【乱馬の姉ちゃん】(良牙/らんま)
・らんま→海賊の同一夢主のらんま原作編
・海賊キャラは一切出てこない
・海賊編以前の時間軸
早乙女名前
乱馬の姉。無類の怪力。無差別格闘早乙女流の使い手だが跡を継ぐ気は全くない。平和主義者であるが己の平穏の為ならば武力介入も辞さない。弟曰わく、怒らせると一番恐い人物。
父が弟・乱馬を連れ修行の旅へ出掛けてからは母と二人で暮らしていたが、父からの連絡が途絶えたのを心配し一人で呪泉郷へ赴く。その際、童子溺泉に落ちてしまい水を被ると子供の姿になってしまう体質となる。その後は父の足取りを追い、二人と合流し事情を知り現在は家族揃って天道家に居候中。
何処からか金を稼いで納めている。中華服を愛用し、鞄には常に着替えを持ち歩いている。弟・乱馬の使用する技は大体扱える。オリジナル技も持っており、合気道に通ずる技が多い。
乱馬の姉ちゃん01
・未完で中途半端な短編です
・第1話?
目的地である天道家に到着し、上がるよう促された少女は居間に通される。彼女は天道家当主の前に礼儀正しく正座をし、持参した菓子折りを差し出した。
「これ、詰らない物ですが」
「あ、こりゃどうも。随分としっかりした子だね」
そりゃあ見た目はいたいけな幼女だが中身は高校生だ。
・転入初日
「私ってば平和主義だから、物騒なことはちょっと……」
儚げな雰囲気を作ってそう言えば周りは頬を赤らめながらも、納得したように頷いてくれた。我ながら完璧な演技力。自慢じゃないけど女子高時代は淑女を演じすぎて憧れのマドンナと呼ばれていたのよ。
「それに、戦って勝つと言うならまずは弟に勝って頂かないと。弟よりも弱い男性に守ってもらうなんて、私ちょっと嫌です」
「名前さんって案外強かなのね」
「おいおい、姉ちゃん何言って……!」
感嘆の声を上げるあかねと、冷や汗を流す乱馬。当然、名前に交際を申し込んできた男子生徒の視線という名の殺気は乱馬に集中している。
弟の悲鳴を余所に名前は素知らぬ顔で校舎へと歩いてゆく。この騒がしさが明日からも続くのかと、内心うんざりする。
・飛龍昇天波修得編
「乱馬! そこになおれ!」
天道家でいつものように食卓を囲み夕餉を楽しんでいたときのこと。頭に沢山の瘤をこしらえた八宝斉が涙を流しながら乱馬を睨みつけたのだ。
「よーじじい。生きていたのか」
「わしの甘美な楽しみを奪った罪……万死に値する!」
そう叫ぶと八宝斉は灸を据えてやると乱馬と一悶着した末、乱馬の背中に灸を一つ据えると大人しく吹き飛ばされていった。あまりにもあっさりと撤退していく様を見た早雲と玄馬は首を傾げながらも箸を進める。
名前もささやかな怪しさを感じつつも弟の背中を一瞥するだけで、いつものように夕餉を食べ進めた。
翌朝、名前は乱馬たちより少々早いいつもの時間に天道家を出た。
昨晩のことは気がかりだったがあかねも付いているのだから大丈夫だろう。姉が出る幕は来ないことを祈りつつ校門をくぐる。
『乱馬弱くなったよ』
そんなふざけたことが書かれたチラシが大量に宙に舞っている。
手に取った名前はあまりの下らなさに思わずチラシを握りつぶす。
「こんな面白くない冗談誰が言い出したのかしらねぇ」
「名前さん顔が全然笑ってない……」
「こんな面白くないことをふれ込むクソジジイにはお灸を据えてあげなくっちゃね」
音声を消せば誰もが赤面するようなとびきりの笑顔を浮かべた美女がいるだけ。音声を消せば。
しかし真実は残酷なもので。言葉尻は優しいが内容は棘しかなく、次第に絶対零度とも言える冷気が辺りを漂い始める。
赤面していた顔を一瞬で青くし逃げてゆく男子生徒。
「姉ちゃん!」
「乱馬、可哀想に。お姉ちゃんが守ってあげるからね」
プライドの高い弟のことだ、情け無いところを姉に見られるのは好ましくないはず。ましてや子供の頃ように姉に縋ったり助けられるのというのは今の乱馬には耐えられないようだ
「俺に構わないでくれ」
「構うわよ。この世でたった二人の姉弟なんだから」
「姉ちゃん……」
「名前さん!」
「あら良牙くん。久しぶりね」
「お久しぶりです! あの、これお土産です!!」
頬を染め、手に持っていた土産品を突き出しす良牙。
「いつもありがとう。良牙くんも乱馬が心配で来てくれたのね。でもあの子はたった今右京ちゃんの所へ行ったわ」
