不安の種
「どうしたの、ずっとこちらを見て」
「士官学院にはいった時のことを思い出していました。あの時のエーデルガルト様はここの人間にはあまり入れ込むなと言いましたが、わたしには今の……」
「私が、入れ込んでいるように見えると」
師から贈られた花を飾った花瓶を見ながらの言葉に、リーゼッテは唇を引き結んで静かに頷いた。
級長として生徒や修道院の人間と接するエーデルガルトは一年という短い学院生活を楽しむひとりの学生、そう、心からあるように見えた。嘘偽りなく、後ろ暗いこともなく、そうあるようにリーゼッテには見える時があった。
「後が辛くなると言いたいのでしょう」
「……はい」
「心配性ね。私は何があっても割り切れるわ、成すべきことがあるのだから」
無論、そんなことはリーゼッテも理解している。
掲げた理想を現実とするためにエーデルガルトが積み重ねてきたことを、その意志の強さをリーゼッテは知っている。ただ、人の心というものは全く傷がつかないものでもないし、欠片も苦しみを感じない人間はいないのだと、そう思ってもいた。
目の前の強くうつくしい主の心についた、ほんの僅かな傷が、いつしか大きな傷になってしまうのではないか。そんなふうに、今ではなく未来を恐れている。突然そんなことを思ったのは、エーデルガルトがいたく気に入っている教師の存在を強く意識しているからだろうか。
エーデルガルトが、手を差し出してくれれば良いと思う。
その手を、彼が取ってくれればよいと思う。
彼がエーデルガルトと同じ道を歩んでくれたのならば、この不安もなくなるのかもしれない。
ベレトがエーデルガルトに贈った花を見ながら、リーゼッテは静かに目を伏せた。