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ポケットの中で震えた携帯を取り出し、液晶に表示された名前に新一は慌てて通話ボタンを押す。
「江威子叔母さんっ!?」
『叔母さんまだそんなに耳遠くないから、そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ?』
「な、なんかあったのか!?こんな時間に!」
太陽が真上にさんさんと照り輝き、腕時計の針が12時45分を指している事を確認して、新一は電話の向こう側の人物がこの時間に起きて活動していることに驚く。
江威子は、両親が海外に行き一人暮らし状態の新一の生活能力の無さを心配し、週に2回ほど工藤邸を訪れていたのだが、彼女の夫が亡くなるとぱったりと訪問は止んだ。今では新一が、夜しか起きて活動しようとせず、家から外に出なくなった江威子を心配して度々彼女のマンションを訪れたり、夜にメールしたりしている。
良好な叔母と甥の関係だった。
『最近はたまにお昼に起きるのよ〜。ああそう、それでね、今度予告状が届いてたキッドの犯行現場に連れて行って欲しいのよー』
「はぁ!?なんで!?」
『興味があるから?』
「なんで疑問系なんだよ……。まぁ、しっかりその時間に起きて現場でじっとしていてくれるならオレは構わねーけど」
ありがとう、と電話越しでも相手が微笑んだのが想像できる。母親の妹である江威子には世話になっており、小さい頃から甘やかされたからか平気でタメ口をきいて、我侭を言って、だいたいの仕草や表情は覚えていて想像もついて、……それでも予想できないこともあるのだが。
車で迎えに行くわね、といった江威子が次に何を話そうか言葉を選んでいる間に、新一が口を開く。
「最近、どうなんだよ」
『えっと、最近知り合った親切な子がね、ヒーターとかの片づけを手伝ってくれたわ。今度、主人の実家に彼の小さい頃のアルバムを返しに行くから、押入れの整理をしようと思って……それも手伝ってくれるって』
「そっか」
『もう外はあんなに暖かかったのねぇ、新ちゃん』
その言葉で新一があれだけ言っても外に出なかった江威子が外出したのだと知る。いったいその『親切な子』はどうやって彼女を外に出したのだろうか。自分でも他の親族でもなく、最近知り合った他人がそれに成功している事に、子供っぽい嫉妬心が頭を覗かせた。
「……大丈夫なら、夕飯作ってくれてもいいだろ」
『そうね。そろそろ蘭ちゃんにも顔見せないといけないし、毛利さんや阿笠さんにも挨拶にいかないと』
「親父達にも電話しろよ。江威子叔母さんのことなのに何故かオレに電話してきて、うるさいったらねーよ」
『あら、そうなの?』
きっと今呟かれた『ごめんね』は困ったように笑っているんだろうなと新一は思った。
そういえば何故突然キッドに興味を持ったのだろうか。彼女は光り物にも美術品にもマジックにも興味が無かったと思ったのだが。やはりテレビでずっとキッドの話題が流れていたから、気になったのだろうか。
『新ちゃん聞いてる?』
「……悪い何も聞いてなかった」
『キッドの現場で新ちゃんの用事が終わったら、新ちゃんのお家でご飯作るわねって言ったのよ』
それは、まぁ普通に嬉しい。江威子の料理はおいしいし、感想を言わないと怒るなんてこともないし、だいたい食後にレモンパイが出てくる。『何か食べたいものはある?』と聞かれたので江威子叔母さんが得意なものがいいと適当に返す、これはいつものことなので、きっとオムライスかカルボナーラあたりが出てくることになるのだろう。
『新ちゃん、あんまり銃で撃っちゃ可哀相よ』
何故それを知っている。
……悪い何も聞いてなかった