ふと目を開けて、同じベッドの上に見慣れた背中があったので、あぁこれは夢なのだなとリィンは理解した。
明晰夢。
己の意思で動く体、伸ばした指先が触れる髪の感覚も、ぼんやりとした月光に照らされたなだらかなラインも、全部現実のようだった。耳をすませば寝息も聞こえるし、現実ではもうしない彼女の匂いがそこにある。
ううんと小さく唸った背中が寝返りをうって、そこでようやく、リィンはメリルの顔を見た。
リィンと同じ時間を歩まない、リィンの記憶のままの姿。
長い睫毛が白い肌に落す影、柔らかな灰色。今は閉ざされた瞳は、忘れられる色を宿しているのだろう。
どこまでも記憶のままの彼女は、もう記憶の中にしかいない。
起こさないように静かに、慎重に身を寄せて細い体を抱き締めた。体もまだ彼女を覚えているようで、その感触が懐かしくもあったが、”いつも通り”でもあることに泣きそうになった。
メリルの名前を呼ぼうとして、喉からはなにも発せられることはなくリィンの唇は閉ざされた。
自分が目を覚ますまで、どうか起きないでいて欲しい。
昔のように、眠たげに瞬きをした瞳が自分を映し、夜にとけてしまいそうな小さな声で名前を呼ばれたら、きっと自分は夢から醒めたくなくなってしまう。
メリルのいない世界は寂しい。寂しいけれど、そこで生きていたいから。
今は少しだけ、愛おしくて懐かしい声を聞くことが怖かった。