「そ、そうなんですか! じゃ、じゃあ、あの、」
「? どうしたの?」
乱馬の姉ちゃん02
・キング編、天道道場取られた後
「ねぇ名前、何とかならない?」
彼女自身、お好み焼きは永遠に食べていられる程の好物だがこのまま右京の所に厄介になるわけにもいかないことは瞭然。それにあのいかさま師も気に入らない。
ついに、いつの間にか天道・早乙女両家の最後の砦となっている彼女が重い腰を上げたのだった。
「うん、わかった。全部私が取り返すね」
ちょっとコンビニ行ってくる。そんな軽いノリとは裏腹に彼女の顔は真剣だった。真剣に怒っていた。
「頼もしい!」
「さすが我が娘!」
ババをちょいと出すだけで引いてしまうような子供だましのようなテクニックが通用することと、こちらが引こうとするとき表情に出やすいこと。これら二つはキングの最大の弱点である。
小学生相手には楽勝だろうが高校生、しかもかなり優秀な部類の名前には通用しない。
ことであるのはなびきとの勝負を見ていたときに感づいていた。
能面もびっくりの無表情に、そして子供だましのテクニックで順調に天道家を取り戻してゆく。合間に早雲が何回か勝負をしては負けていた尻拭いもきっちりとこなすのを忘れず。
これでは不味いと考えたのだろうキングが得意のいかさまをし始めるが、尚も彼女のポーカーフェイスは崩れない。
「……何故勝てない!?」
キングがいくらババをすり替えよいとも必ず手元に戻ってきて、負ける。常人の目には見切れぬ早さでいかさまを行っている自分の速さを上回っている、そんなわけはありえない。
しかし彼女にはそれがありえたし、成し得るのだ。火中天津甘栗拳の応用でキングの目ですら追えぬほどの速さで微塵も違和感を感じさせぬいかさまを行っているである。
奇しくも己の勝利のために行ったいかさまが、彼女にいかさまを使わせる合図となったのだ。追いつめていたはずのキングはむしろ追いつめられていたのだ。
「貴方は速い。けれど私がそれを上回る早さだっただけよ」
彼女はそこで初めてポーカーフェイスを崩し笑顔を見せたが、それは気味の良いものではなかった。美人の笑顔のはずなのに眼だけは笑わっておらず、キングに対し射殺さんばかりの視線を送っている。
背筋を嫌な汗が落ちるのを感じながら残り一枚になった彼女の手札を引き抜く。天道家の玄関を取り戻し、残りは道場のみとなった。
名前はふう、と悩ましげなため息を吐くと
「このままじゃあ埒があかないから、そろそろ最後の勝負といきましょう?」
「そのようだな。最後くらいは正々堂々と勝負しようではないか」
キングが用意した最後の勝負はハートのエースとジョーカーのトランプ二枚だった。その二枚を、絵柄が見えぬようシャッフルしテーブルへ伏せるとキングは名前に一枚選ぶよう言った。エースを引けば名前の勝ち、ジョーカーを引けばキングの勝ち。
運任せとも言える最後の勝負、どちらがエースかはキングにも分からない。もっとも、キングがイカサマを働いていなければの話だが。
どちらがエースか、
不適に笑うキング
「な、なぜ……!?」
名前の選んだカードは見事にハートのエース。イカサマをしたはずのキングは自分の予測していた結果ではないことに驚愕し、ひっくり返されたカードと彼女の顔を交互に見やる。
キングが去っていった後。
「あのキングが正々堂々勝負を持ち掛けるなんて……」
「いえ、イカサマされていたわよ?」
「え、でも名前はハートのエースを……まさか……」
「ええ。正々堂々とイカサマをしたのよ」
にっこりと微笑んだ名前。彼女には適わない、別の意味でそう思った一同であった。
「俺は名前さんが好きなんだぁぁぁっ!」
「えっと、その……盗み聞きするつもりは無かったんだけどね、私ってばてっきり良牙くんはあかねちゃんが好きなんだと……私勘違いしてたのね、うん、その、ね……ごめんね!」
「き、聞かれた……もう終わりだ……」
「良かったな良牙。脈ありだぞ」
「どこが脈ありなんだ!?」
「今までの姉ちゃんは幾度となく告白されても笑顔で断ってたんだ。あれだけテンパってりゃ十分脈ありの証拠だ」
桜餅の話(完成品)
「あら、あかねちゃんお菓子作り?」
「あ、名前さん。それが……」
