【The Waltzing White Tiger】(轟焦凍/MHA/従姉主/原作沿い)
An introduction.
「The Waltzing Tiger」は轟焦凍落ちのヒロアカオリジナル有り原作沿い夢小説です。
各所の台詞並びに細かい描写・設定の変更、場面を省く等がされています。
また、夢主に活躍の場を与えるため原作キャラの立場や台詞を夢主に充てがっている場面もあります(体育祭編の騎馬メンバーやトーナメント等)。
基本的にやりたい放題書いてます。多少原作との矛盾が生じたとしても気にしない方向でお願いします。
書きたい場面だけ書いていくため原作を一読していないと分かりづらいと思われます。
書いている人が極度の飽き性なので、途中で打ち切る可能性が高いです。一応、打ち切るくらいならば切りの良い所で終わらせるつもりではあります。
それから原作がある程度進んで、熱が冷めていなければ続編という形で続きを書くかもしれません。
以上のことを予めご了承下さいませ。
▽夢主設定(そこそこネタバレ)
轟名前(苗字固定)
12月28日生、身長162cm、好きなものは日向ぼっこ、熱くない食べ物(猫舌のため)。
腰ほどまである長い髪を左耳の下で一つに結って前に流している。個性の関係で白虎の耳と尻尾が生えているが、あまり自由に動かすことは出来ないらしい。左腕に火傷の跡がある。
轟焦凍の従姉(父親同士が兄弟)。出席番号は焦凍の後ろだが、クラス内での座席は成り行きで焦凍の前。
A組随一の身体能力を誇るが、如何せん持久力がない。
個性「火虎」:父親の個性“炎”と母親の個性“白虎”の複合個性。虎の身体能力を持ち、かつ炎を操る。ただし炎を使い過ると熱を出す上に髪の毛先が焦げる。
ヒーロースーツはパンツスタイルではなく通気性を考慮したスカートスタイル。
名前’s耳:ネコ科らしくかなり遠くの音まで聞こえる。虎耳状斑は円。
名前’s左腕:火傷の痕が…。
名前’s全身:発育が非常に良い。
名前’s毛並み:とても触り心地が良い。
名前’s尻尾:ネコ科らしく様々な感情を表現する。
名前’s脚:ネコ科らしくかなり速い。
轟朝火(とどろき あさひ):名前の父親。エンデヴァーこと轟炎司の実弟。仕事はエンデヴァー事務所の総務。兄の考えには賛同していないもの幼少からの刷り込みで兄には強く出れない。個性の強さは兄に大きく劣る。
轟虎子(とどろき とらこ):名前の母親。旧姓は小虎(ことら)。エンデヴァーの元サイドキックで彼の考えに間違いはないと思い込んでいる節がある。寿退社後は子育てに専念していたが娘に大火傷を負わされ精神を病んでしまい入院生活を送っている。
▽出生(更にネタバレ)
小さい頃(まだ個性が発現していない時)はよく一緒に遊んでおり、ほぼ姉弟同然に育てられた。
二人の個性が発現してからはエンデヴァーの下でヒーローとそのサイドキックにさせるべく稽古を付けさせられるようになる。さらには虎の個性からくる身体能力の高さを買い、将来は焦凍の嫁にするつもりでもいた。
焦凍の母親と違い名前の母親はエンデヴァーの元サイドキックを務めていたため稽古に賛同的で、父親は兄に強く逆らえないのでこの件に関しては幼い娘に謝罪するのみ。
唯一二人を庇ってくれたのが焦凍の母だった故に、名前は自然と自分の母親以上に彼女を慕い、焦凍が煮え湯を浴びせられた時も一緒にいた(腕の火傷はこの時についたもの)が、伯母は悪くないと考えている。
煮え湯の件に関して名前の母親が“義姉(焦凍の母)が全面的に悪い”というようなことを口にし名前はブチ切れ、炎の個性を使って母に大火傷を負わせてしまう。
母親は腰から臀部と尻尾の根元に掛けて焼け爛れ、入院し皮膚移植したが尻尾の根元から数十センチは火傷痕が目立ち毛が生えていない。この事件で母親は名前を恐れるようになってしまい、精神を病んでしまう。
この事件をきっかけに名前は炎の個性を使わないようになり、轟本家にもあまり顔を出さなくなった。
雄英入学後は炎の個性を使わずにいたが体育祭のトーナメントで焦凍と戦った時に数年ぶりに炎の個性を使う。
それ以降は普通に炎の個性を使用していく。
She is nothing understand.
