【ジャパニーズヒーローガール】(イワン/T&B/日本人主/微アニメ沿い)

 イワン(折紙サイクロン)相手のオリジナル+アニメ沿いの夢小説でした。
 完結できる気がしないので打ち切り。


▽小説内の設定
・シュテルンビルトの飲酒可能年齢は18歳から
・イワン君は18歳くらい
・ヒロインちゃんは22歳くらい


▽ヒロインちゃん設定

ナマエミスティカル/名字名前
 ヘリペリデスファイナンスに所属する「ジャパニーズヒロイン」。一人称は「私(わたし)」。折紙サイクロンのバディ。
 NEXT能力は「時間停止」で、自分と自分の触れている人間以外の時間を停止させることが出来る。表向きは瞬間移動能力だと思われている。

 HIRO時は巫女の格好をしており名前は「ナマエミスティカル」。「貴方の悪事は大凶です。神に代わってお仕置きします!」が決め台詞。見切れ職人である折紙サイクロンとは違い、積極的にHERO活動をするよう会社に言われている。
 スポンサーは某醤油製造会社、着物中心のファッションブランド、日本車メーカーと日本関連の会社が多い。

 ヒーロースーツは某弾幕STGの巫女服に近いもの(某腋巫女服)。詳しく説明すると袖がなく肩が露出した白衣に緋袴。両裾を赤いリボンで装飾した白衣の袖部分を、二の腕から手首にかけて装着している。襦袢は緋色、足元は足袋に草履。
 武器はお祓い棒のような鞭。装備品はエアー噴出による跳躍・飛行機能の付いた竹箒。他にも登場シーン用の神楽鈴なんかもある。
 この巫女衣装は袖が分離した、腋が露出する特徴的なデザインをしており、そのためファンからは「腋巫女」とも呼ばれている。サラシを巻いており、袖口から稀にサラシが見えることがある。それをファンの間では「サラチラ」と呼び崇め奉っている。

 普段は普通の女子大生。純日本人が故に実年齢より幼く見られやすい。仕事もきっちりとこなしプライベートでも人付き合いが良いのでしっかりした人物に見えるが実はものぐさ。奉仕活動は好きなのでHERO活動は積極的にやる。
 ブロンズステージのそこそこのマンションに住んでいて部屋は生活感がない、というか物が極端に少ない。日本酒と漬け物が好き。折り紙と糠漬けが趣味。鏑木酒店のお得意様。

・HERO時の公式設定
 日本出身の巫女。一人称は「私(わたくし)」。常に敬語でHERO活動に積極的だが、男性の三歩後ろを歩く大和撫子。処女。
※ミスティカル(神秘的な)の由来は日本は神秘の国だからとかそういう単純な理由。



▽オリキャラなど
ハロルド:ヘリペリデスファイナンスの重役。ヒーロー事業部の総責任者。日本オタク。
ミゲル:ヘリペリデスファイナンス・ヒーロー事業部のメカニック。日本オタク。
アンジェリカ:ヘリペリデスファイナンス・ヒーロー事業部の総務担当。二十代後半、彼氏持ち。
CEO:ヘリペリデスファイナンスのCEO。自社のバディヒーロー大好き。日本も好き。


01.内定通知

 いつも通り大学を出てブロンズステージにあるマンションに帰る。エントランスに並べられた郵便受けの、自分の名前が書かれた所から大判の封筒を見つけて引っ張り出す。
 現在、私は大学の四回生で所謂就活生という立場にあるため私宛の封筒が送られてくることは珍しくない。
 宛名には当然私の名前。送り主は金融業界の大手、ヘリペリデスファイナンスからだった。一週間前に私が受けた入社試験と面接の結果が入っている封筒だと、すぐに気づく。

 ヘリペリデスファイナンスの支店銀行にでも就職できれば私の人生も安泰だし、日本に住んでいるお祖母ちゃんとお祖父ちゃんも安心してくれるだろう。
 胸をどきどきさせながら封筒を開ければ、中から出てきたのはヘリペリデスファイナンスから内定通知だった。
 あそこの会社は日本好きで有名だから、それも関係して私を採用したのだろう。他の就活生には悪いけれど、こういう時は日本人で良かったと心底思う。

『名前名字様 ヘリペリデスファイナンス ヒーロー事業部への内定が確定いたしましたことを通知します』

「……ヒーロー事業部?」

 はて。確か支店銀行員に応募したはず、なのにヒーロー事業部とはこれ如何に。私は内定通知書を見詰めたまま首を傾げた。
 百歩譲って本社勤務という点は良い、寧ろ喜ばしいこと。だけどヒーロー事業部ということが疑問だった。
 別にヒーローとかかわるのが嫌なわけじゃない、ただ、私はメカだのなんだのには詳しくないしマネジメント能力も皆無だということが重要なのだ。
 きちんと仕事をこなせる自信がない。あと、出来れば面倒なことはしたくない。ヒーロー事業部より銀行の窓口業務の方が楽でいいかななんて思った。

 入社もしていないのに憂鬱な気分になってしまったので、大好きな日本酒を飲んで気を紛らわせることにした。一応本命の内定が決まったということを建前に、冷蔵庫からとっておきの日本酒を出してお猪口に注ぐ。
 さて飲もうとしたその時、私の携帯電話が鳴った。ディスプレイを見やれば見知らぬ番号。しかし知らない番号でも出なくてはならないのが就活生の掟である。

「はい、名字です」
『ヘリペリデスファイナンスのハロルドです。内定通知は届いたかな?』
「はい、内定ありがとうございます。でも私、支店の方に応募したはずなのですが……」

 意を決して内定の事についてを尋ねると電話の向こうの男性は妙にテンション高く言葉を紡ぐ。

『ああ! そのことで電話をしたんだ! 今週の土曜日は暇かい?』
「はい、空いてます」
『オーケー、なら土曜日、我が社に来てくれたまえ! 以上だ!』
「はい、え、あの……切れた」

 用件だけを伝えるとハロルドさんは電話を切ってしまった。今週の土曜日と言ったら明後日じゃないか。もうどうにでもなれ、私はお猪口の中身を一気に飲み干した。



 時は進んで問題の土曜日。リクルートスーツに身を包んだ私は言われた通り、ヘリペリデスファイナンス本社へと赴いた。特に時間指定などはされていなかったので、なるべく早い時間にした。
 受付にてハロルドさんに取り次いで貰ったら、あれよあれよという間に会議室のような場所に連れて行かれ、そして十分もしないうちに四十代くらいの男性がやってきて名刺を渡してハロルドと名乗ったのだった。

「いやあ、来てくれてありがとう! さっそくだけど本題に入らせてもらうよ。君を我が社の新しいヒーローに抜擢したんだ!」
「は……え、ええっ!?」

 ヒーロー事業部所属ってそういうことか、そういうことなのか。
 唐突に告げられた内容に私の頭は混乱するばかりである。私がヒーローに成るだなんて、信じられない。

「私が、ヒーロー、ですか……?」
「ああそうさ! 君はNEXTであり日本人であり女の子であり奉仕活動が好きときた。そして我々は男性層の支持を増やしたくて日本人の女の子を探していたんだ! つまり君がヒーローになれば全て上手くいくんだ!」

 ちょっと待て、私がNEXTだといつの間に調べたんだ。
 確かに私はNEXTだけど大学内でもご近所さんにも、親しい友人にも知らせていない。そんな個人情報を調べ上げてしまうこの会社が、否、この人が少し恐ろしく見えた。

「その顔はどうして君がNEXTだと知っているのか不思議がってる顔だね! 大丈夫、君のかかりつけの病院に問い合わせただけだからね! ノープログレムさ!」

 いやいやいやいや問題だらけです、とは言えず。私はただただ頷くことしかできなかった。
 もうどうにでもなれ、その言葉はまるで魔法の呪文のように私の頭を冷静にしてゆく。二日前もお世話になりました。
 それからハロルドさんは持っていた紙の束を机上に置き、私に目を通すよう促した。

「その資料を見ながら聞いてくれ。……知っての通り我が社には既に折紙サイクロンというヒーローがいる。彼は見切れ職人して定着してしまいスポンサーもそれで良しとしてしまっているんだ。しかし我が社としてはもっとヒーローとして活躍し我が社の株を上げてほしいのが本音」

 ハロルドさんが十二ページを見てくれ、と言うのでそれに従いホチキスで留められた資料を捲る。
 見やすい円グラフが載っていて上部に“折紙サイクロンのファン層割合”と書かれていた。

