五日目_C

 あれから私が目を覚ましたのは、二日後の事だった。二日も寝ていたのだ。二日も‼ 
 魈さんがゆっくり頭を撫でる感覚にぼんやり覚醒して、ん……と思っていたところをちゅうっと子どもみたいに唇を合わせられてびっくりして身体が動いて目が覚めた。魈さんもまさか起きてるとは思っていなかったらしく、ぴたりと動きを止めてじっとこちらを観察してきていた。
 えっキスしてきたの魈さんからだよね? とは思ったが、もしかしてこれいつもされてた? 習慣的な? 無意識で反応が遅れたのかなと考えると恥ずかしくなって責める気にもなれなずにやめた。
 おはようございます……、と身体を起こそうとすると全身にビリビリと走る鈍い痛み。身体が、重い。立てない……直感でそう悟った私を、魈さんは心当たりがあるらしく「無理はするな」と言って布団に逆戻りさせられた。
「今までで一番身体が重いです……」
「…………悪い」
「いやっ私がその、異国の……しようって、言い出したので……」
「無理をさせたのは我だ」
 その言葉に全てを思い出してしまって、かぁぁぁと顔が熱くなる。たしかにいつも私の事を考えてくれて、性行為も仙気供給も私がいやって言ったら止めてくれてたけど……。魈さんだって、我慢、してるんだなってすごい思った、し……。あんまり我慢してもらうとほんとは良くないんじゃないかとも今になると思う。だって……あんなにされたら、ね。二日も寝ちゃうよね……。
 恥ずかしくなって寝返りを打とうにも身体がうまく動かない。どれだけやったらこんなになるの? 確かに魈さんにずっと抱きしめられてたから無理な体勢してたかもしれないけど………、
「………お前が眠ってからも、……その」
「……えっ?」
「………、悪かった」
 え?? えっ?? 私が意識飛ばしてからも、したの?? えっ? え?? 絶対そのせいで身体痛めてるよね? あれっ??
 水を取ってくる。と言って寝室から音もなく消える魈さん。ちょっ、ちょっと待ってと止めたいところだが頭が混乱しててうまく言葉が出てこないし、なにより身体が重くて動かない。今までそんな事無かったのに、あの異国の性行為……すごいなあ。精神の繋がりはまだよく分からないけど、見たことない魈さんの一面を見れて凄く嬉しい。
 重い身体とは正反対に軽くてふわふわする気持ちで、へへっと誰も居ないのに笑ってしまう。
 布団の中から視線だけ動かして部屋を眺めていると、魈さんが以前他の仙人たちから貰ってきた清心の花が生けてあるのが目に入る。数本色艶のいい瑠璃百合が混ざっているから、あの時のもので間違いない。あれ、ここには飾ってなかったと思うけど……魈さんが持ってきてくれたのかな。ぼーっと眺めていると花びらからぽとりと露が落ちて葉先に跳ねる。水が一滴葉を揺らしただけで、花が歓迎するように全体を動かすのがおもしろい。
「飲めるか」
「うわっびっくりした……! の、みたいです」
 スッと視界に入ってきた魈さんに驚く。このひとわざとでもいいから音出してほしい。
 身体を起こそうとするけどうまく力が入らなくて、見かねた魈さんが手伝ってくれてなんとか布団に座り込める。うぅ、腰が重い、身体がだるい……。
 そっと水を注がれた茶器を渡されて、ゆっくり口をつける。冷たい水が喉を通って胃に落ちる感覚が久しぶりのような気がして気持ちいい。ごくりと飲み干して魈さんに茶器を返そうとすると、じっと顔を見られていることに気づく。どうしたんだろう。顔疲れてるかな。
「……魈さん?」
 そっと茶器ごと手を握られて、吸い寄せられるように音もなくキスされる。暫くしてから唇が離れて、伏せられていた鋭い金色の瞳がゆっくりと開かれるのを近くで見る。
 何事もなかったように茶器を取り下げられて、「寝ろ」と横にさせられる。えっ今なんでキスされたんだろう……。驚いて声も出なかったし、目を閉じることも忘れていた。
 寝ろと言われても、身体こそだるいが気持ちは元気で寝られない。魈さんはどこか行っちゃうのかな。こっそり魈さんの様子を伺っていると、ばちりと目が合って心臓がとくりと脈打つ。
「我と精神の繋がりが欲しいんだったな」
「は、はいっ」
「……目に映るものだけが繋がりとは限らないが」
「えと、?」
「これは、お前が欲していたものだろう。……満足したか?」
 ただの結果にすぎないが。と難しいことを言いながら手鏡を渡される。なに、と思いながらそっと鏡に写る自分の顔を見る。ん……? なんか変わってる? なんか劇的な変化はべつ、に……
「あ‼」
「………」
「目! いろが! しょうさん‼」
「そうだな」
「……どうしよ、嬉しいです……!」
 え、いつからですか⁉ と記憶にない変化の瞬間を聞いても、「さあな」とはぐらかされて教えてくれなかった。
「満足したなら寝ろ」
「眠たくないですよ〜! へへ」
 ぱしっと手鏡を取り上げられて、鋭い金色の瞳と目があった。私とおんなじ、だ。

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