長い長い一日を過ごして疲れきった体をお風呂で癒やした後のこの時間が何よりも好きだ。
推薦入試の結果が入っていた洋形封筒が無造作に置かれた勉強机を通り過ぎ、ベッドの上へ身を投げ出す。
バスタオルを肩に掛けたまま、風呂上がりで髪や尻尾が濡れたままだとかは一切考えない。
今日は特別忙しかったのでいつも以上に眠くなるのが早い。欠伸をするのとほぼ同時に、サイドテーブルに置いてあったスマートフォンが音を立てて震え始めた。
手に取れば着信の下に“焦凍”の文字。いつものように画面をスワイプして耳にあて、ベッドの上で座り直す。
「はぁい」
『ははっ、眠そうだな』
「んー、今日は特別忙しかったからね……」
『ということは……』
「うん、余裕で合格してたよ〜。焦凍は?」
『俺も余裕の合格』
「おめでとう」
『おう、名前もおめでとう』
電話の相手は従弟の轟焦凍。
別々の中学に進学した私たちはこの三年間で顔を合わせたのは数十回程度だが通話はほぼ毎日とも言える頻度でしている。
焦凍の声は、やっぱり落ち着く。
『眠いなら寝ても良いんだぞ?』
「んー、眠いけど焦凍と話したいから我慢する……」
『……』
「焦凍?」
『いや、ちょっと萌えてた』
「もえ?」
『何でもない。それより同じクラスだと良いな』
「そうだね。焦凍と同じ学校だなんて小学校以来だから楽しみ〜」
『ああ、俺も楽しみでしょうがねぇ』
そう、この日課ももうすぐお終い。
次の春からは同じ高校に通うのだからこれからは毎日会える。こうした他愛のない話を直接できるのだから、あと数ヶ月の辛抱だ。
それからコスチューム届けに記載するデザインの話や高校生になったら
気付けば三十分以上も話し込んでいたようだ。
「ふぁ〜」
『っと、もうこんな時間か。そろそろ寝るか』
「んー、そうだね」
『じゃあ切るぞ』
「……焦凍」
『ん? 何だ?』
「……」
雄英に通い始めたら私たちは変われるのかな。
喉から出かかった言葉を急いで飲み込む。そんなこと聞いてどうしたいのだ。
『名前……?』
「ううん、何でもない。おやすみ」
『ああ。おやすみ』
私にも、焦凍にも、それぞれ蟠りがあることは自覚しているし、いつか向き合わねばならない問題であることも重々承知している。
きっとそれはヒーローを目指し雄英高校に通うとなれば三年間のうちに必ず重く伸し掛かってくる時が来る。
正直に言うと向き合うのが恐くてたまらない。心の準備だってこれっぽっちも出来ていないし、したくない。
だからだろう、あんなことを言おうとしたのは。
焦凍の言葉で大丈夫だと言って欲しかったのだ。その場しのぎでも安心感を得たかったのだ。
「はぁ……」
寸出のところで理性が働いて良かった。
焦る必要なんてない。
I want to be with you.
教卓に置かれた席表を確認すれば焦凍は窓側から二列目の一番後ろで、私は窓側の一番前。
苗字が同じだから席も当然近いものと思っていたのに、残念。
「焦凍と離れちゃうね」
「……」
そう言うと焦凍は何を思ったのか一つだけ後ろに突出していた窓際最後列の机と椅子をそのまま横に移動させると何食わぬ顔でその席に座ってしまった。
元々そういう席順であったかのような自然さに一瞬固まってしまい、焦凍にも首を傾げられる。
「ん、どうした?」
「いやいやいや、どうした? じゃないって! それ良いの!?」
「……大丈夫だろ」
幸い窓側の席の生徒はまだ登校していないので席順が変わったことに気付かれないが担任が来たら確実に注意される。
・体力テスト
私の場合、個性が身体機能に直結していたので使用そのものを制限することが出来ず、小学校での初めての体力テストはとんでもない記録を出してしまった。
それからは必然的に小・中学校での体力テストは手を抜かざるを得なかった。
常に平均を見極めその程度まで落としていたのだが、ここではそんなことしなくても良いのだと知る。
五十メートル走。“白虎”の瞬発力と脚力を持ってすれば容易い。
小さい頃に読んだお伽話の影響で同じ場所をぐるぐる回るのが苦手だ。
「! 名前どうした、どっか具合でも……」
「バターになっちゃう……!」
周りにいたクラスメイトたちも失笑し始めたので恥ずかしさから顔が熱くなる。
・お昼ご飯
「美味いか」
「えっ、何で分かるの?」
「尻尾」
そう言って箸で私の尻尾を指す。行儀悪いよと注意しながら首をひねれば、私の尻尾はぴんと立っていた。
確かにランチラッシュの昼食は美味しかったがここまで露骨に喜んでいるのがバレてしまっては何だか恥ずかしさが込み上げてくる。
Girl of white tiger.
私のヒーローコスチュームはノースリーブの上着に揃いのスカート、それとショートブーツ。左腕には要望通りアームカバーが着いている。
「轟さんのコスチューム、ワイプシみたいだね!」
緑谷君の言う通り、このコスチュームは動物をモチーフとしたワイルド・ワイルド・プッシーキャッツを彷彿とさせるデザインであった。
しかし、それ以上に、このコスチュームがかつてヒーローとして活躍していた“タイガーレディ”のそれにそっくりなのだ。
彼女のコスチュームはここまで露出度は高くなく下履きもパンツタイプだったが、
「タイガー、レディ……」
緑谷君の言葉で私はこの衣装デザインがかつての母の姿を思い出す。
私はGのヒーローチームで、上鳴くんと耳郎さんとの唯一のトリオチームだ。対するは八百万さんと峰田くんのCコンビ。
推薦入学者同士の対決に周りは盛り上がる。
耳郎さんが個性で彼らの居場所を探し当てる。
向かう途中、私も聴覚を活かして彼らの会話を聞き取る。
「ヒーローチームは四階。何か金属的な物で扉を塞いでるっぽい」
「マジかー。八百万の個性だな、どうする?」
「関係ないよ。私が金属ごと扉を蹴破る」
「は!? 蹴破るってマジ!?」
私の言葉に上鳴くんが目を丸くする。
「あー、轟、さん……」
「名前で良いよ。轟二人でややこしいし」
「じゃ、ウチも響香で。……名前が虎の個性で身体能力高いの知ってるけど、音的に結構頑丈そうな金属だよ。大丈夫?」
「うん、余裕」
峰田くんの個性はあの髪のボールみたいやつだから、それさえ気を付ければいい。
八百万さんは個性こそ素晴らしく、強力ではあるが本人の知識と思考が頼りである点が最大の弱点となる。
つまりは、創造する暇さえ与えなければ対して脅威ではない。
「私が扉を蹴破ったら響香が先に突入して個性でヒーローチームの気を逸らして。上鳴くんは個性使わずに陽動お願い。そしたら私がすかさず確保テープを巻くから」
用心深い八百万さんのことだ、きっと核に触れられないよう何かしらで覆っていると考えて良いだろう。
ならば、確保テープを巻きつけるのが最短にして、最良の策だ。
私の考えを聞いた二人は、
体力テストで私の瞬発力の高さを目の当たりにしている二人は静かに頷く。
小型無線は必要ないしあるとかえって邪魔になるので救命用品が収納されている腰のポーチに仕舞っておく。
どうせこんなの無くても聞こえるし。
「勝負は最初の数秒……!」
作戦会議は終わり、それ以降は物音を立てないよう静かに移動する。
獲物を狩るスイッチが完全に入った私は気配を消し、足音一つ立てずに階段を上がる。きっと私の尻尾は山なりになっているだろう。
四階、ヴィランチームがいる部屋の前に到着すると、予定通り私が扉の前に、上鳴くんと響香が左右に分かれて扉から少し離れた場所に立つ。
響香の個性対策に私は耳に適当な布を詰め、アイコンタクトで二人に最終確認を取る。二人とも準備は万端なようで、しっかりと頷いた。
勝負は最初の数秒で決まる。静けさを保ったまま、その作戦は実行された。
私は白虎の個性を最大限に引き出し脚に力を入れ、一回転し、その勢いに乗せて扉を蹴る。
CLAAAASH!
