あなたのかおり
「いつも使っている香水、ですか?」
ソファで並んで座り、いつも通り各々寛いでいる時のことだ。普段使っている香水を教えて欲しいとリィンに言われ、メリルは首を傾げた。常日頃から香水を愛用しているメリルが所持しているものは、女性向けとして売られているものばかりだ。香水に男女はあまり関係ないものではあるが、香りから受ける印象も女性的なものが多い。鮮やかな色彩のように華やかな花の香り、爽やかさの中に甘みを孕んだ果実の香り、皿の上で飾られているデザートのように溶けるような甘い香り。そういったものをメリルは好み、そしてそれらがリィンから香るところはあまり想像できなかった。
リィンに持つ香りのイメージというと、東方のお香のようなスモーキーさであったり、爽やかな果実か石鹸のようなさっぱりとした香り。人を落ち着かせたり、清潔感をあたえるものだ。これらはメリルの持つイメージというだけでリィンが好きな香りではないかもしれないし、結局どのような香りを纏うかというのはその人が決めるものである。
少し沈黙したメリルの様子をみて理由を説明すべきと思ったのだろう、リィンの目線が宙を何度か往復してから、その口はゆっくりと語り出す。
「演習で家を離れる時に、君の香りがするものがあればデアブリンガーでも安眠できるかなと思って。ああ、別に全然寝られていないとかじゃないぞ、ただ安眠のお守りみたいに持っていたいだけで。……それで、メリルの匂いは落ち着くけど、流石に君の香水を持ち出すわけにもいかないし、それなら買ってしまおうかなと」
「それでしたら、アトマイザーに移しますわ。わたくしは気分で香水を変えているので、リィンさんがお好きなのがどの香りか分かればそちらをご用意しますので」
リィンの手がのびる。
掴んだ瞬間は優しく、引き寄せてからは離すまいとぎゅうと掻き抱くと、リィンはメリルの首筋に鼻をよせた。すんと嗅がれると恥ずかしさがあるが、これも意見を聞くためなのだからしかたないとメリルは目を閉じて耐える。耳にほど近いところにリィンの息がかかる。
「今日の香りも好きだ」
「では今度の演習前にはこちらを」
「でも昨日の香りも好きだった」
「ではそちらもご用意しておきますね」
「先週トリスタへ行った時につけていた香りも好きだった」
間。
「……ええと、とりあえず今の手持ちは全部移しておきますね」