君はまだ彼の夢を見る


 鳥達も目覚めていないような、夜が明けたと言うにはまだ暗い時間。部屋の暗さに慣れて、随分とものが見えるようになったリィンが目にしたのは作り物のように美しい横顔だった。顔貌は見慣れているもののはずであるのに、しんと降る静寂の中で虚ろを見る冷たい花貌は見知らぬ人形のようで、リィンの胸を酷くざわつかせる。
 彼女はきっと、夢を見たのだ。
 リィンではないリィンの夢、いなくなってしまった夢幻。
 自分とメリルが共にすごした時間よりもずっと短い時間で堂々と彼女のなかに居座る男は、彼女の夢に姿を見せるだけで、メリルをこんなにもリィンの知らない何かにしてしまう。
 リィンが名を呼べばあの白い影を想起させてしまいそうで、何時もよりいっそう人形のような顔をしたメリルがふたたび眠りにつくまで、リィンはその横顔とぐしゃぐしゃになった己の心を息を殺して眺めているしかないのだ。
 自分の形をした悪夢など忘れてしまえと思うのに、その悪夢にすら心を傾けて頬を濡らす姿に、リィン・シュバルツァーという存在自体が愛されているのだと知る。一生残る瑕疵だと確信するそれは、愛の爪痕のようでもあった。
 クロスベル事変から数年、君はまだイシュメルガ=リィンの夢を見る。



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