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2021/05/02

secret time

「佐藤は偉いね。疲れないの?」
「先生は不真面目ですね。また寝に来たんですか?」
「保健室追い出されちゃって寝る場所に困ってたら此処を見つけてね。暖かいし、静かだし、寝るには最高の環境だと思わない?」

ふわあ、と欠伸ひとつ。
眠そうな目をしてへらっと笑いながら話す先生が僕は結構好きだったりする。
大人とか子供とか、そういうものに拘らず、ひとりの人間として対等でいてくれる気がするから。
一番後ろの窓側の席が、先生のお気に入りの場所であり、特等席でもある。
先生の周りは時間の流れがゆったりとしている気がして、心地良い。

「図書室だって眠る場所では無いですよ」
「佐藤も俺を追い出そうとするんだ」
「いや別に、追い出しはしないですけど。たまには本を借りて読んだりしたらどうですか?」
「文章読むと眠くなっちゃうんだよね」
「教師にあるまじき発言をしてるの、自覚してます?」

タイミングよく下校時間を知らせるチャイムが鳴る。
うーんと背伸びをして、眠気まなこを擦りながら立ち上がる先生を目で追う。委員会の活動という限られた時間の中で、こうして何でもないような会話をするのが僕の楽しみであり、癒しでもある。だから、その時間が終わるのは、いつも少し寂しさを感じる。

「戸締まりと鍵を返すのは俺がしておくから。佐藤はキリの良いところで仕事切り上げて帰りなさいね」
「ありがとうございます」
「ズルい大人はね、こういうとこで好感度を稼ぐんだよ。佐藤も覚えておきな」
「もう。そういうこと言わなければ良い先生だな、で終わるのに」

僕の言葉にふっと笑うと、気だるそうに戸締りを始める先生。それを横目に荷物をまとめて図書室を出る準備をする。
それじゃあ、と僕が言うと「外はもう暗いから気をつけて帰りなさいね」と教師らしい言葉が返ってきた。
これも先生のいう「好感度稼ぎ」のうちなのだろうか。

誰にも邪魔されない空間で、密かに好意を抱いてる先生との時間を過ごすため。
僕は今日も、不純な動機で図書委員の仕事をしている。

Category : 一次創作
Tag : 学生 恋愛 図書委員

2021/05/02

真面目と、不真面目

雨の匂いがした。
ああ、これはもうすぐ雨が降るな。適当に切り上げて帰る方が得策か。それはそうと、今日僕は傘を持ってきていただろうか。
ぼんやりとそんなことを考えながら、横で作業している後輩をチラリと盗み見る。

「きみは本当に真面目だね」

心の中に留めておけばいいものを、つい口に出してしまった。
委員会で決められたことで、それが僕たちに任された仕事なのだから真面目にこなすのは当たり前なのだけれど。

「先輩が不真面目なだけです」

ピシャリと正論を言われてしまった。その通りです。返す言葉もない。
僕たちは図書委員で、主に本の整理整頓や棚の掃除をするのが仕事だ。古くなってボロボロになっていたり、読まれなくなった本を選別して、新しい本と交換する。本は寄付されたものもある。
放課後になって勉強をしに来たり、読書をしにくる生徒はチラホラいるけれど、基本此処は静かで、そして暇だ。
「おいお前、後輩に任せてばかりいないで仕事をしろ」というツッコミはスルーさせていただく。
今日は貸し出していた本を棚に戻すだけの簡単な作業しかない。故に後輩に任せておいても問題ないだろうとの判断をして、読みかけの小説を読むことにした。
その前に、後輩からの不真面目発言は若干の反論をしておきたい。

「今日中に読み終えたい小説があるんだ。暇な時間を有効活用しないと勿体ないだろ?つまりそういうことだ」
「どういうことなのかさっぱり分かりません。いくら暇でも今は小説を読む時間ではなく、委員会の活動の時間です。先輩はこれだから…」

呆れた視線を寄越しながらもテキパキと手慣れた手つきで作業する後輩。
そして僕に問うた。

「先輩は普段は真面目なのに、どうして此処に来ると使えなくなるんですか?」
「はは、辛辣だなあ。一応、僕はきみの先輩なんだけどな」
「茶化さないでください」
「うーん…真面目そうだし任せちゃお☆ってなるだけだよ」
「殺意が湧きました」

だって実際そうだろう。普段の生活では、自分のことは自分でしなければいけない。だけど、委員会はそうではない。少なくとも今この空間にいる僕という人間と後輩のふたりは同じ仕事を任されている。ひとりで出来ないものなら僕も真面目に図書委員として動くけれど、今日みたいな日には後輩ひとりに任せても問題ないと判断した。ただそれだけのこと。

「それだけ信頼してるってことだよ」
「うわ、何それ。適当すぎませんか?」

ふふ、と後輩が笑う。いつもの後輩は、表情筋が死んでるのか?というくらい無表情というか、愛想がない。少なくとも僕の前では。
そんな後輩は、たまに、ごく稀にだけれど、笑顔を見せてくれる。
僕はその後輩の笑顔が結構好きだったりする。

「頼りになる後輩さん。これからもよろしく」
「真面目じゃない先輩がいると後輩は苦労しますね」
「実は嫌じゃなかったりして」
「図書委員として真面目に働いて欲しいとは思いますけど。でも先輩とこういう軽口の言い合いが出来るのは嫌いじゃないですよ」

おや、珍しく素直だ。何かいい事でもあったのだろうか。

「いつも小言ばかりなのに、そんなこと言うの珍しいね」
「小言を言われることしかしないからです」
「ぐっ…何も言い返せない…!」

ふふんと得意げな顔をしたのは今度は後輩の方だった。

「本の整理をするの嫌いじゃないですけど、先輩が手伝ってくれたらもっと早く終わらせて帰れるのにな」
「僕は不真面目なので」
「根に持ってます?」
「いいや?」

会話をしながらも手を止めることなく真面目に委員会活動をする後輩。時計を確認すると、もう少しで下校時刻というところだった。憂鬱だけれど、そろそろ真面目に動いた方が良さそうだ。どっこいしょと重い腰をあげて、作業をするべく棚へ向かう。

「あれ。小説読まないんですか?」
「今日はお終いにして手伝うよ。時間も時間だし」
「珍しい。明日は槍が降りますね」
「失礼な後輩だなあ」

完全下校を知らせるチャイムが鳴った。
とりあえず今日のところはこれでいいだろう。後は、明日の委員会の人間に任せるということで。
各々キリのいいところで作業する手を止めて、帰り支度をする。

「それじゃあ先輩。先に帰るので鍵、お願いしますね」
「任されました」
「任せました」

軽くじゃれあって、また明日ねと手をふる。
真面目な後輩と不真面目な先輩は、また明日もきっと同じような会話をするのだろう。
それでいい。それがいい。
きっとそれが僕たちなりの距離で、心地良い関係なのだ。

Category : 一次創作
Tag : 学生 恋愛 図書委員

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