせてくれるのだから。

「大変だな」
「リィンさんが退いてくだされば、さほど大変な事でもなく解決するのですが」
「いまので退く気がなくなったからな。大変だな、メリルも」

 抗議の声をあげるメリルをよそに、その腰に手を回す。
 自分がまわりが思うほど良い人ではないと理解していたが、こうしてメリルを前にするとそれが顕著になるなと自覚させられる。ふと、困らせてしまいたいと思うその感情に、リィン自身が一番困っていた。結局、メリルがいろんな表情を見せることが嬉しいのだろうなと思う。

「もう、リィンさん」

 ああ、いい匂いがする。



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