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「大海の奇跡?」

 快斗に渡された新聞を読みながら江威子が首をかしげた。
 様々な記録で新聞を騒がせていた鈴木次郎吉が、紙面でキッドに挑戦状を叩きつけたのだ。そこに載っていた宝石の名前だけを見ても、どんなものか全く想像がつかなかった江威子は説明を求めるように快斗を見る。

「海賊にたくさん襲われ沈まなかった船の船首に飾ってあった女神像の持ってるでっかいアクアマリン」
「んー、とりあえずいつもの如く宝石なのね」
「江威子さん絶対青くてでかい宝石って認識しかないだろ」
「だって間違ってなさそうじゃない。それで、これ、行くの?」
「勿論!売られた喧嘩は買う主義なんでね。ついでにビッグジュエルも手に入るなら万々歳だし」

 江威子さんは来ないの?と聞いてきた快斗に、江威子は曖昧な返事をする。
 園子に何故か怪盗キッドファンと思われているので、黙っていても現場にはお呼ばれしそうなのだ。実際にはファンではなくて、キッドと、キッドを捕まえようとしている小さな甥っ子が無茶をしないか心配で見に行っているだけだが……。
 犯罪と分かっていてもキッドのショーは見ていてワクワクするし、予想外のことが起きたり、小さなが甥っ子が何か企んだ……いや、思いついたような目でニヤリと笑っていたりするとドキドキする。主に怪盗が追い詰められて怪我をしないか、だが。
 現場で中森警部に会うたびに『また貴女ですか』と言われる事も慣れてしまった。

「行こうかしら。もちろん夜でしょう?」
「そうだな、色々準備して……大体20時くらいに行こうかな」
「20時なら起きてるから大丈夫ね。下見と本番で2日連続でしょう?19日はあんまり遊びすぎちゃダメよ?」
「わかってるよ、江威子さん」

 そう言いながら眠そうに欠伸をする快斗に江威子はタオルケットをかけた、疲れているようだから数分もしないうちに寝てしまうだろう。
 横たわる快斗の頭をそっと撫でてソファから離れる。この家に泊まるときいったいどんな風に親御さんに話しているのかしらと思いながら、江威子はハンガーにかけた学生服にシワ伸ばしスプレーをかけて、ズボンとYシャツにアイロンをかける。主人の服が残っているので、幸い着替えには困らなかった。

「ああ、お弁当箱」

 1日そのままはよろしくないだろうと、快斗の弁当箱を取り出す。

「懐かしいなぁ」

 なにが懐かしいの?と促され、それに言葉を続けようとして突然聞こえてきた声にバッと振り返ると、ソファに横たわって頬杖をついている快斗がじっと江威子を見つめていた。
 快斗がもう一度『なにが懐かしいの』と促す。

「主人のお弁当を作ってた頃が懐かしいなって」
「へー、旦那さん愛妻弁当だったんだ」
「ふふ、そうね」

 アスパラのベーコン巻きとほうれん草のバター炒めが苦手で、甘い玉子焼きが大好きで、から揚げが入っていると喜ぶ、ちょっと子供のような人だった。
 微笑みながら話す江威子を快斗は複雑そうな顔で見る。旦那のことを話すくらいには立ち直ったということなのに、やはりどこか寂しくて。一番寂しいのは江威子さんだろうと自分に言い聞かせて、江威子の話に耳を傾ける。楽しそうに思い出を話す江威子を見ていて、いつか自分にもそんな顔をしてくれないかな、と少し思ってしまう。

「オレ、江威子さんの弁当食べてみたいな」
「いいわよー、明日のお弁当でいい?このままだと、明日のお昼購買になっちゃうでしょ?」
「うん。あ、あと江威子さん」

 よければ明日のご飯も一緒に食べたいな、と続けようとして口を閉ざす。図々しいのではないかと思ったのだ。まぁ既にかなりの頻度で家に上がりこんで食卓を共にしているし。エプロンをつけて料理をする江威子の後姿を眺めながら脳内で夫婦みたいだなと考えた後、別に親子でも同じような光景が見れることに気がついて自滅したのはつい最近である。
 江威子が振り返って、口を開く。

「そうだ快斗くん。確か今、お母様ロスに行ってるのよね?明日もうちでご飯食べていく?」
「食べる!」

 目を輝かせた快斗に江威子はにこにこ笑う、本当に甘やかすのが大好きなようだ。『チョコレートアイス買っておくわね』と言って、頭の中ではすでに献立を組み立てていた。
 ふと、快斗が嬉しそうな顔を消して真剣な表情になったので、江威子もハッと表情を硬くする。

「……魚は抜きでお願いします」

 爽やかに『ダメ』と即答されて、快斗はソファに突っ伏した。

……魚は抜きでお願いします



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