Alcohol


 珍しいなとリーゼッテの目の前に鎮座している酒瓶を見てユーリスが目を瞬かせる。
 強い酒精の匂いのなかには甘い果実の存在もあり、洒落た形の硝子瓶に入っている様子から高価な酒なのだろうなと、ユーリスは鼻を擽った匂いにひかれたようにリーゼッテの隣の椅子に腰を下ろす。当然のように隣に座った男に文句を言う様子もなくリーゼッテはグラスを煽った。
 見かけた時に思ったように、リーゼッテが酒を飲む姿は珍しい。強いわけでも弱いわけでもないが体には残りやすいようで、それを彼女は嫌った。なにより彼女は「節度を持って飲め」「明日に響かないようにしろ」と口を酸っぱくして言い、酔った人間の介抱をする側の人間だ。そも、リーゼッテにとって酒というのは中心の料理と共に程よく嗜むもので、酒を中心に楽しむ娯楽ではなかった。

「一口くれ」
「一口と言わず、一杯くらいかまいませんけど」

 新しい杯に酒を注ごうとする手を制してユーリスはリーゼッテの杯を奪うと口を付けた。アビスではお行儀よく酒を飲むなんてことはしない、回し飲みなど日常的だし、ユーリスはこの場に長々留まる気もなかったので別の杯を使う必要もないと思ったのだ。
 ユーリスが思った通り、アビスでは口にできない味をした酒は、時折貴族との付き合いで飲む物に似ている。杯の持ち主が貴族、箱入りのお嬢様であることを考えれば当然だ。香っていた匂いが鼻を抜け、甘めではあるが酒精はやや強いものだったのか喉を熱くした。
 なんとも言えない顔で己の手に戻った杯を眺めているリーゼッテをよそに、ユーリスは小皿に詰まれた酒肴をいくつか摘んだ。

「お前これ……大丈夫なのか?」
「バルタザールじゃあるまいし、節度を持って嗜みますから大丈夫ですよ」
「一緒に酒飲むようになった初めの頃なんて、味が駄目とかで杯一杯も飲めなかったじゃねえか。お前舌が子供だし」
「子供って……貴方がアビスに戻るのが面倒とかで何度も何度もわたしの部屋で酒を飲むし、わたしにも飲ませるから慣れたんですよ」

 ちびちびと再び酒に口をつけはじめたリーゼッテの唇を眺めて、ふぅんとユーリスは適当な返事をする。
 リーゼッテの杯を持つ手を指先で軽くなぞって離れ、酒で少し濡れた唇に触れた。何事かと目を瞬かせながらユーリスを見たリーゼッテにぐっと顔を寄せてにんまりと笑う。酒と、そうでない甘い匂いを極々近い距離で吸って耳元で囁く様子は、酒にのまれた人間が少々過度な触れ合いをしているように見えるだろう。
 そうっと、ユーリスは息をふきこむ。

「悪かったなぁ、大人にしちまって」
 



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