のどの渇きを感じ何か飲み物をと思い名前が台所へと足を運ぶと、そこではあかねが何やら料理をしている最中であった。内容を見やるとどうやら和菓子らしく、気になった名前は素直に声をかけるとあかねは彼女にいきさつを話した。
話を要約すると、かすみに茶菓子を買ってくるよう頼まれたあかねが桜餅を買おうと行きつけの和菓子屋へ行くと店は休み。そして行商の怪しい翁に桜餅の恋占いの話を聞いたそうだ。
手作りの桜餅を意中の相手に食べさせ、その男が自分と結ばれる運命の者ならば顔面に桜の花びらの印が現れるのだそう。
話を聞いた名前は眉を寄せ唇を尖らせる。運命の人の顔に桜模様が浮かぶなんて話、にわかに信じがたい。しかしそれが本当ならば一興。
「……私も作ってみようかしら?」
「ぜひ!」
とは言ったものの出来上がった桜餅をすぐ本命に食べさせるのでは面白味がない。まずは誰かで試してみねば、そう思い立った名前は、桜餅の入ったお重を抱え台所を後にする。
ちなみにあかねの桜餅は始めに茶の間へと運ばれたのだが毒味と称され八宝斎の口に無理やり突っ込まれ、見事な罰印を浮かび上がらせた。そしてやはり、あかねの桜餅は不味かった。
名前が誰に食べさせようか考えているうちに、あかねの桜餅から逃げおおせた乱馬が歩いているのを見つけた。何ともベストタイミング、彼女は口元に笑みが浮かべる。
「……乱馬」
「何だ? 姉ちゃ、むぐ……?」
乱馬が振り向いた刹那、彼の口に桜餅が入れられていた。始めはあかねの作ったものかと焦ったが、笑顔の姉と、口内に程よい甘味が広がるのを感じ、素直に咀嚼し始める。
先ほど家族を蒼然とさせたあかね手製の桜餅とは違い、名前の作った方はちゃんとした桜餅の味がする。あかねの方のはまだ食べていないが味は大方想像がつく。その想像が美味いものではないが些か切ないが。
「美味しい?」
「ああ美味しいけど……まさかこれも……?」
「ええ、そのまさかよ。乱馬、顔洗いなさいね」
見事に罰印が付いた顔を歪ませ乱馬は洗面台へと急いだ。こんな顔をあかねに見られでもしたら勘違いされるに決まっている。
弟の顔に出た印を見て、彼女も桜餅の効果を信じることにし、他に誰に食わそうかを思考する。本命は最後に取っておくとして、どうせなら反応が面白そうな人を選びたい。
「おお、早乙女名前、奇遇だな! いや、むしろこれは運命と言うべきか!」
そっと彼女の肩を抱き現れたのは同級生の久能帯刀だった。既にあかねの方を食べたのだろう、彼の顔にも罰印が付いている。
「運命でもなければ奇遇でもないと思うの。同級生のよしみで桜餅はあげるけどね」
肩に乗った手を叩き落とし、お重から桜餅を取り出し久能の口へ押し込む。あかねのとは違い美味いそれを涙を流して食べる。が、顔の模様に変化はない。罰印の上に罰印が出ても変化がないのと同じ、彼は運命の相手ではない。
ふと乱馬とあかねが外へ飛び出して行ったのを見、交際だと勝手に一人で騒ぎ立てている久能を放り、名前も外へと出てゆく。
二人を追いかけた名前が見つけたのは額に桜の花びらを浮かばせた良牙と、それを見て唖然とする乱馬とあかねだった。
その光景だけで彼があかねの桜餅を食べたこと、それによって模様が浮かび上がったことが見て取れる。名前は静かにその場から去った。
良牙の想い人が名前であることを知っている二人は、複雑な表情で良牙の額を見つめている。まさか彼があかねの運命の相手なのだろうか。
どちらにせよこの状況を名前に見られでもしたら、それこそあかねの桜餅よりも不味い状況になるのは目に見えている。
とりあえず彼に事情を説明しようとしたとき、たまたまそこを歩いていた親子の会話が妙に耳に付いた。
「おかーさん、さくらモチおちてる」
「ばっちいから拾っちゃダメよ」
「……さくらもち?」
「まさか……」
二人が視線をやると道路に落ちている子供の言ったとおり桜餅が落ちている。あかねの手元にあるのとは違い、店で売られていても不自然ではない出来のものが。
それが名前の作ったものであれば先ほどまで彼女がここにいたことになる。もしかしたら見られてはならない現場を見られたのかもしれない。
「これ名前さんの作ったやつに似てる」
「それが本当なら姉ちゃんに見られてたってことになるな」
「おい、名前さんがどうしたんだよ?」
「乱馬食べてみなさいよ。地面に付いてない部分なら大丈夫!」
「いや大丈夫じゃねーよ!」
