あなたのために祈ります(天草/FGO)

「昨日が誕生日だったそうで、おめでとうございます」

 そう言って天草が手渡してきた花束は私の両手に余らないくらいの丁度良い大きさで、彼のセンスが伺えた。
 例えるならば、学校の卒業式の日に部活の後輩達からもうものよりは大きく、アイドルグループの一員が卒業と称してグループを脱退する時に貰うものよりは小さい。そんなサイズ。
 別に花束の大きさに対して何か言いたい事がある訳ではなく、寧ろこのくらいのサイズの方が良いまである。どんなものでも丁度良いに越したことはない。

「ありがとう」
「遅くなってすみません」
「別に気にしてないよ。寧ろ遅くても祝ってもらえて嬉しい」
「喜んでもらえたのなら良いのですが……」
「あ、そうだ。昨日貰ったお菓子があるから良かったら少し話さない?」
「ええ、ではお言葉に甘えて」

 椅子に座って待っててもらっている間にキッチンで紅茶を入れるためのお湯を沸かしながら戸棚からカップとソーサーと、冷蔵庫から昨日貰ったお菓子を取り出す。このバームクーヘンを見た時に何故か天草の顔が浮かんでしまい、特に天草の好物という訳でもないので不思議だったがこうして彼と食べることになったのを考えるときっとあの時のは何かの天啓だったのだろう。
 準備が早々に終わったので先ほど貰った花束を飾るために花瓶を取り出し元の造形を崩さないよう長さを揃えてから挿す。全体的に白やピンクなどの淡くて明るい色が多く、見ていて心が落ち着くような気持ちになる。
 次いでお湯が沸いたので正しい手順で紅茶を淹れ、切り分けたバームクーヘンをお皿に乗せる。あとはそれらをトレーに乗せて持って行くだけ、というタイミングで天草がキッチンに姿を現した。

「どうしたの? もう出来たから持って行くだけだよ」
「ええ。ですから私が持って行きますよ」
「いいよいいよ。お客さんなんだから座って待ってて」
「いえ、寧ろこちらが突然来てしまったのでこれくらいはさせて下さい」
「えー……じゃあお言葉に甘えて」
「はい」

 私の返答に満足したように頷くと、ちらと花瓶に入った花を見てからトレーを持って踵を返したので私も花瓶を持って彼の後ろについて行く。花の香りに混じって紅茶の香りを鼻腔を擽る。落ち着く香りだった。



「それではささやかな誕生会の延長戦といきましょう」
「ふふっ、何それ。でもいいね、それ」

 いただきます、とちょっとしたお茶会でも律儀にそう言ってしまうのは日本人の性と言うべきか。
 昨日は誰がどのように祝ってくれたのかという話をしながら、ちょっとした午後のひと時を過ごす。ここでは色んなサーヴァントがいて賑やかで良いのだけど、こうして天草としっとり落ち着いて過ごすのも好きだったりする。

「やっぱ花があると映えるよね」

 花束は花瓶に生けられ窓辺に色を添え、物が少ない私の部屋が文字通り華やかになる。花はいつか枯れてしまうものだからこそ美しく感じられるところが特に好ましく、同時に羨ましくなる。
 花は好きだけど詳しくはないので貰った花すべての種類を言い当てられる訳ではないので後で図書ルームで図鑑を借りてくるのもいいかもしれない。

「特にあの白い綿毛みたいなの、可愛くて好きかも」
「あれはヒヤシンスというそうです」
「ヒヤシンス……」
「ひと目見た時に貴女の顔が浮かんだので、あれをメインに添えようと決めて、多少ショップの方にアドバイスを頂きながら他の花も選んで、素敵な花束にしてもらいました」

 花を見つめる彼の横顔はとても穏やかで、憂いを帯びる琥珀色の瞳をずっと眺めていたいとすら思える。

「え、一本一本天草が選んでくれたの?」
「ええ。多少なりともショップの方に手伝ってもらったので一から十まで全て自分で、という訳ではありませんが……」
「いやいや、天草が選んでくれたっていうだけで十分だって。すごく嬉しいよ」
「そう言ってもらえて良かった」

 いつもの微笑みではなく少しはにかんだような、いつもと違って年相応な男の子の顔をしていたのでどきりと心臓が高鳴った。早鐘を打つ心臓を無理やり落ち着かせながら改めてお礼を告げたがきっとしどろもどろだったに違いない。
 動揺している私に天草は小さく笑っていたがその頬が赤みを帯びているのが分かって、思わず私もくすりと笑ってしまった。



  
 >>戻る >>TOPに戻る