「のあっ!?」
「なっ……!」
勢い良く蹴破られた扉は派手な音を立てて吹っ飛び、破片が飛び散る。
中にいた二人が呆気にとられているうちに上鳴くんと響香が中へ侵入し、それぞれ陽動し、ヴィランチームに隙を作る。
室内には峰田くんの個性であるボールのようなものが散らばっており、二人の足を床と接着させる。しかし陽動が目的である二人には関係ない。
私は勢い良く跳び上がり確保テープを取り出しながら最も脅威である八百万さんの背後へ移動する。
彼女の個性で防がれないよう彼女の肌が露出していない腰回りを中心に素早く巻いた。
「一人目っ!」
「っ、しまった! 峰田さん!」
「ああああ耳がああああ……ってうわあああ!?」
ボールに触れないよう注意し、耳を塞いで叫び声を上げている峰田くんの許へ跳び、そのまま確保。
『そこまで! ヒーローチームの勝利だ!』
作戦決行からヴィランチーム確保まで、その間僅か37秒であった。
Wings to tiger.
ビルの地下でモニターを見詰めるオールマイトと生徒たち。今は名前と耳郎と上鳴によるヒーローチームと八百万と峰田による敵チームの勝敗を、見守っている。
八百万が個性で創造した鉄板で扉にバリケードを張ったところから戦闘訓練は始まる。
まず始めに耳郎が個性であるイヤホンジャックを壁に挿し些細な音を拾い敵チームの居場所を探る。
耳郎とは別に、名前の耳も音を拾っているらしく彼女の目が敵チームのいる方向へ向けられていたがそれに気付いたのはオールマイトと焦凍くらいだろう。
それから上を指差す耳郎に、二人は軽く頷き作戦会議が始まった。
「八百万相手にどんな作戦でいくんだ……?」
程なくして作戦会議は終了し、名前が小型無線を腰のポーチに仕舞うのを皮切りに三人は物音ひとつ立てずに上へ上がってゆく。
「どうやら奇襲作戦でいくようだ」
彼女らの作戦を生徒たちに伝えるオールマイト。
定点カメラが捉えた名前は眼の奥をぎらぎらと光らせ、攻撃体勢であることを示すよう尻尾を山なりにし、耳は些細な音ですら聞き逃さないよう小刻みに動いている。
ゆっくりと確実に歩を進める姿はまさに獲物に近付く虎そのものであった。
「こえぇ……」
皆が固唾を呑んでモニターを見つめる中、誰とも分からぬ呟きが静かに聞こえてきた。
しばらくして敵チームのいる部屋の前に着く。中にいる二人は警戒はしているもののヒーローチームがすぐそこに居ることには全く気づいていない。
名前が扉の前に立ち残りの二人が左右に着く。
それから三人がそれぞれと目を合わせ、静かに頷く。準備が整った合図である。
そして次の瞬間、モニターを見つめていた全員が驚愕した。
「は?」
「マジかよ……」
「鉄板で強化した扉を蹴り破りやがった……!」
遠くから微かに鈍い音が聞こえた。十中八九名前が扉を蹴破った音だろう。
その威力たるや作戦を聞いていたオールマイトをも感心させる程だ。
そこからは数秒の出来事で、上鳴と耳郎が中へ入って陽動。それによって出来た隙を突いて名前が瞬く間に確保テープを巻いていく。
彼女の手際の良さに、ある者はただ静かに頷き、ある者はあまりの凄さに息を呑み、ある者はその迫力に鳥肌を立たせ、ある者は圧倒的な力量差に歯を食いしばり、ある者は感嘆の声を漏らした。
「そこまで! ヒーローチームの勝利だ!」
オールマイトの声に緊張状態は解除され、モニター越しの名前の表情もぱっと笑顔に戻る。
「それぞれの個性を活かしたベストな作戦だったと考えられます!」
びしっと飯田くんが手を上げ、発言する。
「奇襲からの強襲で相手に考える隙を与えずに確保したのは勿論、敵チームのいる階へ行く前に作戦会議を済ませ実行まで物音ひとつ立てていなかったのも奇襲の成功率を格段に上げていました」
「その通りだ! 飯田少年!」
運動した後だから少し眠たくなってきて、欠伸をかみ殺す。
その姿をちょうど焦凍に見られてしまったらしく頬をむにむにと触られる。。
「今戦のベストはもちろん轟少女だ」
「彼女の飛び抜けた身体能力に加え、それぞれの個性を活かした作戦立案、更には峰田君の個性である球体の位置を瞬時に把握し対応する洞察力と判断力。どれも素晴らしかった!」
そこまで褒められると流石に照れちゃうなぁ。
「しかし! 扉を塞いでいた金属の種類を把握していない状態で蹴破ったのはバッドだぜ! もし君の脚より頑丈な素材だったら脚が駄目になるだけではなく奇襲そのものが不意になるぞ」
「……はい」
素直に頷いてはみせたが正直に言うと不満だらけだ。素材を把握していなかったことは認めるが、考慮しなかった訳ではない。
