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「こら新ちゃん!」

 本日数回目の咎める声に新一は面倒くさそうに返事をする。
 『男の子でも料理のひとつやふたつできないとダメよ!特に新ちゃんは一人暮らしなんだから!』とキッチンにつれて来られ、目の前にあるのはハンバーグの材料。横に来た江威子が新一の左手を掴むとぎゅっと握りこむ。

「食材を抑えるのは猫の手って、小学校の家庭科でやったでしょう?」

 わかったわかったと適当に返事をして、新一は左手を軽く握る。
 そもそも今こうして江威子が横にいることが新一は気に入らない。今日は一人で頑張ってハンバーグよ!と言われたから、しぶしぶ推理小説の新刊を閉じてキッチンに立っているというのに、こうも横から口をだされるとは思ってもいなかった。しかも材料がおおよそ3人分だ、新一と江威子とあと一人、容易に想像できる。

「なんでオレが黒羽の分までメシ作らねーといけないんだよ」
「あら、快斗くんはよく新ちゃんのぶんまで作ってるわよ」

 だって昨日の夕飯のカレーは快斗くんが作ったのよという江威子の言葉に、昨日出てきた凝ったカレーを思い出して新一は心底驚く。あれを黒羽は作れるというのかと静かに打ちひしがれていると、そっと江威子が肩を叩いた。

「快斗くん、魚の調理はできないから……多分捌き方とかは知識として知っていると思うけれど」
「……やっぱり今度の宝石は魚の腹にいれるように中森警部に言っておこう」
「おいそれはやめろ」

 怯えたような声色に江威子と新一が振り向くと、いま帰りましたという体勢の快斗が涙目新一を睨んでいた。そこまで効果覿面なのかと新一が改めて魚の腹作戦を見直していると、江威子は快斗に『洗濯物があったらはやく出しちゃってね』と声をかける。

「っていうか、そこまで苦手ならさっさと克服しろよ」
「そうよ、克服したら魚料理もできるし一石二鳥よ?」
「いやいやいや、この歳までできてないからこうして困ってんだよ」

 流しに綺麗に空になった弁当箱を出しながら快斗は魚を思い浮かべたのか顔を顰めた。
 ……が、ふと新一が刻むタマネギとその横でボールに入った挽肉を見て『今日はハンバーグか!』と嬉しそうに顔を綻ばせた。その直後、包丁を握っている、恐らくメインで調理しているのが新一である事を認識して、その顔を複雑そうなものに変化させる。

「どうせなら江威子さんの手作りがよかった」
「じゃあ食うなよ、帰れ」

 いま帰ってきたばかりなのに酷い!と快斗は言うが、そもそも快斗と新一はこの家に住んでいるわけではない。新一は自分の家があるが、調理や家事が面倒でたびたび江威子に世話になっていて。快斗も同じように自分の家があるがほぼ一人暮らし状態で、週に3日は江威子の家に転がり込んでいる。……快斗に関して言えば、若干の下心を感じないこともない。
 ぎゃあぎゃあ言い合う2人を横目に、付け合せを作りながら江威子は嬉しそうに微笑んだ。

「3人で作れば問題ないでしょう?ほら、快斗君は手を洗ってお肉こねる係ね」
「やった!オレあの空気抜くの好きなんだよな」
「ガキ」
「包丁もまともに持ててない奴に言われたくねぇ」

 収まったと思いきやまたはじまる言い合いに、今度は苦笑いをして江威子はそっと2人の頭に拳骨を落とした。

なんでオレが黒羽の分までメシ作らねーといけないんだよ



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