わあ、と声を上げたのは緑谷だった。
キョーヤのコスチュームが届いた。その日の授業でコスチュームを着用したキョーヤだったが、とても似合っている、の一言に尽きた。
カジュアルな服装だった。動きやすさが重視されたパーカージャケットと細身のカーゴパンツとブーツ。ズボンにはポケットが多い。私服としては少々目を引く見た目ではあるが、一見すれば派手な通行人程度に普通である。素手の保護のためかグローブをはめている。ヒーローマスクとしてはゴーグルをつけるようで、首からゴーグルが釣り下がっている。
初めてその姿をクラスのメンバーに見せたとき、爆豪が「私服じゃねーか」と呟いていた。実際、ヒーローらしさはない。だが本人はすこぶる気に入ったようで、珍しく口元を緩ませていた。
「結構色々仕込んでるみたいで、服自体も頑丈なんだ」
コスチューム着用での体育の授業で、衣服について聞いてみればそう返ってきた。
「そうなの?」
「刃物でかする程度じゃ切れなかったし、衝撃吸収効果もある。機能は満足かな」
「ふ、普通の服にしか見えないのに…」
いつそんなテストをしたのだろう、家かな。放課後の自主訓練を知らない緑谷は少し不思議に思いつつも受け流す。
「そこも結構高得点。あんまりヒーローっぽいのはやなんだよね。市民に紛れ込めるっていいよね。着替えも楽だし」
「そこなんだ」
「そこでしょ」
おそらく、あまり目立つのが好きではないのだろう。授業でも必要以外では率先して声を上げるわけではないし、話し声だって大きな声を出すことは稀だった。反面、実技面ではそうでもない。現場での行動の臨機応変さやその判断力は見事だと緑谷なりに思う。非常に的確で、早いのだ。そして、緊急で号令を出す時には普段からは想像もつかないほどに大きな声を張り上げる。チームリーダーがいれば、その命令は絶対遵守する。まるで軍人みたい、と言ったのは耳郎だった。その言葉を聞いたキョーヤは「そう見えるんだ?」と首を傾げていた。
今日の授業は個性の使用可能な対人模擬戦であった。前回、キョーヤは爆豪にあっさりと負けている。さすがにぽかんとしていた。今回はどうなのだろう、そもそもまた爆豪と組むだろうか。
「ねぇ、また相手してよ」
うわまじかよ。と、言ったのはたぶん切島である。怖いもの知らず。当然のように爆豪に再戦を申し込んだキョーヤに周囲が凍った。
「………あ゛?」
「ん?」
「雑魚に用はねぇんだよこのクソ雑魚!!!」
「……ハ?」
キョーヤの声がド低音になった。
やばい
全員の声が一致した。
ぐっと拳を作ったキョーヤに緑谷は思わず間に入ってクールダウンクールダウンだと宥めすかすことにした。幸いキョーヤはすぐに落ち着いたが爆豪がそうでもなかった。
「ハーー!まぁ手慣らしに???相手してやってもいいケドー!?」
「かっちゃん!」
「よっしゃその喧嘩買う」
「キョーヤくーーん!?」
アヒャヒャヒャ!とまるで敵のような笑い声を上げた爆豪が緑谷を突き飛ばした。
……のを皮切りに、爆豪とキョーヤの組み手が始まった。尻もちをついた緑谷が見たのは、投げ飛ばされるキョーヤだった。やはりキョーヤは組み手が苦手らしい。背中から落ちるだろう、きっと見るのも痛いと目を瞑りかけたが、次の瞬間には爆豪を蹴り飛ばしていた。
「………???」
何が起きた?緑谷は目では追えなかった。2人の組み手を見ていた誰もがそうだったのだろう。
僅かな沈黙が訪れた。沈黙がわずかだったのは爆豪が直ぐに反撃したからだった。
「へー!?ちょっとは戦い方を覚えたんでちゅねえー!」
「今までデカブツばっか相手だったから。小型だと思えば適応できる」
「テメェよりはデカいわこのチビ!!」
いや身長はそんな変わらないよ!?という緑谷の声は爆音にかき消された。そこじゃないと思う、という麗日の言葉も掻き消えた。
蹴り飛ばされて頭にきたのか、爆豪の拳や蹴りが激しく、多い。対するキョーヤは防戦一方で勝負に進展がない。最終的にはやはりキョーヤが投げ飛ばされて終わった。
「一昨日来やがれこのチビ!!」
ぶちギレ仕様のまま切島たちのいる場所に戻った爆豪。背中から落ちたキョーヤはいてて…と小さく呻きながら起き上がる。
「大丈夫?」
キョーヤを手助けしながら声をかけて起き上がらせる。派手に投げ飛ばされたわりにはピンピンしている。
「やっぱ対人苦手だな…。ねぇ、イズクは相手決まってる?」
「ええと、まだ…だけど…」
「じゃあ相手してよ」
「う、うん…」
脳裏に先程爆豪を蹴り飛ばした瞬間のキョーヤを思い出す。目で追う暇もなく、気が付けばキョーヤは爆豪を蹴り飛ばしていた。
あまりに一瞬だったから分からなかったが、ああいうこともできるのだと頭の中に入れておく。
なお、組み手は緑谷といい勝負だったと追記しておく。