「俺を無視するな!」
痺れを切らした良牙が乱馬に向かって叫ぶ。そこで、ようやっと彼の存在を思い出した乱馬は悪い悪いと、全く悪びれた様子もなく事情を説明し始めた。
乱馬とあかねの説明を聞いてゆくうちにみるみる顔を赤く染めたと思いきや今度は蒼くする。名前の桜餅を食べれば自分が彼女と結ばれる運命かがわかる。食べたい、でも罰印が出たらどうしようという揺れる気持ちが顔色にでているのだ。
とりあえず名前の下へ行き誤解が生じているのならばそれを解く必要がある。桜の花びらの印が出てしまったのは事実なので誤解も何もないのだが。
「名前さん!」
「姉ちゃん!」
名前のために用意された部屋まで走り乱馬とあかねが力任せに障子を開ければ、案の定彼女はそこにいた。落ち込む訳でもなければ怒ったり笑ったりもせず、いつもと変わらぬ様子で読書を嗜んでいる。
あの現場に居合わせていなかったのだろう、あの桜餅もきっと偶然誰か別の人間が落としていったに違いない。そう結論付け、安堵の溜め息を吐こうとした時。
「あら、やっと来たのね。待ちくたびれちゃったわ」
その言葉に二人は固まる。それと同時に桜餅の製作者が名前であることが確定した。
「名前さん! あの桜模様は何かの間違いよ!」
「そ、そうだぜ。ほら、あいつのヒズメの形って桜の花びらとそっくりだろ?……ってああ! そういうことか!!」
「? どうしてここでPちゃんが出てくるのよ」
ようやっと真実に気づいた乱馬。
あかねの桜餅を食べた良牙ことPちゃんはその衝撃に自分の顔を叩きまくり、その結果人間に戻った際顔に残っていたヒズメの痕を桜模様と勘違いしていたのだ。
人間に戻るためにお湯を浴びた時にバツ印は消えたのだと考えると全ての辻褄が合う。
気付いた事実を姉に力説すれば名前の表情は心なしか明るくなる。
「そ、そう……」
「つーわけで俺ちは退散するとすっか」
ほら行くぞと、あかねを連れて名前の部屋から出ていく乱馬。その場に残ったのは名前と、良牙。
「あっ、あの、俺……!」
「良牙くん、桜餅食べる?」
「……はい! 喜んで!」
部屋を出てすぐの縁側に並んで座り、名前の差し出した重箱から形の良い桜餅に手を伸ばす。
「う、美味い! こんなに美味い桜餅は生まれて初めてだ!」
「そう、良かった」
自作の桜餅を本当に美味そうに食べる良牙を見て名前もにこにこと上機嫌だ。
それもそのはず彼の顔にはそれは見事な桜吹雪が舞っているのだから。
一方乱馬はと言うと、罰印が出るやもしれない緊張か桜の花びらが浮かび上がった場合の照れ隠しか、日中同様あかねの桜餅から逃げ回っているのであった。
異国溺泉海賊編01
・らんま→海賊の混合トリップ
・らんまキャラは最初にちょっとだけ出てる
・以降は良牙以外ほぼ出てこない
・出てきても名前や回想程度
・夢主がチート性能
・良牙が夢主にべた惚れ
・原作沿いだが誰かの活躍を奪ったりする
・良牙寄り、良牙落ち
日本に呪泉があるという情報を手に入れた乱馬たちは急いでその場所へ向かった。しかしそこにあったのは異国溺泉(ピンインニーチュアン)という異国へ繋がっているという泉一つであった。
「この泉は『異国溺泉(ピンインニーチュアン)』と言い様々な異国人が一斉に溺れた悲劇的伝説があって、それ以来ここで溺れた者、皆異国へ行ってしまう呪い的泉!」
異国へ旅行が出来る泉かと思いきや、ガイドによると異国は異国でも異世界の方だと言う。あまりのきな臭さに一行が帰ろうと踵を返したその時だった。パンダ姿の父の尻に押された名前はあれま真っ逆さま、異国溺泉へと落ちてしまったのです。落ちる寸前、彼女を助けようと恋人の響良牙が手を掴むも、足を滑らせ一緒に異国溺泉へと落ちてしまったのでした。
それだけならば良いものの、名前の弟である乱馬が助けようとした瞬間のこと。異国溺泉が見る見るうちに枯れてゆくではありませんか。これには天道家も早乙女家も皆唖然。泉の枯れ地には彼女も、その恋人の姿も、それどころかガイドも泉があったはずの穴さえも綺麗さっぱり無くなっていたのです。
いなくなった二人を取り戻す方法を探し始めた一行。そしてどこか異国へと飛ばされた二人の行き着いた先は――。
異国溺泉海賊編02