「彼のファン層は主にキッズと女性、あとは精々高齢者くらいだ。しかも細やかな人数でね。しかし我が社としては男性のファンを増やしたい。そこでだ! 我が社もブルーローズみたく女性ヒーローを立てて男性のファン層を増やそうと考えたんだよ!!」
「はぁ……」

 良いアイデアだろう、と胸を張るハロルドさんに愛想笑いを浮かべてページを捲る。そこには新しいヒーローの原案の一部なのか日本の神社と鳥居が描かれていた。

「我が社が日本をフィーチャーしているのは知っているね? シンボルは狛犬、ビル頂上の彫像には鳥居も模してある。折紙サイクロンも日本のニンジャをモデルにするくらい日本が好きなんだ! だったらいっそ新ヒーローは日本人にやってもらおうと思ってね! たまたま我が社の支店銀行員に応募してきた君に白羽の矢が立ったんだよ名前君!」

 白羽の矢が立ったとか、よく知っていたなぁと感心するのも束の間。私が採用された理由の一つがまた明らかになった。何だ、偶然だったのか。
 でも、ここまで日本が好きだと言われたら悪い気はしない。祖国を褒められて腹を立てる人なんていないだろう。

「折紙サイクロンのパートナーであるニューヒーロー、ナマエミスティカルをやってくれるね? 名前君」
「えっと、その……」
「君じゃないと出来ないんだよ!」

 そう言われると弱いのは日本人の性とでも言うべきか、ちょっと折れかかっている私の心。
 でも、それとこれとは全くの別問題。いきなりヒーローをやってくれだなんて、ペンを拾ってくれと言われている訳じゃないんだから、二つ返事で承諾はできない。

「大丈夫! 君ならスポンサーだってすぐに付くさ、給料だってそこいらの企業より多く出すよ。なんたってうちは金融業界のトップだからね!」
「そうじゃなくってですね。急に言われても決められないと言いますか……」
「そうか……わかった、返事は明日聞くことにするよ! この時間、だとちょっと早いか。そうだ、明日の十一時半頃受付の前で待っていてくれたまえ! 昼食でも食べながらゆっくり話そう! ああ、勿論私服で来るんだよ。じゃあ良い返事を待ってるよ!!」

 捲し立てるように言いたいことだけを言ってハロルドさんは部屋を出て行ってしまった。すごい、扉が閉まる最後まで笑顔を絶やさなかった。
 一人取り残された私は貰った資料と名刺を鞄に仕舞い、ヘリペリデスファイナンスを後にした。


02.食事でもしながら

 朝、ハロルドさんに電話で呼び出され、日曜で仕事が休みにも関わらずヘリペリデスファイナンス本社へと向かう。
 ハロルドさんはヘリペリデスファイナンスの重役でヒーロー事業部の総責任者だ。結構偉い人なのにフランクすぎて友人なんじゃないかとたまに錯覚しそうになるから困る。

 待ち合わせ場所の受付前へと赴けば日本人の女の子がいて、誰かを待っている様だった。
 この会社は日本好きが故に日本人を贔屓目に採用することが割合多いので日本人である彼女が社にいるのは珍しくはない。だけど、僕が思わず息をのん飲んでしまったのも事実。
 日本特有の黒く美しい長髪に東洋特有の顔立ち、全てが輝いて見えた。年齢は僕と同じくらいだろうか。
 膝が隠れるくらいの丈のワンピースとそれに合った上着、足元はパンプス。全体的に大人びた、落ち着いた雰囲気だ。

 あまりに僕が見過ぎていたのか彼女がこちらに気づいて会釈してきたので、頬を上気させながら慌てて頭を下げる。
 それからちょっと気まずさを感じてしまい彼女から少し距離を置いた場所でハロルドさんを待った。



「やあ、お待たせ! いやあ遅くなって悪いね、会議が白熱しちゃって」

 奥から人当たりの良い笑顔を浮かべたハロルドさんがやってきて僕の方へ来た、と思ったら僕の少し離れた所にいた日本人の女性に向かっていった。僕は訳が分からなくて、彼と彼女を交互に見やる。
 確かに僕は今朝の電話で彼に呼び出されたはずだ。しかし、彼に恭しく挨拶をする彼女とは初対面だ。
 僕は、表向きはヘリペリデスファイナンスの社員となっているが一応HEROであるからあまり社内の人との交流もない。ヒーロー事業部の事務は足りているし、新しくヒーロー事業部に配属される人ならばわざわざオフの日に呼び出す必要もない。

 彼女と挨拶を交わしたハロルドさんが次に僕を見るので、自然と彼女の視線も僕へと向く。大きな瞳が僕を捉えるので、恥ずかしさから思わず下を向いてしまった。

「ちゃんとイワン君も来てるね! さあ行こうか!」
「はい……って、何処にですか!?」
「イワン君には言ってなかったかな? いやはや私としたことがうっかりしていたよ! さあ行こう!」

 結局ハロルドさんは何処へ行くのか教えてくれず、社外へと出た彼の後ろを彼女と並んで付いて行く。ずんずんと進んでゆく彼は本当にマイペースな人で、僕はひっそりと溜め息を吐く。

「たぶん昼食を食べに行くんだと思います」
「あ、はい、……わ、わざわざありがとうございます」
「いえいえ」

 こっそりと彼女が話しかけてくれて僕の猫背も緊張でぴんと伸びてしまう。
 緊張しているのが容易に伝わったのか彼女は控えめに笑った。その顔がまた綺麗で、見詰めていたら足がもつれそうになった。


 彼女の言う通りハロルドさん行きつけの日本料理屋へと到着した。事前予約が必要な店で僕も彼に何度か連れてきてもらった記憶がある。
 個室へと案内され、にこやかな笑顔の彼の前に若者二人が座る。

「今日は私の奢りだから好きなものを頼んでいいよ! ああでもその前に、名前君、返事を聞かせてもらってもいいかな?」

 思い出したようにハロルドさんが彼女を見やる。彼の表情はいつもより真剣で、彼女もまた凛とした表情をするので、僕が話しかけられている訳でもないのに緊張してしまった。
 それと同時に彼女の名前が名前さんだという事を知る。

「はい。……例の件ですが、慎んでお受けいたします」

 これまた恭しく頭を下げた名前さんに大和撫子を感じてときめくのも束の間、彼が満面の笑みを浮かべる。

「引き受けてくれると思っていたよ。だからイワン君を呼んだんだ!」
「えっ、僕、ですか?」
「だうだよ! なんたって彼女は君のバディになるんだからね!!」

 話を振られて困惑する僕を余所に彼は衝撃発言。僕はヒーローだから、バディというのはバディヒーローのことを言っているのだろう。
 つい先週から始まった新シーズンで目覚ましい活躍を見せているバーナビーさんと、ワイルドタイガーさんのような関係。
 つまり僕のバディでありパートナーとなる新しいヒーローが彼女、名前さんだということを示唆してる。
 あまりに唐突すぎて冷静な思考とは裏腹に僕の感情はぐっちゃぐちゃだ。

「は、え、僕のバディ!?」
「ああ、そうさ。今シーズンも始まったばかりだし丁度良いだろう? おっと、電話だ。ちょっと失敬」

 ハロルドさんは琴の曲を静かに響かせ始めた携帯電話を握り部屋を出て行ってしまった。当然個室内に残ったのは僕と名前さん。一気に気まずい空気が流れ始める。
 彼女は訳が分からないといった表情だが、僕が折紙サイクロンであることを知らないのだから無理もない。大きな瞳が僕を見たまま数回瞬きをして、何かを考えるようにしばらく目を閉じた。
 それからゆっくりと瞼を上げて僕を見つめ、口を開いた。ごくり、僕が唾を飲み込んだ音がやけに大きく聞こえた。

「あの、」
「は、はい!」
「もしかしてだけど……君が、」

 次の言葉は容易に想像がついた。だからこそ緊張してしまう。

「折紙サイクロン?」
「……はい。その通り、です」

 緊張しすぎたせいか、予想以上にか細い声が出てしまった。
 折紙サイクロンの中身がこんなネガティブで気の弱い人間だったなんて、幻滅、されるだろうか。彼女、名前さんにだけは嫌われたくないと願ってしまうのは何故だろう。
 そもそも折紙サイクロン自体に興味がなかったあらどうしよう、なんて思考はどんどんネガティブな方向へと沈んでゆく。

