短冊に綴る願い


 リィンを訪ねてリーヴスに足を運んだメリルは、如水庵の前に集まる分校生徒を見て首を傾げる。
 店内から溢れているという様子ではなく、店の前でなにかをしているようだ。見ていればリーヴスに住む子供達も同じように店の前に留まり、暫くしたらニコニコと笑ってその場を離れていく。置かれた折り畳み式の机で何かを書いて、その横に設置された植物――共和国の風景写真で見た竹というものに似ている、に括りつけている、ように見えた。
 何か新しい催し事だろうかと思っていると、「メリル」と聞きなれた呼び声がする。

「久しぶりだな、直接会うのは二週間ぶりくらいか。元気だったか? 」
「はい、お久しぶりですリィンさん。わたくしは特に変わりなくすごしていますわ」

 そうか、と微笑んでいたリィンがメリルの視線に気付いて如水庵に目を向けた。

「あれは……今日は七夕だろう? 店主のラドーさんが、七夕には『願い事を書いた短冊を笹に吊るす』という風習があることを教えてくれてな。笹があるから折角だし皆で短冊を吊るしたらどうだと、店先に出してくれたんだ」
「まぁ、そうなのですね。リィンさんはもう短冊は吊るしましたか?」
「いや、生徒達に任せて俺は業務に戻っていたから、まだ短冊は書いていないんだ。よかったらメリルも一緒に書かないか?」
「ええ、是非」

 話しながら二人の足は如水庵に向かう。
 学生時代にリィンに教えて貰った「七夕」、一年に一度だけオリヒメとヒコボシが会うとされている今日は、いつかと違って見事な晴天だ。このまま夜まで天気が崩れなければ見事な星空が見られるだろう。
 ウェイン達とすれ違いながら机の前にやってきたリィンとメリルに、色とりどりの短冊で飾られた笹の前に立っていたアッシュがいつもの態度で口を開いた。
 リィンの言っていた『生徒達に任せて』の中心はきっとこの青年だろう、手際が良く面倒見も良いこともメリルは知っていた。口でどんな態度をとっていてもこの場では可愛らしく感じる。そう思われている事を察したのだろう、アッシュは少し嫌そうな顔をしたあとに二人に短冊を渡した。さっさと書いてどこかへ行けということだろう。
 短冊を受けとりながら笑ったリィンがペンを片手に悩む横で、メリルも同じように悩んだ。
 願い事と言われても、この短冊に書いて良い願い事の大小がわからない。他の短冊を参考にしようと思ったが、人の願いを勝手に見るのは失礼に思えて、結局ふりだしに戻ってしまう。リィンの健康と帝国の平穏の二つに絞ったところで、アッシュとリィンが言葉を交わし始める。

「さっさと結婚できるように書いとけよシュバルツァー」
「はは、叶ったも同然の事を書いても意味がないだろう」

 一瞬。助けを求めるような、呆れたようなアッシュの視線が自身に向けられたことにメリルは気付いていたが。その話題を振った貴方が悪いですと目を逸らすことしかできなかった。アッシュの様子に気が付いていないわけがないのだが、悪びれた様子もなく会話を終えたリィンがメリルに首を傾げる。

「メリルはなにを願うんだ?」
「ええと、リィンさんの健康か帝国の平穏で悩んでいるのですが」
「巡り巡って君のためになる願いなのはわかるんだが……、もう少し直接的に自分のための願い事でもいいんじゃないか?」
「そうでしょうか。では、リィンさんのお傍にいられるようにと書きますね」

 リィンの瞳から短冊にそっと視線を落としたメリルがペンを走らせる横で、「叶ったも同然の事を書いても意味がない」と今度は言えなかった。
 同じことを願ったら確実に叶うだろうかと空白の短冊を見ながら考えだしたリィンにアッシュは大きく溜息をつき、二人よりも後から来た子供の短冊を笹に結んだ。
 
::七夕



ALICE+