白線の向こう


 導力車を目で追ったメリルの足が思わず止まり、そんなメリルにつられるようにして隣を歩いていたリィンも立ち止まる。
 見送った車体は帝国では見かけないもので、だからメリルも足を止めたのだろうなとリィンはひとり頷く。相手の趣味に付き合っていると自然と覚えるもので、リィンも導力車の車種などをそこそこ記憶していた。演習でも時折役に立っているし、なによりメリルの好きなことを理解できるのは嬉しい。

「いまのは……共和国産の導力車か?」
「はい。今春、レノから発売したばかりの新型ですわ」

 カルバードは大陸随一の導力車大国だ。戦後の好景気や国内外の情勢によって市場が拡がったこともあり、導力車メーカーからも新型車やフルモデルチェンジの発表・発売がされている。
 導力車好きにはたまらない時期なのだろうなと、目を輝かせるメリルを見て微笑む。そんなリィンはというと導力バイクに思い入れが強いこともあり、導力車の免許は取ったがハンドルを握った回数は少なかった。

「ラインフォルトがZ1グランプリへの参入を考えているという話もありますし。帝国でもサーキットが建設されていますから、いつか導力バイクのロードレースも……」

 はた、とリィンの視線に気付いたメリルが頬を染めてごめんなさいと口にする。
 恋人の楽しげな様子ならばいくらでも見ていられるのだが、残念ながら二人がいるのは道端だ。そそくさと本来の目的地に歩き出そうとしたメリルを制止し、リィンは目的地と違う方向を指さした。

「あの店で少し休憩しよう」

 その指の先、通りに面したオープンテラスのカフェは、ヘイムダル中央駅へ続く太い道路がよく見える。
 リィンの意図はとてもわかりやすく、メリルは甘やかされていることに嬉しくもあり恥ずかしくもあった。すいと当然のように差し出された腕に手をかけて頬の熱に俯きがちに歩くと、隣からは微笑ましげな、そしてどこかからかいも混じった小さな笑いの気配を感じる。

「……共和国に行ってしまいましょうか」
「行くなら俺と一緒か、せめて先に期間を決めてくれ。君が何も決めずに共和国に行くと、数ヶ月は帰って来なさそうだ」
「そんな。流石にわたくしも一週間程度で……」
「いや、無理だろうな」

 今度こそ笑ったリィンにメリルは小さく頬を膨らませた。
 観光では数回しか行ったことがない、近年雑誌等を読んで知った共和国に思いを馳せる。
 帝国に匹敵する国土を持つこともあり、地域によってがらりと景色の違う国だ。首都のように整然とした所もあれば、以前シュバルツァー一家が旅行に訪れた龍來やラングポートのように異国情緒溢れる場所もある。導力映画というものにも興味があるし、あの国なら三高弟のひとりが顧問をしていたというヴェルヌ社の最新機器を見ることも叶う。
 「楽しい」ならばメリル一人でも充分すぎるほど堪能できるが、「幸せ」はやはりリィンと共に足を運んでこそだろう。そう、ぼんやりとメリルは思う。いや思うようになったが正しい。
 おずおずと紫色を見上げ、首を傾げる。

「わたくしが共和国に行きたいと言ったら、ついてきて下さいますか……?」
「当たり前だろう。君を一人にできないし、なにより俺がメリルと一緒にいたいんだ」

 ありがとうございます、と返した声には嬉しさが濃くにじみ出ていたのだろう。リィンの空気が一段と柔らかになったことからメリルにもそれは察せられた。

「ではもし本当に共和国に行くことになりましたら、家を探さなくてはいけませんね」
「突然同棲の誘いを受けた気がしないでもないんだが。君はどれくらい共和国に滞在する気なんだ!?」



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