バレンタイン
「生花だと手間かと思ったんだが……」
リィンが手に持っているのは、薔薇の花束を模したチョコレートだ。
そういう時期ということもあり帝都の百貨店では催事スペースが設けられ、帝国の菓子メーカーはもちろん、本社が共和国にあるクインシーベルやリベールのメーカーも出店していた。世間一般のバレンタインのイメージ通り女性客が多いなかを見て回るというのはなかなか緊張する。普段はメリルが横にいるからかあまりにも露骨な視線は向けられないのでなおさらだった。
その中で選んだものが、この薔薇の形をしたチョコレート――昨年まではグランローズを用意していたが、生花の管理を考えて今年は手間のかからないものにしようと考えての結果――だったのだが。
「毎年、わたくしの手作りというのも新鮮味がないかと思いまして……」
メリルの白い手が持つのは照明を反射しきらきら煌めく半透明の薔薇の花束、恐らく飴細工だろう。
薔薇の花束を手にした状態で暫し見つめ合い、同時に笑い出す。
リィンから恭しく差し出された花束をメリルは受け取り、そしてメリルの持っていた花束をリィンがそっと手にする。可愛らしくラッピングされた甘い花を手に目を細めたその顔が互いの瞳にうつって、満たされた気持ちになった。
「ふふ、素敵な薔薇をありがとうございます」
「こちらこそ、綺麗な薔薇をありがとう」