「あの、えっと……私なんかがバディですみません」
「えっ、違います! そんな、やめてください!」

 僕が落ち込んでいるのを勘違いして頭を下げて謝罪を一つ。日本人の礼儀正しさに感動する暇もなく彼女の謝罪を全力で否定する。

「むしろ僕の方が申し訳ないです……。バディが僕だなんて」
「そんな、折紙サイクロンさんが気に病む事なんてないですよっ」

 二人して謙遜し合っているとハロルドさんが戻ってきた。

「いやあすまないね、会社からだったよ。名前君、早速だが昼食を食べ終わったら社に戻って契約を結ぼう」
「はい、わかりました」
「そういえば、二人とも挨拶は済んだのかな?」
「いえ、まだ……お互い考えを整理するのに時間がかかってしまって」
「まあ無理もないさ、いきなりの顔合わせだからね。でも年齢も近いのだから気を張ることはないよ!」

 二十一歳と十八歳なんて同い年みたいなものさと、ハロルドさんは笑う。
 軽く言っているが僕には衝撃的だった。東洋人は実年齢より若く見られやすいと云うのは本当だったのか。
 てっきり同い年くらいだと思っていたのに、実は年上だったなんて。そりゃあ大人っぽい雰囲気なのも頷ける、だって実際に僕より年上だったのだから。
 固まっている僕を余所にハロルドさんは料理を僕らの分も注文し始め、名前さんは僕の様子を伺うように顔をのぞき込んできた。

「大丈夫ですか?」
「あっ、はい、だ、いじょうぶ、です。……あの、敬語は辞めてください、僕の方が年下ですし……」
「でも私は新人ですし……じゃあお互い敬語は無しで」
「はい……あっ、う、うん。僕は折紙サイクロンをやってるイワン・カレリンです。よ、よろしく」
「折紙サイクロンのバディを勤める名字ミスティカルこと名前・名字、日本式に言うと名字名前です。これからよろしくね、イワン君」

 改めてお互いに挨拶をする。名前さんがふわりと笑って手を差し出したのでその手を握って握手をした。緊張していたはずの僕の顔は自然と笑っていた。
 新バディの誕生だ。ハロルドさんが高らかに宣言すると丁度、注文していた料理が届いた。美味しそうな鯖の味噌煮定食だ。



「……っていうか折紙サイクロンことイワン君を連れてきたってことは、私がヒーローになるって分ってたんですか?」
「そうとも! だって、頼まれたら断れないのが日本人だろ?」
「ははは、まったくもってその通りです」

 愛想笑いを浮かべる彼女の口からは乾いた笑いしか出てこなかった。


03.てんやわんや

 昼食の後イワン君と別れ、ハロルドさんとヘリペリデスファイナンス本社へと赴き正式なHERO契約を結んだ。
 その際CEOと初対面したのだが、とても気さくな眼鏡の男性だった。私のことを全面的に応援していると言って連絡先を交換した。
 新入社員がこうもあっさりと最高責任者の連絡先を手に入れられるなんて、ヒーローとして働くことの大きさを知った気がする。

 それから彼に連れられヘリペリデスファイナンスのヒーロー事業部へ案内された。
 そこで仕事をするのはマネージャーと事務職の人だけで、メカニックの人たちはメカニックルームにデスクがあるらしい。
 隣にメカニックルームがある小さな部屋で、内装は他部署とほとんど変わらずデスクがいくつかあるだけ。その内の真新しいデスクに手を置いた。

「これは君のデスクだよ、デスクワークはここでするんだ。隣はイワン君だから分らないことがあったら彼に聞くといい。それと、これが社員証だ。失くしたらすぐ私に言うんだよ」
「はい、ありがとうございます」

 彼が懐から出したカードサイズの社員証を受け取る。昨日の今日で用意していたということは本当に私がヒーローをやると確信していたのだろう。がいこくってこわい。
 あと、私はヒーロー活動を最優先してそれ以外では学業を優先して構わないと、今後の事を伝えられる。大学側にも話を通してあるので無事に卒業できるそうだ。

「それから彼女は総務のアンジェリカだ。何かあったら彼女に頼るといい」

 ハロルドさんが向かいのデスクに座っていた女性を指して言う。綺麗なブロンドの美人さんは立ち上がって優しい笑みを向けてくれる。
 ここでは私は新人社員なのだと、私は慌てて頭を下げて自己紹介をした。

「ナマエミスティカルをやることになりました名前・名字です。よろしくお願いします!」
「話は聞いてるわ、事務員のアンジェリカよ。これからよろしくね、名前」
「はい!」

 彼女と軽く握手を交わして、その日は他にすることがなくなったので解放された。



 次の日からデビューに向けて慌ただしい毎日を送った。司法局への申請や手続き、ヒーローとしての設定や衣装の会議、衣装合わせに製作、トランスポーターの用意、各メディアへ提出する書類造り、宣材写真の撮影にその他諸々を含め、私がデビューする準備を整える為に約二週間もの時間を要した。

 幾重にも渡り調整を繰り返したナマエミスティカルのヒーロースーツは和服の白衣の下に緋袴を装着した、日本人なら誰でも知っている巫女装束だ。
 ちなみに白衣には袖がなく肩が露出していて、袖は腕に装着できるようになっている。
 必然的に腋が見えていてサラシを巻いているから横乳が見えることはないが、これには何の意味があるのだろうか。
 後々スポンサーのロゴが入る為に袖は必須らしいが、肩と腋をわざわざ露出させる意味が益々分からない。

「あの、ミゲルさん……これって腋が見えてる意味あるんですか?」
「男のロマンだ!」
「……イワン君、そういうものなの?」
「! お、男のロマンでござるっ」

 眉を寄せながらメカニックの人に尋ねればこの返答。衣装合わせを見に来ていたイワン君にも聞いても赤面しながら首を縦に振って肯定される。おとこってよくわからない。
 ちなみにミゲルさんとはメカニックの偉い人で折紙サイクロンとナマエミスティカルのヒーロースーツ製作の総責任者だ。例に漏れず彼も大の日本好きらしく、私の巫女姿に興奮している。

「うん、完璧だな。さすがは俺!」
「伊達に日本好きを公言してませんね、腋の部分は気になりますが衣装の内容は完璧です」
「そうだった。衣装と小道具の最終確認をするぞ」

 そう言ってデスクに上げられたのはお祓い棒と竹箒、それからメディア用の巫女装束。
 ミゲルさんの説明をまとめるとこうだ。和服は特殊素材を使用しており軽いが丈夫で勿論防弾、耐火性も抜群。
 メディア用の衣装も、まったく同じデザインの純布製品で用意されているらしく、これからメディアに積極的に出るのだと思うとめんどくさくて憂鬱だ。
 武器を入れて持ち歩けるよう袖の中は収納スペースにもなっている。白衣は短めで緋袴はスカートタイプのものを使用してるため頑張ればパンチラも出来るとのこと。私のパンチラなんで需要ないだろ。

 そして武器はお祓い棒のような鞭。正式名称が分からないためお祓い棒と呼ぶことのする。本来は棒の先にひし形が連なったような形の細長い紙が沢山付いている物だが、私の物はその紙の部分がこれまた特殊な素材で出来ている。
 通常時は三十センチくらいの長さだが振り方次第で一本の鞭のような物に変化するのだ。本当に私の振り方一つで変幻自在らしいので要練習である。
 竹箒は軸となっている竹にはエアー噴出機が内蔵されており天辺のボタンを一回押すと足を掛ける部位が出てきて、もう一回押すとエアーが噴出される仕組みとなっている。
 私が乗っている状態で最大十五メートルくらいまで跳躍可能らしい。男性ヒーローみたいに全身を覆っていない分危ない気もするが、何かあったら折紙サイクロンが助けてくれるとの折り紙付きだ。

 ちなみに、草履は衝撃吸収素材となっていて箒でどれだけ高く飛び上がってもその衝撃全てを取り除いてくれる代物だ。もちろんいくら走っても足は疲れにくい。

 他にも一見普通の和装に見えて私には理解できないハイテクな機能がいっぱいで、それらを覚えるだけでもひと苦労だ。
 メカニックの一人が簡単な説明書みたいのをくれたので家で暇なときにでも勉強しよう。自然と溜め息が漏れる。

「うー、これから大変だ」
「名前さん、これからヒーローとして大変だろうけど僕も精一杯フォローするから、頑張って」
「うん、ありがとう」

 新シーズンが始まって忙しいのに、イワン君は今日の最終打ち合わせにも来てくれている。
 彼の言う通り、私も、司法局の認可がとっくに下りているのですぐにでもヒーローとして出動できる。

