共部屋


「ユーリス、共部屋に女を連れ込むんじゃねえよ」
「女ひとり抱えて上まで戻るのが面倒なんだよ。っていうかリゼだしな」

 アビスの部屋に帰ってきたバルタザールの第一声に、ユーリスは紅い髪を指で遊びながら応じた。
 いつも通りリーゼッテがアビスの書庫で本を齧り、その後に珍しく酒場にいたユーリスのもとへ顔を出したのだ。
 地下の料理など口に合わないだろうに、少し眉を顰めただけで何も言わず、ユーリスと食事を共にした。食後、話を肴に酒を飲み、彼女の反応が鈍ってきたなと思った頃にはもう遅く。カウンターに突っ伏してすうすうと寝息をたてているリーゼッテを見てユーリスは頭を抱えたのであった。
 いつもであればこうして潰れる前に地上に送り出していたのだが、今日はユーリスも多少酔いが回っていたのかもしれない。
 マシになったとはいえ遅延の悪いアビスにリーゼッテを放置するわけにもいかず。かといって意識のない人間ひとり抱えて地上までの道のりを行く気にもならなかったユーリスは、アビスで一番安全であろう自分とバルタザールの部屋にリーゼッテを運んできたのだ。
 起きたらその時点で地上に戻せばいいというユーリスの考えをあざ笑うかのように、寝台の上のリーゼッテはすやすやと気持ちよさそうに眠り、起きる様子はない。
 起きるのを待つのも面倒になってきたうえに自分も眠い、とリーゼッテを隅に追いやって同じ寝具を共有したユーリスがぼんやりとし始めてきた頃に、自分と同じように酒の匂いをさせたバルタザールが帰ってきたのだ。
 連れ込むなと言っておきながら特に気にした様子もないバルタザールは持ってきていた酒瓶を自分の机に置き、どかりと椅子に座ってユーリスを見た。

「そいつのこと気に入ってるよなぁ、お前」
「じゃなきゃ連れ込んでねえだろ」
「それもそうだ。いやなに、おれはお前がおっぱじめでもしたら困るから、退散した方がいいかどうか考えてんだ」
「するかよ」
 
 ユーリスは呆れた目でバルタザールに返してから、寒くなったのか自分にすり寄ってきたリーゼッテを見る。人間ひとりの気配が増えて足音を立てても起きる様子が無い、警戒心のまるでない姿には呆れてしまう。それこそ乱暴をされてはじめて起きるだろう、当然する予定もさせる予定もないが。
 気に入っているから、それなりに気を遣っていることもある。ユーリスがどの程度乱暴に扱っていいか心得ているだけで、根本が壊れ物のような人間だ。
 殊勝なことだとリーゼッテでなく自分への溜息を吐いて、ユーリスは今度こそ寝てしまおうと頭を支えていた腕を崩した。枕はリーゼッテに奪われているため、平坦な敷き布がユーリスを迎える。
 ユーリスが本格的に寝ようとしていることが分かったのか、バルタザールは一人で酒を煽りはじめた。散々上で飲んで来ただろうにまだ飲むのかとユーリスは思ったが、人の事なのでまぁいいだろうと放っておく。放っておいても大丈夫だろうという信頼があった。
 このくらいしても文句は言われまいとリーゼッテの体を抱き寄せてから、ユーリスはバルタザールに口を開いた。

「おいバルタザール、変なことすんじゃねえぞ」
「するかよ!」



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