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 偶然、白い鳩を拾った。
 真っ白い翼は薄汚れていて、足も傷ついていたので、そっと窓から招き入れて手当てをする。相手が無言なのをいい事にてきぱきと消毒液で傷口を消毒し、ガーゼをしテープを貼り、範囲が広い部分は包帯で固定する。

「さぁ、もう大丈夫よ。ご自慢の羽は直してあげれないのだけど…」
「いいえ、怪我の手当てだけでもありがたいです」

 あら力になれたなら良かったわ、と笑って彼女は救急箱の蓋を閉める。
 その様子を見ていた白い鳩……キッドは、目の前の女性に正直困惑していた。何故自分を部屋に入れ助け、しかも手当てまでしたのか。当然知り合いではないし、協力者でもない、全くの赤の他人だ。警察に引き渡すのならさっさと通報しているだろう、しかしそんな気配はない。

「何故、私を助けたのですか?」
「だって、テレビをつけたらどの局でもキッドキッドキッド……嫌でも目に付いたから、ちょっと気になったのよ、おばさん」

 好きな番組も貴方のことばかりでつまらなかったわ、と到底自分のことをおばさんと呼ぶ年齢には見えない女性はうふふと笑うと、テーブルを挟んだ向かい側に座った。
 頬杖をついてキッドを見つめる。

「月下の奇術師さん、ここに観客が一人いるのだけど」
「では、少々お付き合いを」

 キッドは立ち上がると恭しくお辞儀をして、女性の前に立つ。
 すっと手を差しだすと何も無かった手の中に微かな白煙と共にバラが現れる。おお、と目を瞬かせた女性の前で、バラは白い鳩に変わった。すごいすごい!と少女のように目を輝かせた彼女は飛び回る鳩を見ながらぱちぱちと手を叩いた。鳩はそのまま開け放たれたままの窓から出て行ったが、帰巣本能が強い種なので、きっと家に戻っているのだろう。

「こうしてみると本当に魔法使いみたいねぇ」
「それではレディ、よろしければこの魔法使いにお名前を教えていただけますか?」

 紫倉江威子と名乗った彼女の手を掴んで口付けようとしたキッドは、その手に光るものを見つけて動きを止め、そっと手を離す。

「おっと、旦那様に怒られてしまいますね」
「ああ……。主人は……主人は死んだの」

 左手の薬指に嵌った指輪を寂しそうに撫でる横顔に、思わず息を呑んだキッドだったが、目を閉じてその思考を振り払った。外の様子を窺えば、部屋の外…主に先程キッドが仕事をしてきた現場方面も警察が撤収したのか静かになっている。もう潮時か、とキッドは江威子の手にそっとバラを握らせた。

「本日はこれで失礼します。怪我の手当て、ありがとうございました」
「あらあら、また来てくれるような言い方なのね」
「是非、今晩の御礼をさせてください。それでは、良い夢をレディ」

 にこりと微笑んだキッドはベランダの片隅に置かれているハングライダーを手に取ると手早く装着し、柵に足をかけた。白いマントが夜風にはたはた舞う。
 大きな音と共に白い翼を広げて飛び立った来訪者を見送ってから、江威子はベランダの鍵をかけた。テーブルの隅に置いておいた携帯にメールが入っていることに気がついて、そっと携帯を手に取る。早く寝ろという内容の甥っ子からのメールに微笑んで、窓のカーテンを閉めた。
 白い怪盗からのバラを適当なコップにつっこむと、江威子は睡眠をとるために寝室へ入っていった。

何故、私を助けたのですか?



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