雷鳴と子守歌
「下に帰るのが面倒だから寝かせろ」と酒の匂いをさせたユーリスが深夜にリーゼッテの部屋に転がり込んでくるのは、いつの間にか『いつものこと』になっている。
今日も部屋を訪ねてきたユーリスを小言を言いながら受け入れ、装備を外している彼を尻目にリーゼッテは寝台に横になった。窓の外からは雨の音がしており、当たり前の顔をして寝台にはいってきたユーリスの髪もどこかしっとりとしていた。
「ちょっとユーリス、髪の毛くらい乾かしてください」
「寝てりゃ乾くだろ」
「もう、冷たいのが嫌なんですよ」
抗議をものともせずに寝る姿勢にはいったユーリスの背にじとっとした視線を投げていたリーゼッテだったが、窓の外が白く光るとびくりと体を跳ねさせ、次いで大きな音が聞こえるとユーリスの背に身を寄せた。あっという間に雷雨になった窓の外をちらと見やってから、ユーリスは溜息をつく。
「なんだ、雷苦手か?」
「……別に苦手ではありません、得意でもありませんが」
「あぁーわかったわかった」
至極面倒くさそうな返事をして体を反転させたユーリスに抱え込まれたリーゼッテは、一瞬身を強ばらせてから脱力する。朝焼けの一部を切り立った色をした髪が肌に触れるとやはり冷たくて顔を顰めるが、ユーリスのぬるい体温は心地よい。
ふと、鋭い雷鳴でも呼吸音でもなく、小さな旋律が耳に触れて夜の闇に解けていく。
「人の前で歌うのは嫌いなのでは?」
「お前しかいないだろ」
さっさと寝ろよ、と言われた後にも紡がれる歌声と背中をとんとんと叩く手にリーゼッテの雷を恐れる気持ちは薄れていく。
母親が子供をあやすようだと思ったが、リーゼッテは自身の母親にそういうことをされた経験が無いため少々新鮮だった。もしかしたら、ユーリスが幼かった頃は母親にこうしてもらっていたのかもしれない。
己の知る子守唄とは違う旋律を聴きながらリーゼッテは瞼を下す、つぎ目が覚める時もきっと当然のように隣にこの男がいるだろう。それも『いつものこと』になってしまっているが、悪くないと思ってしまう自分がいるから、リーゼッテは何だかいつも悔しい気持ちになってしまうのだ。
雷鳴と雨音と、少しだけはやい心音を聞きながら、リーゼッテは今度こそ睡魔の手を取った。