※10/14オロルン誕生日おめでとう!
「――ねぇ、運命ってあると思う?」
ベッドの中でそれまで眠たそうにしていたナマエがおもむろに僕の目を見つめてそう言った。
運命。人間の意志を超越した力によって、人生にもたらされる幸福や不幸などを含めた全ての巡り合わせのこと。
確か以前に読んだ娯楽小説にそういった説明が書いてあって、ヒロインが主人公に対して自分たちの出会いは運命なのだと言うシーンがあった。
ナタには生まれた日によってその人の運命が決まるという考え方もあり、謎煙の主の人達は大霊との親交や星を見たりして人の未来を占ったりする。中には前者通り、人の一生は運命によって決定づけられている、と言っているじいちゃんばあちゃんもいる。
ある、と言うのは簡単だ。
ない、と言うのも簡単だ。
けれどそれを証明することは出来ない。この世界を創った誰かが居たとして、この世界に生まれる全ての生き物の一生を事細かに決めているのだろうか。それともそんな時間はなくてそれぞれの一生はそれぞれに委ねられており偶然の積み重ねが今に繋がっているだけなのか。
先のアビスとの戦争において、沢山の犠牲者が出た。ナタ人だけではなく隊長の部下であるファデュイや他の国の人、それこそ隊長本人も。それに炎神様だって隊長の介入が無ければ自らの命を差し出すことを是としていた。
これら全てが運命だなんて思いたくない。失われた命を運命という言葉で片づけていいものじゃない。
けれど大英雄と同じ誕生日の人がその声優の加護を受け同じような資質の持ち主になった話を聞いたり、炎神様がこの時代を選んだのはアビスとの決戦が運命によって定められていたことの証明足り得るのかもしれない。
いくら考えたって僕の脳みそなんかで答えは導き出せない。
「えっと……正直に言うと分からない」
期待に添えられなくてごめん、と素直に謝ると彼女の手が伸びてきて僕の頭を優しく撫でる。垂れた耳を指の腹で優しく撫でられる感覚はとても気持ちがいい。
「何となく思いついて訊いてみただけだからそこまで真剣に考えなくていいよ」
でもちゃんと考えてくれてありがとうね、とナマエは柔らかく微笑んだ。
「僕には難しいことはよく分からない」
「私も得意じゃないよ」
「じゃあ何で訊いたんだ」
口をへの字に曲げて見せれば、それを見た彼女が小さく笑う。
普段からそんなに早く寝る方ではないのだが、今日に限っては色んなことを考え込んだせいでより一層冴えてしまったじゃないか。
「ふふっ、ごめんって。本当に何となく気になっただけなの」
「寝る前に何となく気になるものなのか……?」
「えへへ」
口では難しいことは得意じゃないと言っているくせにナマエは時々こうして小難しいことを考える癖がある。きっと彼女はこうして色んなことを考えているから頭がよく回り他者とのコミュニケーションが上手で、仕事も順調にいっているのだ。僕には真似できない。
「ほら、もう寝よう」
ナマエの瞳が再びまどろんできたのを確認して僕はベッドに深く潜り込み身体を丸め、柔らかい胸に頭を寄せるように彼女を抱き寄せる。どくんどくんと規則正しい心音が耳心地良い。
夜型の僕でもナマエの心音を聴いていると自然と眠たくなるから不思議だ。
僕は明確な答えの無い小難しいことを考えるのは苦手で、彼女の疑問に正解を返すことは出来ない。けれどもはっきりと分かることが一つだけある。
僕と彼女の出逢いも、彼女を愛おしいと思うこの気持ちも、気持ちが繋がることによる快楽の相性も、全てが他人による既定だとは思いたくない。
顔を上げれば彼女の瞼は半分ほど下がっていて、きっともうほとんど寝落ちかけていた。彼女が聞いていてもいなくても、明日覚えていなかろうと今言っておきたい。
「僕は自分の気持ちが誰かに決められたものだとは思わない」
つまり僕は運命の存在を信じていないということになるのだろう。ないと証明することは出来ないけれどないと信じることは出来るかもしれない。
「僕は僕の意志でナマエを好きになったし僕の意志でナマエを愛してるんだ」
彼女の瞼は完全に閉じられている。けれど心音は少しだけ早くなっていて、まだ夢の世界に旅立っていないことは伺える。
その証拠に長い睫毛が僅かに震えて、おもむろに持ち上がる。
「ふふ、その考え方、いいね、すごくいい」
オロルンらしくて好きだよ、とふにゃふにゃの口調で続けると僕の背中に腕を回して彼女の爪痕が残る肩甲骨のあたりを優しく撫でた。