音を聞いた感じ扉の前にただ積み重ねているだけのようだったから、蹴り飛ばすことが出来ればそれで良かったのだ。
如何に硬い素材であろうと所詮八百万さんが持てる程度の重さの積み木だ。壁に打ち付けられていなければ私の障害とはならない。
小さい頃から厳しく鍛えられていたし、轟本家に通わなくなってからもただのんびり過ごしていた訳ではない。
「不満が尻尾に出てるぞ」
ゆらゆらと揺れる尻尾を焦凍に掴まれる。
虎耳と尻尾が生えているからと言って別にそこが性感帯とかいうありがち設定ではないので悪しからず。確かに耳の裏とかを撫でられるのは好きだけど性的快感ではなく、ただ普通に気持ちがいいだけ。
私の不機嫌に気付くことなくオールマイトは次のペア決めを行い始めたので私は焦凍と共に後ろの方へ移動する。
「……」
「八百万が持てる程度の重さだったから敢えて蹴り飛ばしたんだろ? お前の耳ならただ積み重ねただけって分かっただろうし」
「……焦凍は何でもお見通しだね」
「名前のことならな」
「ほら、機嫌直せ」
そう言って焦凍の手が私の耳の裏を優しく撫でる。
先ほど述べた通り耳と尻尾は性感帯ではないが、耳の裏などは撫でられると気持ち良いのだ。
特に焦凍は撫で方がプロのそれだ。昔から焦凍の手には逆らえない。思わず喉が鳴りそうになる。 焦凍はネコ科を撫でるプロだ。その証拠に私の尻尾はぴんと伸びている。
「次のペアで最後だから放課後どっか行くか」
「うん!」
The f**king respectability!
「すみません、ちょっとおはなしを……って君の耳と尻尾、もしかしてタイガーレディの!」
「人違いです」
「タイガーレディって誰です?」
「エンデヴァーの元サイドキックだよ。結構コアなファンがいたんだけど結婚を機にヒーローを引退したんだ」
「へぇー」
「何でも数年前に実子に殺されかけて未だに入院中だってその筋の奴から聞いたぞ」
「実子にって、まさかさっきの!?」
「噂が本当なら、な」
「あんな綺麗な顔して母親をね……」
「そんな子が雄英にいるなんてかなりヤバいんじゃあ……」
I want to be with you.
・USJ
「あ、二人とも寝てる……」
「こうやって見ると結構似てるね」
肩を寄せ合い頭をくっつけて寝ている二人の姿は、まるで姉弟のように仲睦まじく、顔の作りは似ていないが何となく雰囲気が似ているような気がしてくる。
流石は従姉弟同士といったところか。
「そういや“実の親を殺した”って奴がヒーロー科にいるらしいんだけど、知らね?」
「っ!」
死柄木の言葉に、まるで時が止まったかのように私は動けなくなった。
尻尾の毛は一気に逆立ち、息の仕方を忘れてしまったみたいに上手く呼吸が出来なくて、僅かに開いた口からひゅうと空気が抜ける。
「名前」
私を隠すように焦凍が前に立って、落ち着かせるように手を握ってくれるけれど一向に冷や汗は止まらない。
寧ろ顔面から血の気が失せていくのが分かる。身体が震え始めて次第に立っていることすらままならなくなってきた。
空いている手で何とか焦凍の服の裾を掴んでいるがその手すら震えていて、情けない。
「名前落ち着け。あいつらの話は聞かずに俺の声だけ聞いとけ。とにかく落ち着いて、呼吸することに集中しろ」
焦凍の声に従い目を瞑ってゆっくり息を吸い込む。
尚も面白そうに笑う死柄木を黒いモヤが咎める。
「弔、今日はそんなことをするために来ているのではありませんよ」
「だって気になるだろ? 親殺した奴がどの面下げてヒーローになろうとしてるかさぁ」
「はぁ……正確には“殺しかけた”ですよ。未遂です未遂」
「同じようなもんだろ」
物色するように生徒一人ひとりに視線を送る死柄木から目が離せなかった。
「この間マスコミが言ってた話だとタイガーがどうとか言ってたな……」
そのせいで死柄木と一瞬目が合ってしまい、すぐに逸らしたがそれが余計に悪かったらしい。
手の隙間から覗く死柄木の目が楽しそうに歪む。
私の根底にある後ろ暗い過去に土足で踏み込んでぐちゃぐちゃに荒らしていかんとするあの男が怖い。
「……ふーん。お前が“親殺し”かぁ」
「ち、ちが……」
「名前! 何も聞くな!」
「わた、し、は……」
死柄木の声と一緒にあの日の母の声が蘇ってくる。
脳裏に焼き付いて離れない、ひどく冷たい声。
「親殺そうとした奴がヒーロー目指してんのって、どんな気分?」
『ああ、失敗した』
そこで私の意識はブラックアウトした。
敵連合との邂逅はオールマイトの活躍と委員長の飯田のお陰で駆けつけた雄英教師陣の登場により、敵連合が退散する形で終了した。
Trump card is put to the last.
