鎮痛剤
「頭痛ですか」
眉間に皺を寄せているリィンをみて、メリルは薬箱に鎮痛剤があったはずと立ち上がろうとする……のだが、それはリィンの手に阻まれた。
「君を抱きしめたらおさまるかもしれない」
「そうは思いませんが……」
否定しながらも、リィンがしたいと言うならメリルは止めない。今回だって、ストレスが原因だとしたら頭痛がおさまる可能性もなくはないだろう。ただ、それは犬や猫などの動物を見たり触れたりしてストレスが緩和されるとかそういうもので、メリルを抱きしめたからといって同等の効果があるとは思えないのだが……。
引き寄せられた腰に腕がまわり、リィンにひたりと密着しながら暫く呼吸を聞いていたメリルだったが、彼が何を言わないのでその顔を見る。
眉間に皺。
「なんだ、メリル」
「あまり効果はみられなかったなと思っただけですわ」
「……確かに頭は痛いけど、君があたたかいから眠くなってきたな」
寝やすい位置を探るようにもぞもぞとメリルを抱え直すリィンに眉を下げてから、メリルはその動きを制するように腕に手を添えた。動くのをやめたリィンの額に手を移動させ、その熱を感じる合間、メリルを見るリィンの紫色の瞳が普段より子供っぽく思えてメリルは微笑む。年不相応なものでも、職務や立場で浮かべられるものでもなく。年齢よりも少し幼くみえる表情に、甘えられているとメリルは実感するのだ。
時折バツが悪そうに揺れる紫色の瞳やソファで寛ぐ間に少しだけ乱れた黒髪、指先の動きひとつ。それら全てが、物分りの悪いメリルでもわかるように「甘えているのだ」と主張をしてくる。教官と呼ばれ頼られる彼のこういった姿を見ることができるのは、きっとメリルの特権なのだろう。その事がとても愛おしい。
リィンの体温のうつった手を頬にすべらせて、あやす様に撫でる。
「お薬を飲んだら、今日はもう寝ましょうね」
「今のは子供扱いだっただろう」
「どうでしょう。さあ、手を離してくださいね」
渋々といった様子で腰に回していた手を退けたリィンに小さく笑って、メリルは今度こそ薬箱に鎮痛剤を探しに立ち上がった。