【[自称・ヒーロー]】(drm@s×MHA/輿水成代主/MHA沿い)

 デレマスの輿水幸子成り代わり主がヒーローを目指して頑張りながら色んな人と交流するだけのシリーズ。ほんのりヒロアカ原作沿い。
 デレマスキャラはほぼ出る予定はありません。当然プロデューサーも出てきません。


輿水名前
 11月25日生、身長149cm、好きなものはカワイイボク、お肉。スリーサイズは80-56-79(Cくらい)。左利き。出席番号10(口田と砂藤の間)。
 個性「自称・幸運」。運命をも捻じ曲げる程の幸運で彼女にとって最良の結果をもたらす、デメリットが存在しないチート個性。常時発動型かと思われがちだがただの発動型。

 ※あくまで成り代わりですので夢主≠輿水幸子です。故に年齢やら身長やらスリーサイズが違います。また、夢主は自分が輿水に成り代わった自覚はありません。
 本家輿水より2歳成長しているしスリーサイズはユッコくらい、でも身長はあんまり伸びていない。好きなもの“お肉”は中の人の好物です。



▼もしかしたら出るかもしれないデレマスキャラ
 高垣楓:個性「操風」のアイドルヒーロー。346プロ所属。元々ヒーローだったのだがアイドルに転身し、現在はヒーロー業を救助専門にし、アイドルと両立。
 (※職場体験で出せたらいいなぁ程度に考えていた設定です)


アイドルでヒーローになるんです!

 いつもならば平和の象徴を取り上げているメディアがここ数日は平和の象徴ではなく一人の女の子に注目していた。

『アイドルの輿水名前がヒーローに!?』
『雄英高校ヒーロー科の一般入試を無傷で合格!?』
『アイドル引退でヒーロー路線か!?』

 そんな話題が連日の週刊誌やワイドショーを賑わせている。
 輿水名前。アイドルとしてデビューして早数年、トップに最も近いと云われている大人気アイドルだ。
 その輿水名前が最難関とも言える国立雄英高校のヒーロー科の一般入試会場にいたのをある雑誌記者がスクープしたのが切っ掛けで連日メディアが騒いでいるのだ。
 未だ合否も出ていないにも関わらず合格している体で話は進みこのままヒーローに転身するのではないかとも噂される。

 仄めかされるアイドル引退説にファンは血の涙を流し、所属プロダクションへの問い合わせが殺到。
 ワイドショーではアイドルにヒーローが務まるのかと批判的な意見が多く、ネットでは様々な意見が飛び交っている。

 そんな折に開かれた記者会見。勿論輿水名前の進路についてのものだ。生放送で行われたそれを見るべくファンは仕事を休んでまでテレビにかじりついて見守っていた。
 プロダクションのお偉いさんを共だって会場に現れた名前はいつも通り自信に満ちた顔をしている。

『この度は我がプロダクション所属の輿水のためにお集まり頂き誠にありがとうございます。早速ではございますが、時間もあまり無いので本題に入らせて頂きます。ここ数日論議になっている問題について、輿水の方から報告があります』

『ボク、輿水名前は国立雄英高校ヒーロー科に合格したことをここにご報告致します!』

 名前の言葉に会場は一気にざわめきシャッター音で煩くなる。
 ネット上の大型掲示版では、不安が的中したファンの嘆きだけではなく、一アイドル如きが入学出来てしまうなんて雄英も質が落ちたなどといった辛辣な意見までが書き込まれ始めていた。

『我々からは以上です。何かご質問は……』
『ヒーロー科に通うということはヒーローを目指すということでよろしいのでしょうか? その場合アイドル業はどうするのですか?』
『ボクはアイドルを辞めませんよ! アイドルでヒーローになるんです!』
『事務所とも綿密な打ち合わせの結果、学業を優先した上でアイドル業も熟していく予定ですので今後とも輿水をよろしくお願いいたします』

 芸能活動との両立をするヒーローもいるが大抵がヒーローになってから芸能活動を始めたものばかりだ。
 芸能関係からヒーローへ転身した例もあるがヒーロー科へ通っている期間休業するか、芸能活動との兼ね合いで私立のヒーロー科に進学するパターンばかり。
 故にこのアイドル業を熟しながら雄英高校ヒーロー科へ通うという名前の選択は至難を極める結果となろう。

『オールマイトが雄英の教師になるとの噂もありますがそれと関係はあるのですか!?』
『全く関係ありません! ボクはボクの選択で、確固たる信念の元この道を選びました。絶対に妥協はしません』

 そもそも雄英高校ヒーロー科の一般入試を合格する程の実力が本当にあるのか俄に信じがたかったが、その真っ直ぐな瞳に嘘は無い。
 彼女の出ているバラエティー番組を見たことがある者ならば分かるが彼女は他のアイドルに比べて肝が座っているし中々タフだ。時にはバンジージャンプやスカイダイビングといった芸人張りに体を張ったパフォーマンスも披露済みだ。
 そんな彼女ならばどんな困難も乗り越えていけるのでないかと、批判的な意見が多かったネット上でも徐々に彼女の味方が増えていく。

『輿水はアイドル業を熟しつつしっかりと受験勉強に励んでいました。推薦入試を受けられる成績も持ち合わせていましたが敢えて一般入試を受けさせ、実力で合格を勝ち取りましたので、我々も彼女の選んだ道を応援しようと決断に至りました』