・体育祭
「名前、俺から離れんなよ」
「……うん」
焦凍に言われるがまま彼の横についたままスタートラインの前の方へ移動する。
無数に聳え立つ断崖絶壁の柱。それらを繋ぐのは一本の綱のみ。無数にあるルートから最短を選ぶのがここを早く切り抜けるコツだ。
またもや焦凍の後ろを付いていくのかと思われたが名前はもっと大胆かつ単略的な行動に出た。
『轟名前! なんと綱を使わず跳んでいったー! こいつぁシヴィぜー!!』
「マジかよ!!」
持ち前の跳躍力を活かし柱から柱へと飛び移って行くではないか。
・騎馬戦
「名前、組むぞ」
「おっけー」
従姉弟だからという贔屓を含めて、お互いの個性を把握した上での選択。
焦凍にとって私は阿吽の呼吸が連携が取れる唯一の存在であると自負しているし、かつ敵に回すと厄介な相手だろう。
「……焦凍、本気出すから絶対取ってよね」
「! ああ、任せろ」
ぐぐっと屈んで脚に力を溜める。私が持ち得る最大の瞬発力で。
とある漫画に肖って“瞬歩”とでも名付けようか。いや、オサレすぎるから止めよう。
「反動ですっごい疲れて眠くなるんだけどね」
そう言って大きな欠伸を一つ。トーナメントまで時間があるし日向で寝てたい。
His born with all.
・焦凍vs名前
「焦凍、苛々してる」
「また伯父さんに何か言われたの?」
「焦凍は……」
「うるせぇ!!」
最大出力で造られた氷の塊は私の首から下を全て飲み込む。
その高さはドームの天井をも越え、焦凍の規格外の強さに会場内はざわついた。
寒い。尻尾の先すら動かせない。
『従姉にも容赦なしか……こりゃあ一瞬で決着ついちまったなー』
プレゼントマイクを始めとする試合を見ていた殆どが焦凍の勝利を確信していた。
従姉弟対決の呆気ない結果にミッドナイトが肩をすくめ、勝敗宣言をしようとしたその時だった。
『いや、まだだ』
「まだ終わってねぇ」
相澤先生と焦凍の言葉にミッドナイトもプレゼント・マイクもクラスメイトも、焦凍の勝利を確信した全員が耳を疑った。
氷がしっかりと体を包み込んでおり身動き一つも出来ない私にまだ何か出来るのかとざわつく会場。
まぁ、例外としては焦凍の父であり私の伯父に当たるエンデヴァーこと轟炎司も、この勝負の決着がまだであると解っているだろうけれど。
会場のざわめきをバックに、私は焦凍に応える。
「そうだね、焦凍」
『は? 何言ってんだよ。轟名前はどう見たって行動不能……ってホワーッツ!?』
目の前の彼に聞こえるかどうかくらいの声で呟き、私は“もう一つ”の個性で周りの氷を溶かして氷塊から脱出する。
辺りに水蒸気が立ちこめ温かさを通り越して蒸し暑くさえ感じる。
一般客だけでなく、クラスメイトも皆一様に驚きを隠せずにいるようだ。
「……この個性はあんまり使いたくなかったんだけど」
まともに使ったのは何年ぶりだろうか、コントロールは鈍っていないようだ。
あの日以来、正確には“あの事件”以来あまり使わないようにしていたのだけれど、このまま何も出来ずに終わるくらいなら背に腹は変えられない。
無意識にジャージの上から左腕を触る。
「なっ……!」
「今まであんな個性使ってなかったのに……!」
驚くのも無理もない。私は今の今まで、授業中でも私生活でも、USJの敵連合襲撃時にも、一度たりとも“この個性”は使っていなかったのだから。
『炎の“個性”を隠し持っていたとは! こいつぁシヴィー!!』
プレゼント・マイクのマイク越しの叫び声はよく聞こえる私の耳には地味に痛い。
ジャージが乾いたのを確認して、めらめらと私の体を包むように燃える炎を収め、焦凍のオッドアイを見つめる。
「焦凍、今のは完全に八つ当たりだよね?」
「……お前の“それ”、久しぶりに見た」
図星をつかれて逃げるために出てきた言葉がこれだ。
いつもの私ならばどんなに他愛のない言葉でも返事をしていただろうが今は呆れて何の言葉も出ない。
“火虎”。火の虎。火を操る白い虎。
“炎”の個性を持つ父と“白虎”の個性を持つ母から受け継いだ、複合個性だ。
私が臨戦態勢に入ったためそれに伴い尻尾の毛が逆立っていく。
「私決めたの。もう自分から逃げないって」
「そうか……」
「」
「この戦い私は本気でいくから、焦凍も本気でかかってこい!」
「上等だ。手を抜くつもりは毛頭無い……!」
言い終わるくらいに焦凍は私の足元を凍らせると私の背後に回り込むよう走り始めた。
私が足元の氷に気を取られている隙を突くつもりなのだろうが、生憎こっちは捕食動物の個性持ちだ。
彼が視界から消える前に炎で溶かし、虎だから出せる瞬発力で振り返り、背後から突き出された彼の拳を受け止める。
「流石は虎ってところか……」
「!」
受け止めた私の手が凍らされる。少し驚いた。が、やはりそれだけだった。痛くも痒くもない。
それからも焦凍はただひたすら殴る蹴るといった攻めを繰り出し、私がそれを受け止める度に局所的に凍らせて、でも結局瞬時に溶かしてしまうのでこの攻防に意味は見出だせない。
逆もまた然り。私が炎を纏って攻めても焦凍は氷で相殺しながら全てを受けきる。
まるで、幼少の頃伯父の指導の下にやっていた組手稽古のようだった。
「……焦凍、本気じゃ、ない、でしょ!」
「いや、これが、俺の、本気、だ!」
嘘つき。思わず喉から吐き出しそうになった言葉を飲み込み右脚で蹴りを入れれば両手でガードされ、凍らされる。瞬時に溶かして次の攻撃も受け流す。
私の炎の個性は使いすぎることでのデメリットはあるが今みたいに凍らされた部分を溶かすためだけの使用なら体温がほば一定に保たれるため半永久的にデメリットはない。
故に焦凍の冷の方の個性では打ち消し合うだけで埒が明かないのだ。
それは焦凍にだって解っているはずなのに、やはり、私が使いたがらなかったように焦凍も“もう一つ”の個性は使う気はないらしい。
トーナメント会場はいつの間にか水浸しになっており、さっさと決着つけろと野次が飛ぶ。
I want to laugh at you next.