「それで、その……」
「? なに?」
「衣装、すごく似合ってる。かっ、か、かわいい、です」
「あ、ありがとう……」

 もじもじと生娘の様な反応をするイワン君に私も、柄にもなく恥ずかしくなってしまう。これがピュアの力なのか、恐ろしい子。


 完成した衣装を見に来たCEOは私の姿を見て少々興奮気味に写真を数枚撮っていた。
 素晴らしいよと二言三言会話をすると秘書に急かされるままメカニックルームを出て行ってしまった。去り際に腋がどうの言っていたので、この腋の開いたデザインには意味があるようだ。

 それから通信用のPDAを貰って操作方法をレクチャーされた。相手とテレビ通話もできるとかで、世の中ハイテクになったなぁと未だにガラパゴスケータイを使っている私はしみじみ感じた。
 試しにイワン君と通信してみてと言われ四苦八苦しながら何とか彼に通信を繋げる。PDA越しに聞こえてくる声に、なんだか本格的にHEROになったんだと実感した。


04.新HEROデビュー戦

 私のNEXTは時間停止、危なくなったらいつでも戦線から離脱できるが、犯人を確保してこそ名字ミスティカルには意味があるのだ。

 いつ出動要請が来ても良いよう、最終打ち合わせの日から犯人確保の練習を幾度となく行った。
 シミュレーションルームを使うと必然的に他のヒーローたちと顔を合わせることになってしまうので、まだ秘密にしておきたいという事でメカニックルームでの特訓だ。
 忙しいのにイワン君も付き合ってくれて、お陰でお祓い棒のような鞭は使いこなせるようになってきた。

「よし、一旦休憩を入れよう。それらしくなったじゃないか、素晴らしいよ!」
「はーい、ありがとうございまーす」

 ハロルドさんの一言で私はその場に寝転がるように倒れる。それを見たイワン君が笑いながらタオルを差し出す。

「名前さん、お疲れさま」
「イワン君もお疲れー。特訓に付き合わせちゃってごめんね」

『事件発生!』

「さあトランスポーターに乗って!」
「き、緊張する……」
「練習通りにやれば大丈夫。君のキュートさは伝わるよ!」
「そうじゃないです!」



『トランスポーターが到着しました! ヘリペリデスファイナンスのロゴが描かれていると言うことは一番乗りは彼なのか!?』

 私の為に用意されたトランスポーターはブルーローズ同様側面が開くようになっており、中には半立体の神社と、賽銭箱。おまけに真っ赤な鳥居までもが用意されていて本格的な神社セットが出来上がっている。
 その中でも一際目立っているのが、竹箒で境内の掃除をしている私こと名字ミスティカルとお茶を啜っている折紙サイクロンの二人だった。

『最初に登場したのは折紙サイクロンと、おおーっと! 可愛らしい女の子です! 折紙サイクロンと一緒にいると言うことは新ヒーローなのかぁ!?』

 騒がしいほどに盛り上げてくれる実況に、テレビの前の視聴者は分からないが周りにいる市民の皆さんは盛り上がりを見せる。
 逃亡犯も一般市民も、みんな手を止めてこちらに注目した。これをチャンスと言わんばかりに私たちは練習していた芝居を開始した。

「むむ、ナマエ殿! 呑気に掃除をしている場合ではござらんよ!」

 少々乱暴に湯飲みを置いた折紙サイクロンに、私は持っていた竹箒をピタリと止めて逃亡犯の方に体を向ける。
 犯人は見知らぬ私の登場に未だ戸惑っているようで、その隙にアニエスさんが私に指示を送る。それに従い、私は事業部のみんなで考えてくれたポーズを決める。

「貴方の悪事は大凶です! 神に代わってお仕置きします!」

 私の決め台詞に周りが一層盛り上がる。早速、逃亡犯を捕まえるべく折紙サイクロンと共にトランスポーターから降りて走り出す。
 それを見て逃亡犯はやっと我に返り、急いで走り出す。同時にまた実況が入った。

『たった今入った情報によりますと彼女はヘリペリデスファイナンス所属のニューヒーロー、ナマエミスティカルです! 見た目通りのジャパニーズ巫女! まさにエキゾチックジャパーンッ!!』

 実況の言葉に周りにいた一般市民たちは歓声を上げる。私のデビューに対する反応は上々のようだ。
 あとは逃亡犯を捕まえて華々しくデビューを飾るだけ。他のヒーローが到着したみたいだけど、お願いだから手を出さないで下さいと念じながら犯人を追いかける。
 再びアニエスさんから通信が入り、能力を使うタイミングを指示された。

『ナマエ、十秒後に能力を使って!』
「はい!……絶対に逃がしません!」

 犯人が路地に逃げ込もうとした時を狙って私のNEXT能力を発動させる。

 その瞬間、私は犯人が入ろうとしていた路地を塞ぐようにして立っていた。時間にして一秒もかからない、文字通り一瞬。
 一瞬にして私は有に百メートル程離れた場所へと移動してみせたのだ。表向きには、だけど。

『なんとナマエミスティカルが一瞬にして犯人の元へと移動した! これが彼女のNEXT能力なのか!?』

 すぐそこまで来ていたロックバイソンさんが驚いたように声を上げたのが聞こえる。しかし今はそれどころではない。

「くそっ」
「大人しく捕まってくださいね!」

 袖からお祓い棒のような鞭を取り出して、逃げようとした犯人の身体に素早く巻き付ける。犯人確保完了である。

『ナマエミスティカル華麗に犯人確保ォ! 初登場・ポイントと合わせて225ポイント獲得です!』


 PDAの向こう側でアニエスさんが視聴率が云々と興奮しているが今は捕らえた犯人を警察に引き渡すのが先決。
 引き渡しが終われば記者会見とは別に、インタビュータイムがある。名字ミスティカルとしてしっかり受け答えしなければならない。

『ニューヒーロー! デビュー日に犯人確保しましたが、今のお気持ちは?』
「無事に犯人を捕まえることが出来て良かったです」
『他のヒーローたちは出る幕もありませんでしたね』
「新人が出過ぎた真似をしてすみません……ですがデビューした今日くらいは許して頂けると幸いです」

 インタビュアーも流石プロと言うべきか、今日の事件に関することなどの質問しかしてこない。記者会見で話すであろう突っ込んだ質問は一切なかった。

『バディである折紙サイクロンは今日も見切れていましたね。どう思われますか?』
「そこが折紙さんの良いところでもあるんです。今日の彼は末吉です」
『では最後に、テレビの前の視聴者に何かお願いします』
「神様は皆さんのことをいつも見ています。あなたの人生に大吉がありますように」

 巫女っぽい返答を、と言われていたが巫女の経験なんて一切ないので全文てきとうだ。隣を見やれば折紙サイクロンがそっと見切れている。


『折紙サイクロンのパートナーということで、タイガー&バーナビー以来、二組目のバディヒーロー誕生です!』


ジャパニーズヒーローガール05

 ※以下、書き溜めた文章です

・ブログの話

 僕のブログはよく炎上する。内容はほぼ見切れてばかりの僕への批判だ。

『ナマエちゃんのバディとか羨ましすぎる』
『折紙ごときがナマエたんのパートナーとかふざけんな』
『わきまえろ!』

 ナマエミスティカルが登場した日、別の意味でブログが炎上した。


『腋巫女キタコレ!』
『誰か今日のナマエたんのキャプくれ』
『サラシ邪魔だろ』
『可愛い系が好きな俺にずきゅんときた、ローズよりも好きだ』
『あの黒髪舐めたい』
『ナマエの腋舐めたい』
『ナマエちゃん舐めたい』

 ブログのコメント欄が気持ち悪いことになってて普通に引きかけた。



 HEROとしてブログやSNSをやらなくてはならないらしく、ものぐさの私に続けられるのか不安だった。
 とりあえずこれは書いておかねば。

『みなさん、折紙サイクロンさんのブログを荒らすのは止めてあげてください。皆さんの仲が悪いと私、悲しいです。』


・顔合わせ

 他のヒーローの方に挨拶するのならば何か菓子折り的な物を用意しなければ。やっぱり名字ミスティカル的に日本のお菓子の方がいいだろうか。

 そういえば、日本に住んでいるお祖母ちゃんとお祖父ちゃんに就職先が決まったと伝えたら大量にお菓子が送られてきたんだった。それを持って行こう。



「俺は鏑木・T・虎徹だ。よろしくな」
「鏑木ってことは……あの、鏑木酒店ってご存知ですか?」
「ああ、鏑木酒店は俺の実家だからな」
「やっぱり! 私いつもあの店でお酒買ってるんです」
「おおっ、そうだったのか! 贔屓にしてくれてありがとな。っつーことは相当いける口とみた、今度一緒に呑もうぜ」
「はい、ぜひ!」



