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 見つけたのは本当に偶然だった。
 いつものように警官に変装し、警備をするフリをしながら美術館内をうろついていた時に見つけた見知った顔。思わず二度見した。近くに甥の名探偵の姿があるので、甥に連れてこられたのだろうか。この間部屋の片づけを手伝った時に聞いていた感じでは、あの名探偵は意外と我侭なようだ。
 暫く観察していようとキッドはその場に留まる。
 江威子が不安げに辺りを見渡しているので何かと思えば、彼女の近くから新一が消失していた。警察関係者の中で一般女性がわたわたしているのは傍から見れば異様な光景だ。関係者には新一から何か言っているとは思うが、彼女がキッドだと疑われる可能性も無くはない。下手に動かれるより、とキッドは彼女に声をかけた。

「どうかしましたか?」
「えっと怪しい者じゃないんですけど。新ちゃ、付き添いの人間を見失ってしまって」
「工藤さんですか?」
「はい。さっきまでそこにいたのに……もう、何かわかるとどこか行っちゃうのは変わらないんだから」

 困っちゃいましたと苦笑いして、江威子は頬に手を当てた。
 予告状の時間になりキッドが現れて周囲が慌ただしくなれば、少し抜けているこの女性が怪我をしないとも限らない。キッドは警官の姿で彼女の手をひいて、安全かつキッドの活躍が良く見える位置まで案内する。そっと離した左手には当然のようにあの指輪があり、キッドは胸のうちになんともいえない感情が燻ったのを感じた。

「ここなら他の皆さんの邪魔になりませんよ」
「ああ、邪魔にならないのはありがたいわ。すごい邪魔なんじゃないかって、ちょっと肩身が狭かったのよ」
「工藤さんにも本官から伝えておきます。では、失礼します」

 ぺこりとお辞儀をして江威子の傍を離れたキッドは腕時計を見た。もう数分で予告した時間になる。江威子が見ているからか、失敗してはいけない気がした。元々失敗してはいけないのだが、身が引き締まる。
 いつも通りどこからか予告時間までのカウントが聞こえ始め。ゼロになった瞬間、暗闇に包まれた部屋でキッドは警官の姿からいつもの白い怪盗の姿になり不敵に微笑む。そのままショーケースに駆け寄ると手早く鍵を解除して宝石を奪った。

「こんばんは、皆さん」

 警察がざわめき慌てる中で部屋が再び明るくなると、キッドは悠然とショーケースの上に立って警察を見下ろしていた。
 キッドがぐるりと見渡すと、部屋の隅の江威子と目が合ったような気がして、視線をはずすように慌ててシルクハットのつばを下げる。じっと己の行動を見られていて、緊張するような、嬉しいような、恥かしいような……。この気持ちはどこかで感じたことがある思い、新一と対面していることも忘れて考えていたキッドはハッと顔を上げる。

「授業参観だ」
「は?」

 何を言っているんだコイツはと言いたげな視線を受けたが、ひとつ咳払いをしてマントを翻す。
 『それでは御機嫌よう』とキッドは真上の照明にワイヤーを巻き付けると勢いをつけて飛び上がり、部屋の上部にある窓ガラスを蹴破る。キラキラと降り注ぐガラス片の中で、キッドは部屋の中を盗み見た。ぎゃいぎゃいと何か言っている名探偵と、部屋の隅でぽかんと己を見上げている江威子を見て、にやりと口の端を吊り上げる。
 仕込んでいたハングライダーを広げて夜空を飛びながら、江威子の住んでいるマンションの方角を眺めた。現場にいたのだから、今から彼女のベランダに降り立っても部屋には誰もいないだろう。その事を少し残念に思いながらキッドは夜風を切った。

こんばんは、皆さん



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