ナミの故郷を支配していた魚人アーロン一味を壊滅させ島に平和を取り戻した麦わらのルフィとその仲間たち。ニュースクーが運んできた新聞に挟まれたルフィの手配書により海賊としての箔を上げた一行は、グランドラインを目指していた。
「ん? 何か流されてるぞ」
「食い物か?」
穏やかな波が運んできたのは一人の少女と小さな黒い豚だった。それを見た女性はすぐさま、引き揚げるよう指示し、一人と一匹、それと番傘を一つ、引き揚げた。
少女は美しく、綺麗な黒髪を左サイドで一つに括っている。服装は赤い中華服、袖は長くウエスト部分にはベルトのようなものが付いている。下は裾が絞ってある白のズボンだ。
入ると異国へ飛ばされてしまう異国溺泉(ピンインニーチュアン)へと落ちた名前と良牙。何とか意識を取り戻した名前の目に映ったのはオレンジ色の髪をした活発そうな女性だった。
「大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です。……ここは?」
「なあこの豚食ってもいいか?」
「豚?……食べちゃ駄目」
「ちぇっ。腹減ってたのに」
麦わら帽子の男・ルフィが名前の握っている豚を指差しているのを見て首を振る。見た目は黒豚でも中身はちゃんとした人間なのだ、食われては困る。
パンダに押され異国溺泉へ落ちる間際、良牙に握られた手は黒豚と子供の姿となった今でもしっかりと繋がれ離さない。金髪の男性の心配する言葉も耳に入れず、彼女は左手を握っている黒豚を覗き込み優しく頬を叩いた。
「良牙くんしっかりして。起きてってば」
「……ぶぎ? ぶきき〜!」
「よかった」
やっとのことで息を吹き返した黒豚は童女姿の名前を見て一目散に飛びついた。彼女も黒豚を優しく抱き留め、お互いの無事を喜び合う。美しい童女が黒豚を抱き締めているのは何とも妙な光景である。
名前は黒豚姿の良牙を抱きしめたまま周りを見渡し、目を見開いた。先程から潮の匂いが鼻孔を過ぎっていたが、。潮の匂いがするということはここは海の近くということになる。そう結論付けていたら、実は海のど真ん中にいたのだ。
あのガイドの言っていた通り彼女たちは異世界に来てしまった、ということになる。にわかに信じがたいがすぐに信じざるを得なくなる。
「すみません、ここはどこですか?」
「どこって、東の海(イーストブルー)のど真ん中、海賊船の上よ」
「いーすとぶるー……?」
名前の質問にオレンジ色の髪の女性・ナミが答えた。当たり前だと言わんばかりに返された聞いたことのない言葉に、名前たちは不信を確信へと変えた。ここは異世界である。
とりあえず船室へ入るよう促される。名前は移動しようと立ち上がると、自分の格好に違和感を感じた。異国溺泉へ落ちたときは大人の姿だったはずなのに現在彼女が着ているのはいつもの子供服。
彼女が常に持ち歩いている肩掛けカバンには、自身が大きくなったとき用の衣服と予備の子供服の他にも良牙の衣服が綺麗に畳んで入っていた。おかしい。良牙も変身前の人間の姿で泉へ落ちたというのに、着ていたはずの衣服が彼女のカバンに入っている。
異国溺泉はそういったアフターサービスもしているのだろうかと彼女が少しズレた発想をしていると長鼻の男・ウソップが声を上げた。
「おいこの傘すげー重いぞ!」
名前たちと共に拾い上げられた番傘は良牙の私物であり普通の物より重く出来ている。そのため常人が持ち上げるのは難しく、この船で一番腕力のあるゾロですら重く感じる程だ。
そんな重量を誇る傘を、波に揉まれながらも手放さなかったこの少女の握力。ゾロは静かに名前に視線を移す、どうやらただの少女という訳ではなさそうだ。
「ゾロ! あんた何子供睨んでんのよ!」
「いでっ。何すんだよ!?」
「さ、船室へ入って、サンジ君が作った温かいスープでも飲みながら事情を話して」
「はい」
ナミには睨んでいるように見えたらしく思い切り頭を殴られたゾロ。彼女はゾロを無視したまま少女を船室へ入るよう促し、黒豚を抱えた少女はナミの後に続いて船室へ入ってゆく。
少女がゾロの横を通る際、彼にしか聞こえぬような声量で言う。
「私たちは怪しい者ではありません。信じてとは言わないけれど」
「……十分怪しいじゃねぇか」
異国溺泉海賊編03
船室へと入った名前と良牙は、そこで金髪の男・サンジが用意してくれたスープを飲んで冷えた体を温める。
「良牙くん、スープ被っちゃ駄目よ」
「ぶき!」