「ネイサン・シーモアって、まさか、ヘリオスエナジーの社長さん……?」
「あら、アタシってば有名人?」

 就活生ならば誰もが知っていて、誰もが憧れる大企業だ。かく言う私もヘリオスエナジーに履歴書を送ろうと思ったことが何度もあった。でも結局はヘリペリデスファイナンスを第一志望にしたのだが。


・必殺技開発

 能力で時間を止めて犯人の下へと急ぐ。人質に突きつけている銃は強く握りしめられているため奪い取ることは不可能。
 マガジンリリースボタンを押して弾倉を抜いたのはいいが、銃身に入っている一発はどうあがいても抜けない。保険の意味も込めて銃の安全装置を掛ける。

 そのまま犯人の背後に立って銃を持つ手を捕まえ、NEXTを解除する。



 ジャスティスタワーのシミュレーションルームで犯人確保のシミュレートを幾度となく行った。私のNEXTは時間停止だから危なくなったらいつでも戦線から離脱できるが、犯人を確保してこそ名字ミスティカルには意味があるだ。
 いかに見栄えよく、スポンサーロゴを見せつつ、効率よく犯人を確保できるか。


・トレーニング頑張ってみんなと焼肉食べる

 私は人並みの体力を上げるべくトレーニングルームへ来ていた。
 特に世間一般には瞬間移動だと思われている私の能力に、体力は不可欠なのだ。涼しい顔をして遠くから一瞬で移動したように見せるには私の体力がものをいう。
 なぜならば私のNEXT能力が瞬間移動ではなく時間停止であり、時間を止めて遠くから自力で移動し時間制御を解除しているからだ。傍から見たら一瞬で移動しているように見える訳だが、実際は結構な努力が必要なのだよ。

「おはよう名前! 変なの着てるね」
「パオリンちゃんおはよー。この服のこと?」

 高校の時のジャージだけど、そんなに珍しいかな。

 ジャスティスタワーとトレーニングルームの通行パスをお貰った時に皆とお揃いのトレーニングウェアも頂いた。私のイメージカラーは赤と白なんだけど、赤地に白い線だとバーナビーさんと被ってしまうとのことで私のウェアは白地に赤い線が入っている。虎徹さんのやつの色違いって感じ。
 一応下には着ているけどやっぱりこのジャージが一番運動しやすいのだ。やはり高校の時から愛用している故か、肌を隠していることに安心するのか。
 カリーナちゃんも興味深そうに近づいてきた。

「その胸の所に書いてある文字は何て読むの?」
「ああ、これはね……」
「名字、だろ?」
「あ、虎徹さん」
「名字って……名前の名字よね?」


ジャパニーズヒーローガール06

・雑誌のグラビア撮影、取材、に引っ張りだこ

 今日は折紙サイクロンと名字ミスティカルの自社CMの撮影日。ヘリペリデスファイナンスの
 暇も潰せるし、何よりボランティアなどで施設に訪問した際プレゼントすると喜ばれるので、私はこうした空き時間には常に折り紙を折っている。

「スポンサーから荷物が届いてるよ! あんなでかい荷物は初めてだ!」

 玄関に行くとCM撮影で乗った軽自動車が置いてあった。
 バラエティ番組にとかでよく見るリボンのついた大きな鍵を渡される。



・グッズの話

「そう言えばナマエのヒーローカードも近々発売されるんだっけか?」
「はい! あとナマエミスティカルの御守りが発売されるんです!」



「HERO関係のグッズで持ってるのといったらこれだけだよ」

 そう言って見せたのは四年程前に流行ったヒーローカードのうちの一枚。私の命の恩人であるワイルドタイガーのものだ。
 青色の古臭いヒーロースーツを身に着けたオールドヒーローは、私のあこがれだ。あの事件の後、売店で山積みになっているのを見つけてすぐに購入したのを今でも覚えている。
 今のメカニカルなヒーロースーツも格好良いけれど、ワイルドタイガーらしさが出ているこっちの方が私は好きだ。

「おー、懐かしいなそのカード! そうかそうか!」

 それを見た虎徹さんは当時を懐かしむように微笑んで私の頭を撫でる。少し照れくさい。

「そうだサインしてやろうか?」
「結構です!」
「えっ……」

 私の全力拒否に虎徹さんは見るからに落ち込んでしまって、これは不味いと、必死にフォローする。

「いや、あの……このカードは、あの日、助けても貰った後に買ったもので、その日から今まで勇気とか元気をもらっていたんです。だから!……だから、このままの状態で持っておきたいなって思って。気を悪くさせてしまったなら、ごめんなさい」
「そういうことだったのか」


「あんた、これしか持ってないの?」
「うん」

 ネイサンの言葉に素直に頷く。

「そういえば名前さんの部屋物が極端に少なかったです」
「ミニマリスト?」
「かも」

「親に買ってもらったりしなかったの?」
「うん、誕生日プレゼントくらいしか買ってもらったことないよ」

 ハッ、言ってから後悔、みんなの目が温かい。
 あんまり物に執着しないだけであって、決して買うお金がないとか、物を買い与えてもらえない可哀想な子じゃない。

「あの、別に私……」
「名前君!!」
「のわっ!?」
「会社の人に言ってスカイハイのフィギュアを貰ってくるからぜひ貰ってくれ!!」

 唐突に私の肩を掴んだキースさんが泣きそうになりながら捲し立てる。私は呆気にとられて弁明の機会を逃してしまった。



「ほい、俺からのプレゼント!」

 それは青色のヒーロースーツを着ているワイルドタイガーのヒーローカードで、私の持っている物と同じカード。丁度私が彼に助けてもらった時に発売されていたやつだ。

「家ん中整理してたら出てきたからやるよ。サイン付きだ、しかも本名バージョン! レアだぞー」
「わぁ、嬉しい!」

 本名バージョンとか一般人では手に入らない物じゃないかと、私の僅かしかないミーハーな部分がつい出てしまう。
 お守りが二つに増えた。この時ばかりはヒーローに成れたことに感謝した。



・引っ越しするよ

「シルバーステージ、ですか……」

「君はHEROだし顔も知られてるからね。いつまでもブロンズにいたら我々が給料を払ってないみたいじゃないか」

 仮にも金融業を営んでいるんだから金払いは良いと思わせたいらしい。

「それに女の子なんだからもっと治安の良いところに住んだ方がいいよ! というわけで新しい住まいは会社に近い所を用意したよ」
「事後報告!?」

 やはり今回も私に拒否権はないらしい。まあ社宅だと思えば大丈夫だろう。
 プリントアウトされた地図を渡されたので見てみてびっくり、シルバーステージの結構いいマンションだった。しかも会社まで電車で一本。


07.私が私じゃなくなった日

「……イワンくん」
「名前さんどうし……」
「私の昔話、聞いてくれる?」


 私が中学二年生の時、家族水入らずの旅行へ出かけたその日に、両親は死んだ。

 父の運転する乗用車に居眠り運転の大型トラックが突っ込んできた、なんて交通事故の常套句みたいな状況で私たち家族は永遠に離れ離れになったのだ。
 一家三人はすぐさま病院へ運ばれたが父と母は即死。私は何とか一命は取り留めたものの血液が足りず、更には珍しい血液型だったらしく合う血液を探すのは困難を要したも中々見つからなかった。
 ようやく見つけた血液が、私を生かしてくれた。

 私の意識が戻らない間に母方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに引き取られることが決まって、両親の葬儀の手配なんかも二人がやってくれた。
 交通事故から一週間と二日が経ってようやく私の意識が浮上した。意識が戻って最初に見たのは真っ白な天井、次が泣いている祖父母の顔だった。
 良かった良かったとハンカチで涙を拭っていた二人を、私は生涯忘れないだろう。それから両親の訃報を聞かされ涙が涸れるまで泣いた。
 退院するまでの間に両親の葬儀は終わり、私は退院に向けてのリハビリを頑張った。退院直後から半年くらいは激しい運動を制限されたが今はヒーローとして活躍出来るくらい体は丈夫。

