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(!唐突に幼児になります!)


 その日はなんだか妙に紅子の機嫌がよく、快斗も放課後の予定が決まっていたのでずごぶる……とはいかずとも、まぁ機嫌は良かった。一回も居眠りせずに一日の真ん中まで授業に真面目に参加する程度には。
 それも、何気なく放った「今日はやけに機嫌がいいな」という快斗の言葉に「貴方の周りをチョロチョロしている女におまじないをしてあげたからかしら」と紅子が返すまでは、だったが。

(青子はいつも通りうるさいくらいだった。ということは江威子さんか!)

 学校で会う女性陣には異変がなかったので、それならば学校外だろうと真っ先に思い浮かべたのは江威子の顔だった。元々放課後に江威子の家に行く予定だったので、それが少し早まっただけだと思いながら担任に早退する事を伝えて学校を飛び出す。
 ただのおまじないなら何も気にすることはないが、なにせ紅子のおまじないだ。なによりも、江威子の家に何回電話しても留守電になり、メールをしても返事が返ってこないことが気がかりだった。……起きていないだけの可能性も否定できないのだが。
 自己新記録なのではないかと思うほどのスピードで江威子のマンションに辿り着いた快斗はオートロックを解除するとエレベータに走り、エレベーターが目的の階に止まるとさらに走って江威子の部屋に。申し訳程度にインターホンを鳴らしてから暗証番号を打ち込んで部屋にお邪魔する。

「江威子さん!無事か!?」
「あっ、快斗くんおかりなさい」
「ただいま……って、あ?」

 帰って来た江威子の声にひっかかりを感じて首を傾げた快斗はリビングを見回す。返事はされたものの、肝心の江威子の姿が見えないのだ。確かに同じ部屋から声がしたのだが……。
 もぞ、と視界の端で何かが動いたので、危険なことはない家だとわかりつつも快斗は思わず身構える。視線をそちらに合わせて数秒。目が合うこと数秒。名前を呼ばれて数秒。快斗はまさかと思いながら口を開く。

「江威子さん…?」
「そうよ。今日起きたら体が小さくなってたの!不思議ね、新ちゃんみたい!……でも新ちゃんはお薬だったかしら?」

 おかしいわね薬はなにも飲んでいないけど。こてりと首を傾げるその姿はまさに彼女の甥っ子と同じくらいの子供の姿。
 ヨタヨタとした足取りで快斗は江威子の座るソファに近付く。江威子の面影が確かにあるその顔。服は先日泊まっていったコナンの服を借りたのだろう、男物だ。下着はどうしたのだろうかとふと思った快斗だったが、白を買おうと強く心の中で頷いて掻き消す。
 自分が決して見ることができなかったはずの幼少期の江威子が目の前にいるのだと思うと、とても不思議な気分だった。

(こればっかりは紅子を拝むしかねぇ……)

 なにより可愛い。とても可愛い。普段は若く見えても年上で母親然とした江威子が、いまは自分より年下の姿で床につかない足をぷらぷらと揺らしているのだ。その状態でいつもと同じような言葉を発するそのアンバランスささえ可愛い、恋は盲目とはよく言ったものだ。快斗は表情筋を酷使しているものの江威子が動くたびに胸を抑えて床に蹲りたい衝動に駆られていた。
 とりあえず、と鞄をおくと。快斗は小さい江威子に手を伸ばす。

「抱っこしていい?」
「抱っこしながら言うのもどうかと思うけど」
「だっていま抱っこしておかないともう一生小さい江威子さんを抱っこなんてできないだろ!あ〜小せぇ〜やわらけ〜……」

 ぬいぐるみにでもするかのように江威子を抱きしめた快斗はそのままソファに座るとさらに強く抱き込む。
 江威子は苦しそうにべしべしと腕を叩いていたが、最終的に何をしても無駄だと悟ったのか大人しくしていた。したいようにさせるのが一番だろうと、時折潰れたような声を出しながらされるままになっている。少しだけ、蘭に抱き締められる甥っ子の気持ちが分かったようで、つぎ彼が家に遊びに来たら労ってあげようと江威子はそっと思った。

「そういえばいつ治るのかしら、これ」

 ぐえ、とまた潰れそうになりながら。江威子は自分の身に降りかかった不思議な出来事の終着点に首を傾げるのだった。

こればっかりは紅子を拝むしかねぇ



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