波にとびこむユウキを私に
ふわふわのかき氷のような小さな飛沫が一定のリズムで押し寄せてくる。
少し砂に埋もれた素足の指ギリギリまできた波に淡い不安を抱きながら再び戻っていく波を目で追う。
あと一歩、前に踏み出せば次に来た波が私の両足を濡らすだろう。
「何をしているの?」
遠い意識の中で聞こえていた波音に混じった砂浜を踏み潰す音は止んでおり、いつのまにかその人物はすぐそばにいた様だった。
振り向けば立っていたのは同じ学校の1つ上の先輩、仙道彰だった。
あのバスケ部で有名な。
「えっと、」
戸惑いのまま視線を送ると彼はニコッと微笑んだ。
「海に入ってみたいな…って、思って…。」
語尾を小さめながら言うと彼はきょとんとした。
入ればいいのに、と言いたげなのは表情で伝わった。
「私、生まれは東京なんです。」
中学まで都心で育った私は海を見たことがなかった。
いや、正確には浜辺に降り立ったことがなかった。
「あぁ…。」
全てを理解した様子の彼はそれ以上何も聞かなかった。
「仙道先輩、ですよね?」
「ん?」
「こんなところにいていいんですか?」
バスケ部の練習中では?と問うと彼は海と空が混じる遠くを見つめ笑った。
それから、照らされた砂浜の上にゆっくり座る彼に倣い、
微妙な距離を開けて座ってみる。
「俺も東京生まれなんだ。
推薦でこの高校に入るために神奈川に来た」
「え、そうだったんですね!」
「たまに部活をサボってこうやって海に来るんだ」
さすが…!
田岡先生からの熱心なラブコールを受けて入学したという噂は本当だったのか…!
それよりもさらっと言ったけど、
部活の時間に体育館へ行った時、彼の姿を目にすることが少なかったのはどうやらよくサボっているかららしい。
「たまに」といったが、恐らく悪質な常習犯だろう。
そういえば彦一くんがよく嘆いていた。
「ふふ…。」
「なにか楽しいことでもあった?」
「あ、いえ、彦一くんがよく仙道先輩が居ないって嘆いているなって」
「そうか、それは悪いことをしたなあ」
ほんの少しも悪びれた様子はなく、
のんびりと答えて笑っている。
「泳いだりするのですか?」
「いいや、釣り専門だね」
「釣り!?」
あまりにも意外で思わず大きく復唱する。
その様子がおかしかったのか此方を見やってまた笑う。
「この辺って釣れるんですか?」
「場所によるけど、俺はあまり運がないなあ」
この前なんて長靴がつれたよ、
とおどけてみせる彼につられて笑う。
「私、サーフィンしてみたい…」
ぽつりと呟くと困ったように
「釣りなら教えられるんだけどなあ」と言った。
それから間を開けて彼が呟く。
「そういや海南の牧って奴がサーフィン得意だったかな」
牧?だれだろう
もしかすると同じバスケ部で試合をしたことがある人かな?
と考えているとふわりと立ち上がる仙道先輩。
「ま、釣りがやりたくなったら俺のところにおいで、
薔薇子ちゃん」
ぱちりと右目を瞑り、それから背を向け去っていく。
いつのまにか登場し、華麗に去っていく彼に翻弄されながら私は熱を冷ますべく思い切り波へ駆け込んだのだった。
波にとびこむユウキを私に
(あれ、私の名前……)
end...
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