名前の囁きに良牙も小さく頷く。ここで元の姿に戻りでもしたら長ったらしい説明をしなくてはいけなくなる。面倒という理由だけで、それだけは避けたい名前。
もっとも、彼も水を被ると黒豚になってしまう変態体質を見ず知らずの他人に知られたくはないだろう。何より、彼らは別に知る必要のないことだ。
それにしてもサンジという男の作ったスープはかすみに引けを取らぬ程美味かった。純粋な日本人として生まれ育った二人はどちらかと言えば和食が好みだったが、それを抜きにしても彼の料理の腕は一流だ。
特に良牙は豚の姿とはいえ恋人と肩を並べて食事を取っているのだ。美味く感じぬはずがない。
「助けてくれてありがとうございます。私の名前は早乙女名前。この子は響良牙ですが、Pちゃんとかシャルロットでも……」
「ぶきーっ!」
「うそうそ、冗談だよ、ごめんね」
「えっと、名前にリョーガね」
名前たちの自己紹介が終わると今度は彼らの自己紹介が始まった。船長のモンキー・D・ルフィ、剣士のロロノア・ゾロ、航海士のナミ、狙撃手のウソップ、コックのサンジ。
「それで、どうして海に流されてたの?」
ナミの質問に名前は必死に頭を回転させこの場を誤魔化す方法を考えた。異世界から、ましてや変身する人間なんて、まず説明しても信じてもらえやしない。怪しさ満点だ。
「私たち、異国溺泉という泉に落ちて、気づいたら皆さんに助けられていました」
「ピンインニーチュアン? 聞いたことねえな……」
一応、簡潔に事情を繕ったが嘘は言っていない。聞き慣れる言葉にウソップが唸る。元の世界へ帰るためにはこの世界にも存在するであろう異国溺泉を探さなくてはならないため、肝心な部分はしっかりと伝える。
「その他に……どこに住んでたとか分かる? 島の名前とか」
「分かりません」
下手に嘘を吐くならば大きな嘘を。記憶喪失を装えばこの世界のことを聞き出しやすいと考えた末の良案だ。
泉に落ちる以前のことは全て覚えているが日本だ東京だとこちらに無いであろう地名を言っても世迷い言や子供の妄想と思われるに違いない。それに二人はまだ彼らを信用している訳ではないのだ。
聞き流してはいたが海賊船と言っていたのを覚えている。名前らの知っている海賊と彼らが同類ならばここにいるのは危険である。
しかし、助けてもらったとも含め彼らに悪意や邪気の類はなく、現状で頼れるのは彼らしかいない。暫くは彼らの世話になると推測されるが信頼の置ける人物等か分からぬ内は、全てを話すには時期尚早。
全然思い出せないという演技をしているとナミが眉間にしわを寄せる。わざとらしすぎて怪しまれただろうか、名前が心配しているとナミが小さくため息を吐く。
「そう……記憶喪失かしら。これだけ小さい子だから仕方ないのかも」
「ふーん。じゃあお前ら俺の仲間になれよ」
「ってお前は何言ってんだよ!!」
ルフィの唐突な提案にウソップが全力でツッコミを入れる。それもそうだ、こんな子供と黒仔豚を仲間に引き入れて何の特がある。と言うよりいずれ親御の元へ返してやらねばならないのは明白。
故郷へ帰した後に海賊と関わっていたなどと海軍に知れたらこの子がどうなることか分かったものではない。最悪海賊の仲間とみなされ処刑される。
そんなことも分からないのかと、ウソップだけではなくナミとサンジまでもが怒鳴り散らす。ルフィは至極つまらなそうに唇を尖らせている。
「いいじゃねえかよー。帰る場所分かんねぇんだろ」
「よくねえ!」
「よくない!」
「……くすくす」
気付けば名前は笑っていた。彼らの掛け合いが遠い場所にいる家族たちのやり取りのようでつい笑ってしまったのだ。
名前の顔が綻ぶのを見て良牙も、ルフィたちも笑う。彼らは思ったほど悪い人間ではないらしい。
名前はテーブルの上に座っていた良牙を抱き上げ、再び口を開く。
「しばらくの間お世話になります」
「おう!」
「……和んでるとこ悪いが何か島が見えるぞ?」
「見えたか……。あの島が見えたってことはいよいよグランドラインに近づいてきたってことよ!」
外を眺めていたゾロの言葉に全員が船室から出る。名前も良牙を抱えたまま後に続くと水平線に島が見えた。
ナミの言葉に知らない単語が出てきたが、それはまあ後々この世界について聞くことにして、今はあの島についての説明に集中する。