 退院後は転校手続きやら家の荷物整理やらで忙しかった。今の会社に採用されてヒーローとしてデビューする準備並に慌ただしかった。
 思えばその頃からだ、ボランティアなどの奉仕活動が好きになったのは。自分は他人に生かせて貰っていると実感し、少しでも恩返しが出来たらと思い、奉仕活動を始めたのだ。



 中学を転校して友人と呼べる人も出来た頃しばらくして、その日は訪れた。

「あれ……?」

 全てが止まった。人も、音も、風も、すべてが一瞬にして止まって動かなくなったのだ。
 ついさっきまで楽しく談笑していた友人も、次の言葉を出そうと口を開けたまま止まっていた。
 私以外の時間が止まっているような、そんな状況でパニックになるなと言う方が無理だ。友人の身体を揺らしても、いくら叫んでも反応は一切ない。無音の世界。

 ふと気付けば私の身体が青く発光していて、以前授業で習ったNEXTという超能力者の能力発動時の特徴に酷似していた。
 家系図を辿っても日本人しかいない私がNEXTになったなんて、そんな事有り得るのだろうか。でも確か突然NEXTになる場合もあると、先生が言っていた気もする。
 こんな事になるのならもっと授業を真面目に受けておくべきだった。発動した能力を止められなければこのまま止まった世界にいないといけないのだろうか。
 パニックだった脳みそは一気に冷静さを取り戻し、状況を客観的に判断していた。兎に角こういった状況ではゆっくりと気を静める事だけに集中するのがアニメや漫画での定石。

「……そして時は動き出す」

 なんて念じたところで時間は止まったまま、そう簡単にはコントロール出来ないのが超能力。
 はぁ、と長い長い溜め息を吐いたらいつもの騒がしさが戻っていたのだった。

「それでさぁ……って、名前? どうしたの、急に立ち上がって」
「……何でもないよ。それより、私ちょっと頭痛いから早退するね」
「え、大丈夫?」
「お大事にねー」

 保健室へ向かいNEXTに目覚めたことは伏せ、理由をでっち上げて学校を早退する。
 祖父母に事情を説明して早々に病院へと向かった。こういうのに明るい医師を探してくれて、すぐに検査を受け説明を受ける。

「単刀直入に言いますと名前さんはNEXTです。純日本人で発症するのは珍しくてですね、要因はかなり絞れます。例えば、過去に大きな事故や輸血などを受けたことは?」
「あります。交通事故で、その時に輸血も受けました」
「ならばそれが要因と見てよいでしょう」

 医者が言うには、輸血されたのがNEXTの血液だったか、事故のショックのどちらかで目覚めたのかもしれないとのこと。
 純血日本人の場合は外的因子で目覚めるパターンが多いらしく、私のも前者が有力だとも言っていた。
 NEXTと呼ばれる超能力者は、日本ではその認知も低く奇異の目で見られるのは避けられない事実。故に日本ではNEXTであることを伏せて生活してきた人の血液が輸血されたのかもしれない。

 NEXTになってしまったことを後悔した事は一度もない。例え輸血されたのが犯罪者の血液であっても、命には代えられない。
 今こうして両親の分まで人生を全う出来ているのはそのNEXTかもしれない人のお陰なのだ。
 祖父母は年齢の割りにそういった事には理解があり、私がNEXTに成っても変わらず愛してくれた。寧ろ海外旅行先でNEXTに助けられたという話を聞かせてくれた。

 それと自分の順応力の高さにも驚いた。中学を卒業する頃には能力を自在にコントロール出来るようになっていたほど。
 時間停止なんてNEXT、人前から消えない限りバレることはまずない。それに慣れれば随分と便利な能力だ。
 はっきり言って遅刻しそうなときなんかは重宝したし受験勉強も時間を気にせずに出来た。まさに精神と時の部屋状態。

「……今ではその力を使って人助けが出来るんだから、人生何が起こるか分からないよね。本当、ヒーローになって良かった」

 あとはみんなが知っている通り、高校生になって交換留学先のここシュテルンビルトで人質となったところをワイルドタイガーに救われた。
 祖父母には反対されたが説得の末に了承を得てこちらの大学に通い始め、就職活動で今の会社から内定を貰った。
 それからイワン君と出会って、ヒーローになって、虎徹さんやカリーナちゃんたちと出会って。
 日本にもシュテルンビルトにも沢山の友人が出来て、たまにみんなでバカ騒ぎするのが本当に楽しいの。

 全て、生きていないと出来ないことばかりで、今の私はこれ以上ないってくらい幸せ。生きているって素晴らしい。

私がNEXTになった話


「……というのが私がNEXTになったきっかけとその他諸々のお話。みんなのお陰で、私は生きていられるの」
「名前さん!」

 私の話を静かに聞いてくれていたイワン君は、話し終わるや否や私を抱きしめた。私の名前を呼ぶ声は震えていて、泣いてくれているのだと分かる。
 誰かのために泣ける人は誰からも愛される素敵な人。自分のために泣いてくれる人がいるのはとても幸福なこと。
 肩口に広がる涙がぽかぽかと私の心を満たしてゆくのが分かる。

「話してくれてありがとう」

 お礼を言いたいのは私の方だよ。私を受け入れてくれて、こんな話を最後まで聞いてくれて、私のために泣いてくれて、ありがとう。
 イワン君がぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱き締めてくる。でもその苦しさが、不思議と心地よく感じられた。

「生きていてくれてありがとう」

 彼が再び震える声で言う。それに対して、私は彼の背中に手を回すことで応えた。


※純血日本人の場合外的因子が云々は非公式設定です


ジャパニーズヒーローガール08

・引っ越し祝い


「引っ越し祝いっつーことで、今日は名前の家で晩飯を食べよう!」


 むしろ晩御飯は日本酒とつまみがあれば事足りる、そんなおっさんみたいな食生活。弁明すると、朝と昼はちゃんと栄養のバランスを考えた食事をとってます。


 海鮮系はマグロにサーモン、イクラもあった方がいいかな。後は卵焼きとシーチキン、カニカマとレタスは冷蔵庫にあったはず。
 海鮮コーナーを歩きながら海老がパック売りされているのを見て躊躇なく買い物かごへと入れる。
 後は海苔とお酢を買えば手巻き寿司の材料は揃う。折角だから寿司桶も買って本格的に作ろうなんて考えたが流石に売っていなかった。
 イワン君は私がかごに入れていく品をきらきらした目で見ている。それが何だか子供みたいで可愛くてつい笑ってしまった。

「ふふ、イワン君なんだか子供みたいね、可愛い」
「! か、可愛いなんて言われても嬉しくないよ!」

 なんて否定する割には照れてますけど、とは口に出さず、そっぽを向くイワン君にまた笑みがこぼれる。


「何もない家ですが」
「本当に何にも無いわね」
「あっ、でもこの間みんなに貰ったフィギュアとか飾ってあるから賑やかになった方なの!」
「じゃあもっともっとこの家を賑やかにしなくちゃね!」


「手巻き寿司かぁ! 食うのは久しぶりだなぁ」
「スシ!」
「飲み物も色々と買ってきたから好きなのどうぞ」

「お酒も、ワインと日本酒と、チューハイもあるよ」




「虎徹さん、私がやります」
「名前頼んだ!」

 泣き喚くサムを受け取り、日本に昔からある子守歌を歌う。曲に合わせてゆっくり、リズミカルにサムの体を優しく叩く。

「ねんねんころりよ、おころりよ、坊やはよい子だ、ねんねしな」

 日本語であるその歌は虎徹さん以外には伝わってはいない。




「私はパートナーが貴方だからナマエミスティカルに成ったの。」

 イワンを見詰めるその瞳はナマエミスティカルのものではなく、名字名前としてのものだった。


09.告白

 僕がトレーニングを終えた時、彼女はまだシミュレーションルームにいた。

 名前さんが当面の課題を体力作りとシミュレーションに絞っているのは知っていた。僕が見切れるしか出来ないから、その分の負担が全て彼女にのし掛かっているのも、知っている。
 貴方と私は役割が違うのだから仕方のないこと、彼女はそう言っていたが僕が