焦凍と私の個性が発現してから、焦凍の父は私たちに稽古を付けるようになった。
伯父は焦凍をオールマイト以上のヒーローに、私をそのサイドキックにすべく朝な夕な厳しくした。
しかしそれは齢五歳には酷く厳しいもので、特に私は持久力がなくすぐに体力の限界が来て倒れ込んでは怒鳴られていた。
「そんなんでは焦凍のサイドキックは務まらんぞ! 早く立て!!」
そう怒鳴られる度に私の耳はぺたんと垂れ、無意識のうちに尻尾を両足で挟んでいた。
実子ではないからこの程度だったとも言え、焦凍に対しては私以上に酷かった。
時には胃の内容物を吐き出ししまうこともあったがそれでも稽古の中止は無い。私が自宅にいる間も焦凍は稽古をしているのだと知っていた。
そんな私たちの味方は焦凍の母だけで、いつだって私たちを庇ってくれたのは伯母だった。
「二人とも立て。こんなもので倒れていてはオールマイトはおろか雑魚敵にすら……」
「やめて下さい! この子たちはまだ五つですよ……」
「もう五つだ! 邪魔するな!!」
伯父に叩かれる伯母を見るのはとても辛かった。
伯母は稽古が無い時には一緒にオールマイトのビデオを見てくれたりと、とても優しかった。
血の繋がっていない私のことも自分の娘のように可愛がってくれる。
自分の母親がおかしかった分、私は焦凍の母が大好きだった。
「お母さん、ぼく、オールマイトみたいなヒーローになれるかな?」
「焦凍ならきっと素敵なヒーローになれるわ」
「うんうん。焦凍ならきっとかっこいいヒーローになるね」
「そういう名前には将来なりたいものはあるの? やっぱり焦凍みたいにヒーロー?」
「えっと……わたしはね、焦凍のサイドキックになりたいの」
「焦凍と名前ならきっと良いコンビになれるわ」
そう言って私たちの頭を撫でる伯母の顔は至極穏やかで、優しくて、慈愛に満ちていて、大好きだった。
「名前とぼくで最強のヒーローコンビになろうね!」
「うん!」
「ふふふ。いいのよお前たちは……」
この後伯母が何と言っていたのか、思い出せずにいる。
Distorted affection.
思えば私の母は、だいぶおかしな人だった。
エンデヴァーを敬愛、いや、今考えればあれば敬愛なんて生温いものではなかった。
母はエンデヴァーを崇拝していた。
故に私が伯父の稽古の厳しさに泣き付いても母はまともに取り合ってくれず、“エンデヴァーさんのやることに間違いはないのよ”と諭すだけ。
父は、そんな母とは正反対で、泣きそうな顔で私を抱きしめ、ごめんな、と謝るのだ。
そして私の肩を掴んで申し訳無さそうに私を見つめて言う。
「名前が嫌ならもう行かなくて良いんだよ」
そんな優しい言葉をくれたのは父だけだった。
私は伯父の姪だったとしても所詮は他人の娘、すぐにでも逃げ出せる環境にあるのだと教えてくれた。
「だったら、焦凍も……焦凍もおけいこ行かなくていい?」
「! それは……無理だ。ごめんな、名前。ごめん……」
そう言って父は再び泣きそうな顔で謝りながら私を抱きしめた。
どうやら逃げ出せるのは私だけのようだ。
父は伯父の弟だけど、弟だからこそ伯父に逆らうことことが出来ないのだと幼心に悟ってしまった。
けれど私は、父の言葉通り焦凍の家に行かないという選択を取るわけにはいかなかった。
私が逃げ出したら、それこそ焦凍は独りになってしまう。
焦凍を置いて逃げ出すなんてことは出来なかった。
次の日からもほぼ毎日本家へ足を運び焦凍と共に厳しい稽古を受けた。
そんな折だ、焦凍の母が壊れてしまったのは。
その日も私は焦凍の家にいて、稽古終わりに二人で伯母を探していた。その時伯母を探していた理由は今ではもう思い出せない。
台所へと行けばそこにはお茶を煎れるためのお湯を沸かしながら電話で誰かと話す焦凍の母がいた。
何かに怯えるようにその声はか細く、震えていたのだ。
「お母さん、私変なの……もうダメ。子どもたちが日に日にあの人に似てくる……。焦凍の……あの子の左側が、時折とても醜く思えてしまうの。それに姪っ子の炎の個性も日に日に強くなっていくし……私、二人が怖くて堪らない」
彼女の言葉は齢五歳の私たちにでもちゃんと理解出来た。
「私もう育てられない。育てちゃダメなの……」
たった一人の男のせいで、全てが終わった瞬間だった。
「お母さん……?」
「伯母さま……?」
「……」
振り返った焦凍の母の顔はひどく憔悴しきっていおり、私たちを視界に捉えた瞬間にその眼は本格的に怯えの色を見せ、身体は本能的に自己防衛に走った。
その刹那、動物の第六感というやつか、考えるよりも先に私の体は動いていた。