あの島にはローグタウンという有名な町があり、別名『始まりと終わりの町』と言われている。かつての海賊王ゴールド・ロジャーが生まれた場所であり、処刑された場所でもある。
その話を聞いたルフィは俄然立ち寄る気満々となっている。名前たちも、島に着くまでにこの世界のことを少しでも聞いておくことにした。
「ぶきき?」
「うん、良牙くんが居るから大丈夫」
「ぶき!」
黒豚姿の良牙の言葉は名前に通じている訳ないのだが、彼が何を言いたいかは伝わっているようで、彼女は優しく微笑んだ。彼も、照れたように笑い返す。
兎にも角にも、名前と良牙が行き着いた先はやはり異世界であったが、面白い人たちに出会い、助けられた。
元の世界へ帰れる保証もないければ楽に進んで行ける訳もない、彼女らには様々な苦難が訪れるであろう。
けれども、どんな困難も二人ならば乗り越えられる。二人ならば大丈夫。
異国溺泉海賊編04
ローグタウンの在る島へと着いた麦わらの一行は、各々グランドラインに入るための準備を整えることとなった。
名前と良牙はというと、島に着くまでの短時間でこの世界のことについてをナミに教わり、彼女から持たされた小遣いをローグタウンを歩いていた。
誰かと共に行くことも進められたかが彼女は一人で大丈夫だと言い切った。ナミやサンジは年の割にはしっかりした子だと感心していたが、実年齢は彼女らとなんら変わりない。ゾロは相変わらず信用こそしていないが警戒は解いているようだ。
頭に黒豚を乗せ、店に入るでもなくただ歩いている少女。二人きりのため口調も元に戻っている。
周りに保護者も連れず、この町の治安が良くなければ人攫いに目を付けられているところだ。ただし実際に人攫いが彼女に目を付けたところで攫うことは不可能なのだが。
「……本当に違う世界に来ちゃったのね」
「ぶきき、ぶき」
「ふふ、その姿じゃ何言ってるか分からないよ」
「ぶき……」
近くの店へ入りお湯を拝借し、人気のない路地裏へと入り黒豚にお湯をかける。湯をかけられた黒豚は一瞬のうちに人間の男性へと姿を変えた。
頭にバンダナを巻いた男性こと良牙が名前の手を握ろうとした時だった。
「りょ、良牙くん服! 服着て!」
「あわわわ!」
頬を染めた名前が、顔を背けながら鞄から取り出した彼の服を差し出したのだ。
そこでようやく彼も、自分が一糸纏わぬ姿であることを思い出した。彼は羞恥で顔を真っ赤にさせ、差し出された服を着た。水をかけて動物の姿になった際、着用していた衣服が全て落ち脱げてしまうため、湯をかけて元の姿に戻ると全裸になってしまうのだ。
名前の場合は子供服を着ている状態で元の姿に戻ると服が破れてしまうので、極力入浴時以外にお湯を被るのは避けている。一応着替えは鞄に入れてはあるが、嫁入り前に肌を大衆に晒すのは遠慮したい所。嫁入り後も遠慮するのだが。
袖口と大きく開いた首周りのみが白色の、黄色い中華風の服に、下は黒いズボンで脚の部分に紐が巻かれている。しっかりといつも着ている服に身を包んだことを確認して、再び名前の手を握る。
「名前さん! すまねぇ、俺があのとき足を滑らせなければ今頃は……!」
「そんなこと言わないで、良牙くんは私を助けようとしてくれたのよ。それに元はと言えば私が……と言うよりあのパンダが悪いのよ。そうよ、あのパンダ親父が自分の体型を考えずに振り返ったりするから私が押されて……」
「あ、あの、名前、さん……?」
異国溺泉へ落ちた時のことを思い出し父親に対する怒りが沸々と沸きあがる名前。背後には闘気がめらめらと燃え上がっている。油断していた名前にも非はあるがパンダ化していたことを忘れていた玄馬にも非があるのは確かだ。
しかし、今更誰が悪いかなどど言い合っても現実は変わらない。今は異国溺泉の情報を手に入れ元の世界に帰る方が先決。それまでは良牙と名前の二人だけで何とかするしかない。
逆を言えば、それまではシスコンな彼女の弟も、うざったらしい久能も、邪魔をする者は誰もいない。名前との仲を深める千載一遇のチャンスとも言い換えられる。人間万事塞翁が馬とはよく言ったものだ。
「とにかく、俺は何が起ころうと貴女を守り通す」
「うん、ありがとう」
下心も一割ほど含んだ決意。これからどんな場所へ行きどんな相手と対峙しようと自分が名前を守り通す、嘘偽りのない良牙の決意。