 ジャスティスタワーを出たのは夕方と言うには少し遅い時間、星が瞬き始めた頃。今夜は満月だと、気象予報士が言っていたのを思い出した。


「っ、名前さん!」
「なぁに?」

 今なら言える。勇気を振り絞って、今あるだけの想いをこの言葉に託す。

「月が、綺麗ですね……」

 日本の小説家がこう訳したというのにあやかって僕もその言葉を使った。
 彼女が日本人だからという単純な理由で日本風の告白をしたが、うまく伝わっているだろうか。

 この言葉を初めて知ったとき、僕は日本人の奥ゆかしさと言葉の素晴らしさに感動して、いつか名前さんに思いを伝えるならこの言葉を使いたいと思っていた。
 それが今日、この時だったのだ。たった九文字の日本語だが、この日のために数え切れない程に練習してきた。
 どこかイントネーションがおかしかったりしたのだろうか、彼女からの返答はない。
 熱くなってゆく顔で恐る恐る名前さんの方に見れば、彼女はただじっと僕を見つめてた。

 彼女の顔は真剣で、伝わっているかわからないとはいえ告白をしたという事実が僕の羞恥心を煽る。しかしここで視線を反らしてしまえば名前さんに失礼だ。
 名前さんは僕を見つめたまま数回瞬きをすると、その表情を変えた。口元は緩やかな弧を描き、慈愛に満ちた瞳は僕を映す。
 儚ささえ感じられるその姿に、思わず見惚れてしまう。

「……わたし、死んでもいいわ」

 返事と言うには余りにもシンプルで、少しの怖ささえも感じるその言葉。

 生きることの素晴らしさを知っている彼女の口から出てくるはずもない言葉に、僕は息を飲む。
 それが何かの比喩だということはすぐにわかったが、今の僕にはその意味が分からなかった。

「……えっとそれって、」
「ふふ、じゃあ、また明日ね」

 不躾にも意味を尋ねようとしたのを、遮るように名前さんが喋る。そのまま踵を返して名前さんは帰ってしまった。
 追いかけるのも烏滸がましく感じられ、僕はその場に立ち尽くした。


 日本人は一つの言葉に複雑な意味を持たせるのが得意だからきっとあの言葉にもちゃんと意味があるのだろう。

 日本のことならタイガーさんが詳しいだろうと、彼に聞くことにした。トレーニングルームだと名前さんがいる可能性もあるのでロッカールームで彼を待つ。

 名前さんに告白したこと、告白に夏目漱石を用いたこと、返事の意味が解らなかったことを伝えるとタイガーさん顎に手を当てて何かを考えた。

「そりゃあお前、二葉亭四迷だな」
「フタバテイシメイ?」
「日本の落語家。まあ小説家でもあるんだけどよ」
「小説家……」


「ヒントやったんだ。後は自分で何とかしな」
「あっ、はい。ありがとうございます!」

 タイガーさんは青春だなぁと笑いながらロッカールームを出て行った。
 本当はすぐにでも調べたいのだがトレーニングノルマを終わらせないことには帰ることも出来ない。


 このあと調べて意味を知って、トレーニングルームに来た名前さんを抱きしめて「好きだ」連呼するイワン君とか良いと思います。
 そんでヒーロー全員にバレてしまえばいい。力の限り祝われればいい。



10.素敵な逢い引き

 純血日本人のNEXTはかなり珍しい。


 動きも音も全てが止まった世界は、色とりどりなはずなのに僕と彼女以外の色は存在していないみたいにくすんで見えた。
 彼女はいつもこの世界を体験しているのだと思うと胸の奥が少しだけつんとした。彼女以外の何もかもが止まってしまった世界は、寂しい。

「たまにね、全て投げ出してこのままどっか遠くへ行っちゃいたいって思うことがあるの」

 いつもの騒がしさが完全に止まった世界で、彼女の声だけが響く。

「みんなからしたら、私が急に消えちゃうんだからきっと酷くびっくりするだろうね。そして力いっぱいに心配してくれる、もしかしたら私が消えて清々したって思う人もいるかもしれない」

 前者はたくさんいるだろう。僕も、他のHEROたちも、彼女のファンたちもきっと驚き、戸惑い、悲しむだろう。場合によっては自殺する人だって現れる。

「名前さんが急にいなくなったら悲しむ人はたくさんいるよ」
「ありがとう」

 音の止まった世界でも聞き逃しそうな小さい声がお礼を言う。何に対して。僕の言葉に対して、悲しむあろう人たちに対して、全てに対して。否、答えは解らない。
 彼女はゆっくりと瞼を伏せ、さらに言葉を紡ぐ。

「私が消えたら悲しむ人がたくさんいる。そう思い込めばこの世界でも頑張れる。時間を止めて、目的の場所までの寂しさを紛らわせられるの」

 紛らわせるということはやっぱり寂しいんじゃないか。

「今はイワン君がいるから寂しくないよ」
「名前さん」

 ヒーロースーツを纏ったこんな状態では彼女を満足に抱き締めることも出来やしない。

 彼女が能力を発動する度に僕もこの世界にいれたら良いのに。そう、いくら強く思っても僕のNEXTは変わらない。

 だから、せめて今だけは彼女が寂しくないように、この手だけは離さないと決めた。


11.世界で活躍する日本人

 軽快な音楽と共に番組のタイトルが表示され、司会者である男性がそれを読み上げる。

「世界で活躍する日本人スペシャル〜!」

 場面は切り替わり司会者とゲストの芸能人を映し出す。日本では有名な人たちもシュテルンビルトではただの人。同様に海外では有名でも日本では知名度のない日本人もいる。そんな日本国外で活躍している日本人にスポットを当てた番組である。

 画面が切り替わりシュテルンビルトについての軽い説明が入った。そこから更に場面は切り替わりシュテルンビルトへ赴いたリポーターが街行く人に同じ質問を繰り返す。

「貴方の知っている日本人はだれですか?」

 質問された若者は満面の笑みで答える。人物名以外の言葉はもちろん日本語に吹き替えてある。

「ナマエミスティカルだね! 彼女は本当にキュートだ」

 他にも、若い女性、高齢者、特に男性の方が力強くテンション高らかに言葉を発する。

「私ナマエミスティカルに助けてもらったことがあるの!」
「ナマエ! ナマエミスティカル最高!」
「折紙サイクロンとナマエミスティカルは日本人だろ?」
「日本人と言えばナマエかな。HEROだしかっこいいよね!」
「ナマエモエ〜!」

 口々に一人の女性の名前を言う。そこでナレーションが「ナマエミスティカル」と「HERO」という言葉を拾い、先にHEROについての説明を簡単に入れる。
 それから画面には七社九名のHEROたちの集合写真が映し出され、ゆっくりと一人の女性へとズームしてゆく。
 日本の巫女の格好をした可愛らしい女性。またナレーションが入る。

『なんと、HEROの中に日本の巫女が!! そう、彼女こそシュテルンビルトで活躍する日本人、ナマエミスティカルなのだ』

 HEROTVから借りたナマエミスティカルが活躍しているシーンだけの映像と共に彼女についての説明が入る。

『彼女は日本人でありながらシュテルンビルトでHEROを生業にしている。ナマエミスティカルは日本出身の巫女として、同じくヘリペリデスファイナンス所属のHERO、折紙サイクロンのバディとして活躍しているのだ。初登場時から人気が爆発し今では老若男女問わず彼女を応援しているファンは多い』

 映像は彼女の決め台詞の場面。日本の神社を模したトランスポーターで折紙サイクロンと共にポーズを決めている。

「貴方の悪事は大凶です。神に代わってお仕置きします!」
『彼女のブログでは彼女にお仕置きされたい男性ファンが急増しているとか』

 日本語字幕と共にすかさず入ったナレーションによりスタジオにいた芸能人たちの笑い声が聞こえてきた。

 画面は切り替わり、再びシュテルンビルトの街並みが映し出される。それから少し歩いたところで大きなビルが映る。
 ナレーションでそこがナマエミスティカルが所属するヘリペリデスファイナンス本社であることを知らされる。
 本社の中へ入り受付と会話をする。ナマエミスティカルさんに会いたいのですが、と。
 事前に取材のアポは取ってあるにも関わらずアポなしの体で話を進めるのは、日本のテレビではよくあることだ。

「さすがは日本をフューチャーしている会社。内装も日本風です」

 係りの女性に連れられてリポーターが案内された場所は応接室。内装は豪華で、日本語で“和”と書かれた掛け軸が飾ってある。
 リポーターが緊張の面持ちで待っていると応接室の扉がノックされ、一人の女性が入ってくる。

「すみません、お待たせしました」

 そこで一旦画面は止まりナレーションが入る。

『彼女がシュテルンビルトで一番有名な日本人、ナマエミスティカルだ』





「彼女はHEROになる数年前、日本に住んでいた頃、通っていた高校の交換留学でシュテルンビルトのハイスクールに半年ほど通っていたそうです。そのとき衝撃的な体験をしたそうなのですが……」

 インタビューを受けるナマエミスティカルは日本を忘れていない証である流暢な日本語で受け答え始める。

「はい。交換留学でこっちの高校に通っていたとき、とある事件に巻き込まれて人質にされたんです」

――えっ、人質ですか!?