私たちの身に何が起こったのか理解する暇もなく、私は左腕が熱くて痛くて、でもそんな痛みがどうでもよくなるくらい、焦凍の叫び声は苦しかった。
自分の腕のことなんて二の次で、私は必死になって焦凍の名前を呼び続けた。
それから数分も経たないうちに駆けつけたお手伝いさんによって応急処置を施され、救急車に乗せられ病院でちゃんとした治療を受けた。
結果として、ドアで右半身が隠れていた焦凍は左側の頭から頬にかけて火傷を負い、焦凍を庇うように腕を出した私は左前腕の広範囲に火傷を負って、その痕は高校生となった今でも消えることはなくあの日の記憶と共に未来永劫残り続ける。
それでも焦凍も私も焦凍の母が悪いとは思えなかった。
伯母をあんな状態まで精神的に追い詰めた伯父が悪いのだと確信していた。
この騒動で私の母は伯父から直接謝罪を受けたが母はどこか他人事のように恐縮するだけで、私の心配などしていなかった。
だけとそんなことはどうでも良かった。この時には既に、私から母に対する期待値はほぼ零に近かったのだ。
「ああそんな、頭を上げてください。お義姉さんが悪いのであってエンデヴァーさんは何も悪くありませんわ」
その言葉で、私の中の何かが完全に切れた。目の前が真っ赤になっていた。
failed. failed failed failed...
気付けば、私は自分の部屋のベッドで寝ていた。
父から全てを聞いた。
私は、叔母さまを悪く言った母に腹を立てて炎の個性を暴走させたのだと。
それを止めたのは当然その場に居合わせた伯父で、母はすぐに救急車で運ばれ命に別状はなかったらしいが、皮膚移植のため数週間入院するそうだ。
いくら母の言葉が原因とはいえ個性を使って力任せに母を傷付けた私の方が圧倒的に悪い。
子供がやったことだから、なんて優しい言葉で済ませられる度を超えており、謝って許してもらえるレベルではないことは幼心に理解していた。
それでも私は謝りたくて、母に嫌われたくなくて、父に頼んで病院に連れて行ってもらった。
先に父が病室に入り母を落ち着かせると言うので私は大人しく扉を隔てた病室の外で呼ばれるのを待った。
「あなた、来てくれたのね……」
「ああ……」
「……あなた一人で良かった」
「……」
いつもの母ならばその優れた耳で病室の外に私が居ることなど直ぐに分かるはずなのに、今はそれが出来ないほど憔悴しているということ。
「名前のことなんだが……」
「……今まで対峙してきたどの敵(ヴォラン)より、怖いと思ってしまったの」
母は誰よりも気高く、強いヒーローだったのだと、父の自慢話をよく聞いていた。
強請って見せてもらう映像の中の母は実に勇猛果敢で、私はずっと憧れていた。
「虎子落ち着きなさい」
「無理よ、落ち着けるわけがない!」
ドアを一枚隔てた向こう側でヒステリックに叫んでいる母は、勇猛果敢とはかけ離れたところにいた。
母親に成るということがどれだけ大変で、精神をすり減らすことなのかを少しだけ分かった気がした。
「実の娘に殺されかけたのよ!?」
「虎子!!」
憧れたのと同時に、私にも母と同じ個性を授かっていることが自慢だった。
色は違えど母と同じ虎耳状斑の耳に、長くて立派な尻尾。全てが、自慢だった。
「今はあの仔が怖くて堪らない……!」
もう、母にとって私は“畏怖の対象”でしかなくなってしまったのだ。
自業自得なのに、その事実が重くのしかかり私の心を完全に折った。
「エンデヴァーさんは褒めて下さったのに、こんなことになるなんて……」
何でこんなことになってしまったのだろう。
私は母に憧れ、母のようなヒーローに成りたかっただけなのに。
ちゃんとした母娘に成りたかっただけなのに。
どこで間違えてしまったのだろうか。
「どこで……どこで育て間違えたのかしら……」
私はもう、これ以上聞きなくなくて耳を塞いだが母譲りの自慢の耳は嫌でも声を拾ってしまう。
「ああ、失敗した。失敗した失敗した失敗した……」
最後に聞いた母の声は恐ろし程に冷たく冷静で、ただ静かに己の過ちを悔いていた。
病院内は走っちゃダメよ、と注意をする看護師の言葉にすら耳を塞いで、私はひたすらに走った。
「お母さんは……?」
「ちょっと心が疲れてしまったみたいで、しばらく病院で過ごすことになったよ」
「私のせいだね……」
「今まで溜め込んでいたものが一気に溢れ出てしまっただけだから、名前のせいじゃないよ」
「ごめんな」
父のその謝罪は、果たして私に向けられたものなのか、それとも母に向けられたものか。
私は永遠に分からないだろう。
You're amazing!