良牙の言葉に、名前ははにかんで笑った。
異国溺泉海賊編05
「何を買えばいいのかしらね? とりあえず日用品とか?」
これから船上で生活していくうえで必要になるであろうものを見繕いながら、異国溺泉の情報を集めていたがこれといった収穫は無し。
メリー号が停泊してある港へと歩いていると、ふと武器屋らしい店が目に留まった。どちらともなく足を店へと運ぶ。
「兄妹ですかな?」
店主と思われる壮年の男性が話しかけてきた。二人とも中華風の服を着ているので兄妹と間違えられたのだ。
広げられた扇は黒地に赤い花が散りばめられたデザイン。良牙はこの花の名前を知らなかったが、美しいと感じた。
ちなみにその花は牡丹といい、彼らの世界では中国の国花として有名だ。日本では島根県の県花とも定められている。もともとは薬用として、中国から奈良時代に渡来したとされる。
美人の座り姿を形容する言葉『座れば牡丹』が馴染み深いだろう。花言葉は「王者の風格」「高貴」「壮麗」などとある。
まさに彼女に相応しい花なのだが良牙はそういった事に疎く花の名前すら分からないのだが、直感的に名前に似合うだろうと考え、更にはこれを持ち優雅に舞い踊る彼女を妄想して口元を緩めた良牙だったが、直ぐに意識を取り戻し店の主人に扇について尋ねた。その間僅か三秒。
「これは?」
「ああ、それですかい」
主人の説明によるとこれはただの扇ではないらしい。そもそもただの扇が武器屋で売っている訳がない。
「それは鉄扇といって、まあ簡単に言えば鉄で出来た扇子ですよ。護身用に買っていく人も多いんです」
よく見ると紙の部分は無く、扇部分に骨組み果ては金具までもが鉄で出来ている。唯一金属以外の素材は房紐のみで、色は鉄扇に描かれた牡丹と同じ赤。
使い方次第では護身だけではなく攻撃にも転用出来る。
「鉄で出来てるんで重いんですよ」
「名前さんなら軽く持てるんじゃないですか?」
「そうね」
ひょい、そんな効果音が付きそうなくらい軽々と鉄扇を持ち上げて見せた名前に、店主は目を丸くした。
「こりゃたまげた! 成人男性でも重く感じる代物なのに! お嬢ちゃん何もんだい?」
「うーん、格闘家?」
「なぜ疑問形……」
「わりぃ、おれ死んだ」
ルフィが笑う、刹那、轟音。そして落雷。
皮肉なことに二十二年前、ルフィがいた死刑台で今わの際に笑った人物が居た。それがかのゴールド・ロジャーだ。彼もまた、大海賊時代の幕開けとも言える宣言の後にその生涯を笑って終らせたのだ。
かつての海賊王とまったく同じ事をしたルフィを気に入り、天が彼を生かしたとでもいうのか。死刑台が破壊されるほどの雷が落ちても、全身ゴムで出来た彼の体は無事だった。
彼が悪魔の実を食べたゴム人間であることを知らない名前と良牙はなぜ彼が無事なのか頭の中が疑問符でいっぱいだ。
しかし久能や八宝斎も雷くらいでは死なないのでそういう人間もいるのだろうと考えるのを直ちに止めた。
「あ、雨……」
青天の霹靂、そして大雨。今までの青空が嘘のように一変し、曇天の大雨へと変わってしまった。
雨に打たれた良牙は当然黒仔豚へと変身してしまい先ほどの名前を守る宣言など虚しく、行き交う人ごみに踏まれぬよう彼女に守ってもらうのだった。
名前は黒豚姿の良牙を抱え彼の衣服をかき集めると船へと走った。途中広場のほうで大きな雷が落ちたのを見て、何らかの事件に巻き込まれそうだと格闘家の勘が言う。
名前は螺旋を描くようにステップを踏み、拳を高く突き上げた。
「飛龍昇天破!」
飛龍昇天破とは、相手の闘気と自分の冷気を利用し上昇気流を発生させ竜巻を起こすことにより相手を吹き飛ばす技である。
自然系の能力者であれど一度竜巻に飲み込まれてしまえば逃げ出すのは困難を要する。むしろ自然系だからこそ一度気流に巻き込まれたら脱出不可能になりやすい。
スモーカー諸共バギーの一味は竜巻の餌食となった。スベスベの実を食べあらゆる物理攻撃が無効となったアルビダも、竜巻の風圧には勝てず。
「“剛力少女”名前。だって、良牙くん」
「“そのペット”Pちゃん……だと……」
記念にとっておこうと二枚の手配書を折りたたみ愛用の鞄に仕舞い込む。
ここまでしかないよ!
たぶんこの後はくまさんににきゅにきゅの実で異国溺泉のある場所まで飛ばしてもらって元の世界に帰るよ!
>>戻る >>TOPに戻る