嗚呼そこにある君は
朝、切羽詰まった表情のリィンが洗面所のドアを開けてきた時は一体どうしたのかと思ったが、「起きたら君が隣からいなくなっていたから焦ってしまった」と言われれば、メリルは納得すると同時にここ数ヶ月のことを思って良心が痛んだ。
ルームサービスで朝食を終えた後は苦しくない程度に、しかししっかりと抱きしめられて身動きがとれなくなっている。
リィンに膝の上に横抱きに引きずり上げられてからそれなりの時間が経ったように思うが、まだ離す気はないようで時折甘えるように頬をすり寄せては腕の位置を直す。
メリルが共和国の話をしていると、それに耳を傾けながらも首元に顔を埋めてみたり、額や頬に唇を落としてみたりと普段以上にスキンシップが多いが、それもこれもメリルに全ての非がある。五ヶ月目に入りかけていた『共和国旅行』のせいだと理解しているので、これが抱き枕の気持ちなのだろうかと思いつつもメリルは何も言えず大人しくされるがままになっていた。
口付けでぼんやりと靄がかった頭で、どこまで話しただろうかと考えていたが、密着した体とぎゅうとひとつになるように更に力の込められた腕に小さく声を漏らした。
「り、リィンさん、少し苦しいですわ……」
「すまない。本当に帰ってきたんだと思うと、つい」
黙って共和国へ行き音信不通になり挙句騒動に巻き込まれたことについては、帝国へ帰国する前に通信でたっぷりとお説教を頂いている。
帝国に降り立った時はヘイムダル中央駅のホームでリィンが笑顔で迎え入れられ、その後も上機嫌な様子だったのでメリルはほっと胸を撫で下ろした。
……のだが、ホテルで一夜を明かして見たらこの様子だったので、どうしたものかとリィンの腕の中でメリルは頭を悩ませていた。
数日休みをとったと言われたが、その数日外に出ることができなさそうな調子だ。いや、迂闊に外へ出て彼の教え子と鉢合わせないことは良い事なのかもしれない。教官としての威厳であるとか、そういったものを少し守れるような気がする。
少し緩んだ拘束の中で体勢を変え、リィンを跨ぐように対面するとメリルは彼に抱き着く。
共和国の人々でも、導力機器でも、映画や文化、美しい風景でも埋められなかった隙間がリィンで埋まる。数ヶ月ぶりに感じる体温や匂い、空気を吸って生きる音を受け入れて、成程確かに一時間はこうしていたいなとメリルはそっと笑った。自分勝手に寂しがった部分があたたかいもので満たされて、満足気な息がもれた。
先程のリィンのように抱きしめる腕にぎゅうと力をこめ、メリルは全身でリィンを感じ取る。広い背中をとんとんと叩いて摩り、ゆっくりと声をかけた。相手をあやす様でありながら、実際にはメリルが甘えている。数ヶ月ぶりのいつものやりとり。
「次は一緒に行きましょう、リィンさんに見て頂きたいものが沢山あります」
「……今度は絶対に置いていかないでくれよ」