ああそうだ。そうだった。
あの日伯母が、焦凍の母が私たちに言った言葉は。
『血に囚われることなんてない。こうなりたいと強く思う“将来”があるのなら……』
リングでは焦凍と緑谷くんが対峙している。
私は小さい頃からタイガーレディに、母に憧れていた。
「名前は将来ヒーローになりたい?」
「うん! お母さんみたいなかっこいいヒーローになって焦凍のサイドキックになる!」
「あらまぁ。うふふ、名前の目標になれて母さん嬉しいわ」
この個性と共に仕舞い込んでいた唯一母が“母”であった時の、私の炎の個性が発現する前の懐かしい記憶。
タイガーレディの映像を見ながら、私の“夢”を笑って喜んでくれた母の笑顔。
あの笑顔が何よりも好きで、母が何よりも大好きだった。
こんなに大切な思い出を、何で今まで忘れてしまっていたのだろうか。
「焦凍!」
「? 名前……?」
「“なりたい自分になっていいんだよ”」
「!!」
やっと思い出せた。
Do not run away from yourself.
焦凍の上に馬乗りになり両手を押さえつける。
虎としての本能か、無意識のうちに舌なめずりをしてしまう。
「焦凍、右側(そっち)だけじゃ永遠に私には勝てないよ」
焦凍の左頬に手を添え、顔を近付ける。
プレゼント・マイクが不純異性交遊だ何だとの煩いが今はそんなの関係ない。
これは私と、焦凍の問題だ。
「左側(こっち)を使えば、私は防ぐ術なんて持ってないから、簡単に倒せるよ?」
輪郭をなぞるように触れて挑発する。
「ほら、女に組み敷かれてる焦凍のみっともない姿、沢山の人に見られてるよ」
「……名前、親父に何か言われたのか?」
「っ! 今はそんなの関係ないでしょ」
「名前は俺に嘘をつくとき、必ず耳が垂れるから分かりやすいな」
「え、うそ!? 何それ初耳なんだけど!」
「ああ、可愛いから黙ってた」
「……」
「私もやめるから、焦凍も、もう自分を否定するのはやめようよ……」
「その半身だって、焦凍自身なんだから」
「……!」
「私たちいい加減、前に進もうよ……!」
「私は……っ。私は、焦凍に何もしてあげられないの?」
ぽろぽろと涙が溢れて焦凍の頬を濡らしていく。
名前の視界が滲む。
「違う。俺は……お前が……」
「名前が、居てくれたから、おれは……」
「意地っ張りなとこ、昔から変わらないね」
あの頃は稽古が終わったら二人ともへろへろで、伯母さまか冬美さんが夕飯を知らせに来るまでその場で寝ちゃったんだっけ。
「あの時焦凍のお母さんが言ってくれた言葉、覚えてる?」
「あの時……」
「私は思い出せたよ……」
I must be you.
結婚適齢期を気にして轟たちにツバをつけようとしているピクシーボブに対して、名前は彼女から遠ざけるよう轟を抱きしめる。
「名前……?」
「……焦凍は私のだもん」
その頬は紅潮しており、自分で言っておいて照れている彼女の姿は実に庇護欲が掻き立てられると、轟は後に語った。
「(俺の嫁が今日も可愛い)」
二人の甘ったるい雰囲気にクラスメイトは慣れていたが適齢期の女にはキツかったらしい。
「リア充かよこなくそー!!」
・限界突破訓練は、火力調節着込んで常に炎を出しながら延々とマラソンと筋トレで持久力と筋力を上げる試み。それに加えて見隠しや鼻栓等をして五感を鍛える。
・冷却装置という名の巨大なラジエーターを背負い、見隠しをし尻尾に掛けたバケツを落とさないよう握力を鍛えつつ一定の火力を出しながら走り込む
・何とか尻尾もある程度自由に動かせれるようになる
・名前の母親がタイガーレディとして復帰、ヒーロー科の非常勤講師になる。
・最中に興奮してお互いの個性で相手に火傷を負わせちゃうけど全く気付いていない(短編)
どうやら興奮してお互い無意識のうちに個性を使ってしまっていたらしく、俺の胸元には名前の両手の形が、名前の腰には俺の左手の形がくっきりと残っている。見る奴が見たらどういう状況で付いたものか分っちまうな。
人間の脳ってのはおかしな作りをしているもんで。火傷痕を認識した途端にそこがじんわりと熱くなり、そこからじんじんとした痛みが広がっていく。
もう遅いかもしれないが一応冷やしておく。
行為に夢中で熱さに気づいてなかったみたいだ。
「俺は良いけど名前は女なんだし少しは気にしろよ」
「え、だって」
「うー、確かにこれはコスチューム着た時に目立つかも」
「まぁ今更痕が増えたところで……」
「何かちょっとキスマークより恥ずかしい感じする」
「……」
今のは流石にムラッときた。
おまけ
・サブタイトル
サブタイトルは翻訳サイトを使っているので文法等の変なところはスルーでお願いします。果てしなく意訳です。より正しい英文に直せる方が居ましたらこっそりお教え頂けると助かります。
The boy is lacks "individuality".
(個性の無い少年)
Girl of white tiger.
(白虎の少女)
Do not run away from yourself.
(自分から逃げるな)
(君、驕ることなかれ)
You're amazing!
(君は素敵だ)
Want to laugh at you next.
(貴方の隣で笑っていたい。)
She is nothing understand.
(彼女は何も解らない)
She does not know anything.
(彼女は何も知らない)
Limit of relatives.
(身内の限界)
The fu*king respectability!
(世間体なんてクソ喰らえ)
I want to laugh at you next.
(貴方の隣で笑っていたい。)
I want to be with you.
(あなたと一緒にいたい)
You are an important person.
(貴女は大切な人)
I must be you.
(私は貴方がいいのです)
When the spring is coming tomorrow.
(明日、春が来たら)
Distorted affection.
(歪んだ愛情)
Wings to tiger.
(虎に翼)
His born with all.
(全てを持って生まれた男の子)
Trump card is put to the last.
(切り札は最後まで取っておけ)
failed. failed failed failed...
(失敗した。失敗した失敗した失敗した……)
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