「はい。銃を突きつけられて本気で死ぬんじゃないかと思いました、当時はただの高校生でしたので。でも、そんな折りHEROに助けて頂いたんです」

――そのHEROは誰か尋ねても?

「ワイルドタイガーさんです。だから私がHEROなって彼と再会するなんて思いませんでした。今でもお世話になっていて、ワイルドタイガーさんには感謝してもしきれないです」

――人質になって危険な体験までしたのにこちらの大学に通ったそうですが、なぜですか?

「正直、祖母と祖父にも、またいつ危険に晒されるから分からないと反対されました。……でも、一度危険に晒されたから二度と行かないなんて排他的な考えではいけないと思ったんです。二人が私を心配してくれているのは分かっていますけど、この街にはHEROがいて、何かあってもちゃんと守ってくれます。私は彼らを信頼して、こっちの大学に通おうと決めたんです」

――HEROを信頼しているんですね

「はい。私もヒーローですもん。何より彼らと同じ仕事を始めてから感じたんです。彼らはポイントが欲しいから人命救助するのてはない、しっかりとした自分なりの正義と信念を持っているんだと」

――何でHEROになろうと思ったんですか?

「正直に言っても良いのでしょうか、会社的に。……そうですね、就職活動で今の会社の支店銀行に応募したら、ヒーロー事業部に内定が決まってしまったんです」

――ヒーロー事業部に内定で、HEROになったということですか?

「はい。最初は驚き戸惑いましたが、今では良い思い出です。あっ、でも最終的にHEROになろうと思ったのは私の意志です。……あの時、私を救ってくれたワイルドタイガーさんのように、私もこの街を、沢山の人たちを守りたいと思ったんです。この世界が好きだから」

 そう言ってナマエミスティカルははにかんで笑った。


――ここからはプライベートに迫った質問になりますが、HEROの中で一番親しいのは誰ですか?

「折紙サイクロンさんです。バディでもありますし、年齢も近いのでよく一緒にお食事にも行きますね」

――折紙サイクロンさんと言えば日本の忍者をイメージしていますが?

「そうですね。彼自身凄く日本が好きなので日本人としてとても嬉しいです」

――他に仲の良いHEROはいますか?

「皆さん仲良くしてくださってますよ。中でもブルーローズさんとドラゴンキッドさんとフャイヤーエンブレムさんは同じ女性同士ということで特に仲が良いかもしれません。あっ、もちろんスカイハイさんやワイルドタイガーさんやロックバイソンさんやバーナビーさんとも仲良しですよ! この前も皆さんで集まって手巻き寿司パーティをしました!」

 嬉しそうに顔を綻ばせる彼女に、スタジオにいる男性芸能人が可愛いなぁと感想を言う。


(中略)


「――それでは、貴女にとってHEROとは?」

 リポーターが最後の質問をする。

「私にとってHEROとは、ですか。難しい質問ですね。……私にとってHEROとは、命の恩人であり、憧れの存在であり、大切なパートナーでもあり……いえ、」

 そこまで言って彼女は首を振った。


「私にとってHEROとは、この街を、この世界を愛して止まない正義の味方です」



『最後に、決め台詞をお願いします』

「はい、わかりました。……貴方の悪事は大凶です。神に代わってお仕置きします!」

『ありがとうございます!』

「あはは、ちょっと恥ずかしいですね。こちらこそありがとうございました」



 その番組は日本で放送された後、しばらくしてからHEROTVでも同じ番組が英語字幕で放送されることとなりその日は街から人の姿が消えたとか何とか。
 彼女の知られざる過去や思いを目の当たりにした視聴者からの反響は凄まじく、そのどれもが賛の方だったのが彼女の人気を物語っていた。


12.里帰り

 ブログにはたくさんのコメントが付いていた。
 もちろん日本でその番組を見ていたという日本のファンからもコメントが付いており、日本語で書かれた文章を嬉しそうに読む名前。


「一週間だ!」

 ヒーロー事業部でデスクワークをしていると、勢いよく扉を開けハロルドさんが開口一番そう告げた。
 私とイワン君はただただ首をかしげるしか出来ない。

「いやあ名前、この前のテレビ観たよ! 実に素晴らしかった!」
「ありがとうございます」
「それにヒーローランキングも三位以内に入ったからね、そのご褒美も兼ねて一週間休みをあげようと思って!」
「わっ、いいんですか?」

「ついでにイワンも一週間休みだ。そうしたらアンジェリカも仕事がなくなるから君も一週間休みだ! 三人とも早めの夏休みだよ!」


「名前は日本に里帰りでもしておいで! お祖父さんとお祖母さんに顔を見せてきなよ!」


「そうだイワン君も一緒に日本に来る? お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにイワン君のこと話したらいつか連れてきてって」
「い、いいの?」




「“カイオードー”!」
「カイオードー……海洋堂のこと?」
「そこでござる! そこにナマエ殿の日本限定フィギュアがあるんでござるよ!」


「あれ、でもそのフィギュアあげたよね」
「それも飾ってあるが自分でちゃんと買っておきたいんでござるよ!」
「……マニアめ」


・名前の両親の墓参り


「今はね、シュテルンビルトでHEROしてるんだ。お父さんとお母さんと同じ、人を助ける仕事で、危険なときもあるけどやりがいもあって、そこはお父さん達とおあいこだね。……それに、何かあっても彼がいるから大丈夫」

 言い終わってから私が振り返ってイワン君を見ると、彼はいつもの猫背をぴんと伸ばし顔を赤くしていた。
 お墓とはいえ、私の両親を前に緊張してくれているのだろう。その一生懸命で真摯な様子が可愛くて、愛おしくて堪らないのだ。

「彼ね、ちょっとネガティブだけどやるときはやるのよ。本当にかっこいいんだから」

 内緒話をするように口元に手を添えて彼に聞こえないように言う。尤も、日本語で喋っていたから今の話は私とお父さんとお母さん三人だけの秘密なんだけど。

 私は終わったよ、そう言ってイワン君と入れ替わるように後ろへ移動する。
 イワン君はぎこちない足取りで前に進み墓石に向かって一礼すると、いつ練習したのか片言の日本語で話し始めた。

「初めまして、名前さんとお付き合いサセテイタダイテる、イワン・カレリン、です。……あーっと、」

 そこまで言って、ポケットから紙を取り出した。どうやら言いたいことを紙に書いてきたらしい。
 改めて彼の言葉で恋人同士だと言われると頬が熱くなる。生娘じゃあるまいし、と自分に言い聞かせるけど両親へ恋人を紹介しているのだから仕方ないのかも。
 紙を見ながら、途切れ途切れだけどしっかりと言葉を紡ぐイワン君を見守った。

「名前さんは、ぼ、ボクが、何があっても守りマス。必ず、幸せにしまス!」

 語尾が強く、自信が込められていた。彼の決意を聞いた私は思わず目頭が熱くなった、鼻の奥もつんとしてきた。
 この人を好きになって良かった。


・日本滞在予定表
一日目、日本へ、東京観光し、旅館で一泊
二日目、ヒロインちゃんの実家へ、広島か東北あたり
三日目、田舎案内
四日目、夏祭り
五日目、京都へ、観光し、老舗旅館で一泊
六日目、シュテルンビルトへ
七日目、シュテルンビルトでデート


ジャパニーズヒーローガール13

書きたい内容メモ

・ヒロインちゃんの人気爆発でグッズ展開。お守り、おみくじパン。

・テーマソングを作ることに。ブルーローズとは違い電波ソング、オヤシロのムスメ的なやつ。

・折紙さんがいなくなっちゃう話。忍者道を突き詰めるあまり見切れどころか失踪レベルでいなくなり、みんなで探す。結局ヒロインちゃんが一番に見つける。結局派手な忍者漫画アニメを見せて説得する。

・日本に里帰りする話。今までよりお土産の量が遥かに増えたということ。友人が増えたということ。


 元々完結させる気はあったのですがモチベーションが保てなかったのであえなく打ち切り。
 いつか完結させたいです。折紙さん好きです。



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