雪を踏む
「やわらかい雪の上に動物の足跡が残っているでしょう。子供の頃は、それを探すのが好きでした」
窓の外を見ながらの言葉に息を吐く。
外では雪が降っていた。アンヴァルも冬になれば雪が降る、ファーガスに比べれば随分と回数も少なく寒さも違っているが、雪の白さだけは同じだった。
このくらい冬が穏やかであれば路地裏で消える命も少ないだろうなと、暖炉の炎で暖まった部屋の中でユーリスはぼんやり思った。
「狼と狐と兎では随分と足跡が違うでしょう。もうそこに姿はないのに何がいたのかわかることが、何故かとても面白かったのです」
寒さによる命の危険など感じたことがなさそうな瞳が、真新しい白を反射している。
やわらかな雪のような女だ。
親しくなっても、互いを知っても、当然ではあるが根本は違うのだとふとした時に感じる。それが悪いとは思わないが、相手が遠いなにかに思えるのだ。
「ユーリスは雪の日の朝は何をしていましたか?」
「あー……誰も踏んでない雪を踏んでたな」
「まあ、綺麗でしょうに。でもそうですね、そうしたら、次の雪の朝は貴方の足跡でも探しましょうか」
まっさらなそこだから踏みしめるのだとわからないのだろう。純粋に自分の足跡を探してみようとする目の前の相手に、なんとも言えない気持ちになって、ユーリスは奇妙な顔をした自覚があった。
空白を埋める言葉を探して、リーゼッテと同じように静かに降りる白を眺める。
「流石にこの歳でやらねえよ」