一人分の隙間でできた信頼


 いつの間にか『それなりによくある事』になっている同衾。渋々といった様子で、しかし拒絶はせずにもう一人が寝る空間をあけるリーゼッテにユーリスは少々悩んでから紅ののっていない口を開いた。

「帝国ってよ、男女の共寝は普通なのか?」
「そんなわけないでしょう。夫婦ならともかく、婚約者や恋人だって婚前に共寝なんてどうかと思いますよ」

 予想通りの答えだ。育ちと敬虔な信徒であること、そして彼女の家では特別口を酸っぱくして言われていそうな内容は、恐らく世間の基準よりも厳しい。

「いや、じゃあなんでお前は普通に俺と寝てんだよ」

 リーゼッテは怪訝そうな顔をしたが、その表情をしたいのはユーリスのほうだ。リーゼッテの紅い髪が流れるのをみながら一応言葉を待った。

「アビスでは普通のことなのかと思っていたのですが、違うのですか?」
「そんなホイホイ一緒に寝るわけあるか。ヤることやる関係とか同性の雑魚寝ならともかく、そうでないなら普通に別に寝てるに決まってんだろ。灰狼の部屋だって男女別なのはお前も知ってんじゃねえの」

 寝具が無いから一箇所で寝るということはあるかもしれないが、余裕のある状態ならばわかれて寝るのが当然だ。アビスは確かに無法地帯ではあるが、そこまで上の世界と常識がかけ離れているというわけではない、……守らない人間が多いのは確かだが。
 ユーリスの言葉に黙り込んでいたリーゼッテがこほんとわざとらしい咳をする。

「まず、アビスにとても偏見を抱いていたことを謝ります」
「お前のそれはいつものことだよ」
「う……。それとですね、何故もっと早く言ってくれなかったのですか。それが普通だからユーリスも犬やら猫のように入ってくるのだと思って、何も言わずにいたというのに……。というか、共寝が普通でないのなら貴方も何故毎回人が寝るところに入ってくるのですか」
「あー、最初は嫌がらせのつもりだったな」
「最低です」

 紅い髪に負けないくらい赤い顔をしたリーゼッテが羞恥とも怒りともつかない表情で言い捨てたので、ユーリスはからからと笑って隣の体を引き寄せた。
 ユーリスにとっては普通であると思っていたから指摘することをやめていたというのは、大いに好かれているなという感想を持つ。規律正しく、道から外れるということを良しとしない普段のリーゼッテの言動を見れば尚更である。当然悪い気はしなかった。

「まあ、もう慣れただろ」
「慣れてしまったことが嫌です……」

 深いため息をついたリーゼッテがそれでも今ユーリスを追い出そうとはしないことに気を良くして首元に顔を埋めれば、「調子に乗らないでください」という声と共に脛に鋭い痛みが走る。悶絶するユーリスに溜飲が下がったのか、リーゼッテは早々に目を閉じるとぬくもりに身を寄せた。
 信頼なんていつでも崩せるような男に馬鹿な奴、そう片隅で思いながら、この甘っちょろいぬくもりも悪くないとユーリスも同じように目を閉じた。



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