impactにdunkして
今日の練習を終えバスケット部員たちが帰った後、
静まった体育館の中で一人シュートの練習をしていた。
次の練習試合では絶対に100点ゴールを決める。
そして点差を150以上つける。
自分の中で目標を掲げてはそれに向かってひたすら練習に励んでいた。
あとこの1回、ゴールを決めたら今日の練習は終わり。
最後の力を振り絞り、思い切りリングをめがけ走る。
リング下目前で勢いよく地面を蹴った瞬間、ゴールの後ろの扉が開かれた。
気にも留めずそのままダンクを決め着地した時、初めてその人物に視線を送った。
「………。」
マヌケな顔して立っていたのは、
クラスメイトの西園寺 薔薇子だった。
会話をしたことは無かったが、ゴ…、赤木キャプテンの妹に匹敵するほどの天然に加え、ドジでマヌケな奴だ。
移動教室にも気づかず一人で次の授業の待機をしたり
飛んできたボールを避けたかと思えばそのまま傍らのゴミ箱へ突っ込んだり
とにかくマヌケなやつだ。
そしてそのあまりのマヌケぶりにいつしか目で追っていた。
目が離せなくなっていた。
「何をしてる。」
いつまでも呆けて立っている西園寺に声をかければ、慌てながら忘れ物を取りに来たのだと言った。
ほんの少しでも自分を見に来たのではないか
と期待した自分が馬鹿らしくなり、
素っ気なく返事をするも、そんなことはお構いなしに
興奮気味に感動を訴える西園寺に悪い気はしなかった。
褒められた事に素直に返事を返せば意外な顔をされ、
挙句ずうずうしくも「今のをもう一回やってくれ」
とせがんで来た。
今日のノルマは達成したんだ。
俺はもう帰る。
言いかけた言葉を飲み込み、さっき以上のダンクをみせてやると密かに意気込んで返事をする。
何故こんなマヌケな西園寺のためにしてやっているのか、自分でもわからなかった。
視線を背中に感じながらドリブルをしてゴールから離れる。
コートの真ん中くらいまで移動し、ゆっくりターンをしてリングの方を向く。
息を整え、小さく吸ってからリズムよくボールを床に弾ませる。
糸がはじかれたように走り出してから
バスケットゴール前で地面を蹴り、両手で思い切り
ボールを叩き入れた。
ちらりと西園寺を見やるときらきらと目を輝かせながら此方を見つめ、全身を震わせながら感動を述べていた。
なんとなく気恥ずかしくなり視線を外すと右手に持っている筆に目が留まった。
訊ねるとようやく我に返り、「探さなくていいのか」と問うと「何を探しに来たのか忘れた」と言うものだから飽きれた。
左腕のブレザーにはマーブル模様の絵の具が広がっていた。
確か西園寺は美術部に入っていた。
(誰かがそう言っていた。)
大方、絵の具で汚し、ジャージに着替えようとしたところジャージが無くて探しに来たのだろう。
「ジャージ!探しに来たんだ!」
ほら。
「マヌケなんだな。」
と言ってやれば子どものように唇を尖らせた。
ステージ近くにあるだろうという西園寺に背を向け、
ボールを拾う。
ただ歩くだけでも何かしでかす奴だ。
何となく放っておけなくてボールを片付けるついでにジャージを探すことにした。
あくまでもジャージはついでだ。
照れ隠しにそういってステージへ向かうと後ろからキュっという摩擦音のあとに派手な音が響き渡った。
「……何やってやがる。」
うずくまっている西園寺に声をかけるも
本人には届いておらず、床に着いた絵の具に絶望していた。
「ったく。世話が焼ける」
と言いつつも西園寺らしい、とある意味感心した。
肩にかけていたタオルで床を拭き始めると今にも零れ落ちそうなほど涙をためながら「汚れちゃう」と阻止してきた。
不憫な左腕に視線を送りながら「あんたも同じだろう」と言えば返す言葉もなく黙る西園寺。
「それより、あんたは早くジャージ探してくれば。」
自覚しているのか、自分のマヌケな行動にいちいち
落胆する西園寺に今一番の目的を達成させるために助言すれば申し訳なさそうに再びこちらに目を向けた。
そして頷いてから小さく笑うと勢い良く立ち上がる。
嫌な予感がして咄嗟に呼び止めると、
西園寺は駆け出すつもりであっただろう右足をとめ、急に勢いを失った全身が前のめりになる。
不思議そうにこちらを見下ろす西園寺へ
「走るな。」
と一言告げて床を拭き始めた。
消えかけの声で「はい」と返事をし、慎重に歩いて行く西園寺の背中に
俺は保護者か。
と悪事を付く。
拭き終わってもなお、帰ってこない西園寺のもとへ向かうか迷っていると、解り易く派手な足音を響き渡らせながら笑顔でジャージを片手に此方へ戻ってきた。
弄んでいたボールを片付けに倉庫へ行こうとすると西園寺がついて来ようとしたので
「そこで待ってろ」
と告げる。
あのどあほうの如く、体育館倉庫のカギでも壊されたら笑えない。
帰り支度を終え肩を並べて体育館を出る。
冷たい風が頬を撫で、熱気帯びた身体を冷やしてくれた。
「あの、本当にごめんね。タオル」
押し黙っていた西園寺が小さく呟く。
「別に。気にしなくていい。」
タオルなんていくらでもあるし、当たり前に汚れる。
「でも……。」
納得のいかない西園寺は申し訳なさそうに顔を俯かせた。
ピタリと足を止め、顎に左手を添えて西園寺をじっと見つめてみる。
マヌケで天然なくせにケッコー繊細らしい。
「えっと…………、?」
訳がわからず戸惑う西園寺。
何故か今日、この場で会話が終わってしまうのが名残惜しく感じた。
「今週の土曜日、練習試合がある。」
と言うと先程の曇らせていた表情は無く、興味深そうに相槌を打つ西園寺。
「来れば」
万全な体制で挑む俺を見に来い
という思いを乗せて「応援しに来い」と投げやりにいってやれば西園寺は顔を赤らめながら頷いた。
私も流川親衛隊に入ろうかな
なんて馬鹿げた発言している西園寺に口癖の言葉で返答しながら
いつも以上に気合を入れて明日からの練習に励もうと思った。
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(おい、こっちは校門だ。
あんたは美術室へ戻るんじゃないのか)
(あっそうだった!)
(……どあほう…。)
end...
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