『他に質問がないようでしたら会見を終わりたいと思います』
『はい! 輿水さん、最後に一言お願いします!』

 慌てて手を上げた記者の言葉に名前は正面カメラに視線を向けて満面の笑みを向ける。

『フフーン。これからもカワイイボクの活躍を楽しみにして下さいね!』


どちらも嘘偽りのない輿水名前ですよ

 はっきり言ってクラスメイトにとって輿水名前は近寄りがたい存在であった。
 最近でこそバラエティー番組での芸人的イメージも付いてきたが、やはり輿水名前といえは自信過剰で高飛車なイメージがあったからだ。余り彼女のことを知らない者でもそのイメージは定着していた。

 だからこそ教室内でもそのような態度をとるものかと思っていたクラスメイトにとって今の名前の姿は想像し得ないものであった。

「……」

 名前は物静かに自分の席に座り、ぼんやりとドラマの台本を読んでいる。
 てっきりいつもの名前を想像していた者にはそのギャップが妙に浮いていて、近寄りがたさを助長していた。

 そんな名前に近づく人物がいた。

「名前ちゃん」
「……はい。何でしょう」

 名前が台本から視線を上げれば色紙とサインペンを持った蛙吹がいて、次に発せられる言葉は容容易に想像できた。

「妹が貴女のファンなの。良ければサイン、くれないかしら?」
「ええ、いいですよ。何ならブロマイドも差し上げます」

 蛙吹の言葉に快くサインを書いてやりおまけに自身のブロマイドも付けてやる気前の良さを披露した。
 どんなファンでも蔑ろにせず、常に笑顔で向き合う。それが輿水名前の理想とするアイドル像である。

「ありがとう。きっと妹も喜ぶわ」
「いえ、ファンサービスはアイドルの基本ですからね」

 そこで会話は終わり、名前が再び台本に視線を落そうとした時、蛙吹の目がまだ自分に向いていることに気が付く。

「……まだ何か用でも?」
「何だかびっくりしちゃって」
「はあ……?」
「その、言い方が悪いかもしれないけど、もっと高飛車なイメージがあったから……普段の貴女って大人しいのね」
「常にあのテンションは流石に疲れますからね。ああでも、あっちのボクとこっちのボク、どちらも嘘偽りのない輿水名前ですよ」

 静かにいつものドヤ顔を見せつける名前に、蛙吹は顎に指を当てて思った。不器用な子だと。
 中学時代に初めて出来た友人を思い出させる不器用さだった。

「ケロ……」
「幻滅しましたか? まぁ、幻滅しようがしまいとボクの知った所ではありませんが」
「いえ、ちょっとギャップに驚いちゃっただけで、幻滅なんてしないわ」

 蛙吹の中では寧ろ話す前よりも好感度は上がっており、ただのクラスメイトという垣根を超えたいとすら思っていた。

「名前ちゃんって可愛いのね」
「何を当たり前なことを……」

 そんなことも分らなかったのかと、呆れ顔の名前が小さく溜め息を吐く。
 彼女の態度に蛙吹は腹を立てるでもなく、逆に優しい笑みを浮かべる。

「テレビの中の名前ちゃんも好きだけど、今の名前ちゃんも私好きよ」
「物静かなボクもカワイイですからね」
「良ければお友達になってくれないかしら?」
「……ボクとですか?」

 蛙吹の言葉に名前は眼を丸める。
 今まで名前に友人になりたいと言ってきた女子は大半が芸能人目当てで彼女のコネクションを利用しようとする輩ばかりだった。
 断れば根も葉もない噂を流され、露骨に妬み嫉みを向けてきた。うんざりだった。
 それならばいっそ友人なんていない方がましだと拒絶していった結果、中学校では孤立していた。味方ならファンがいる。理解してほしいのなら親がいる。

「ええ。駄目かしら?」

 この人はボクに何を求めているのだろうか。名前が真っ先に思ったのはそれだった。
 しかし、彼女の真ん丸い瞳を見ていると下心なんて一切なく、ただ純粋に名前の友人になりたいのだと、何となくだが、そう思えた。

「……いえ、構いませんよ。良かったですね、カワイイこのボクが友人になるんですから。もっと喜んでくれて構いませんよ蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで。……そうね。妹に自慢しちゃおうかしら」

 そんな他愛のないやり取りでも二人はくすくすと笑い合う。
 名前は改めて認識する。きっと自分は互いの利益を求めない純粋で対等な友人関係が欲しかったのだ。

 かくして、蛙吹梅雨は名前にとって初めての友人となった。


口田さんは運が良かったですね

 雄英高校入学式当日。名前と蛙吹が友人関係になった後。
 名前たちA組は入学式にも参加せず、何故か体操服を着てグラウンドで“個性”有りの体力テストを行っていた。

 50メートル走から始まる全八種目。名前の走る番がやってきた。

「ふふん。ボクの隣で走れるなんて口田さんは運が良かったですね」
「……」

 名前の発言に口田はどうしていいか分からず、とりあえず挨拶の意味も込めて頭を下げておいた。
 教室では静かに蛙吹と話していたと思えば、メディアで見せるいつもの名前に戻っている。彼女の情緒はよく分からない。

 さて、先程の名前の言葉は己の可愛さに自惚れた発言かと思われたがそれは違った。
 スタートの合図と共に突如吹いた強烈な風。それは名前と口田の走りを手助けする追い風となり二人の記録は大幅に更新された。

「凄い風だったけど大丈夫だった?」
「ええ。髪は多少乱れてしまいましたがタイムは大幅に縮まりましたよ」

 先程の突風は名前の“個性”によるもので、先程の発言の真意はそこにあったのだが、蛙吹は彼女の“個性”を把握していないので理解に至らなかった。
 その様子を遠巻きに見ていた上鳴と峰田は、手櫛で髪型を直す名前も可愛いなぁと実にファンらしいことを考えているのであった。

 続いての握力測定は一般女子の平均やや下という結果。
 “個性”を使えば少しは増えただろうが握力が強いのは可愛くない、と敢えて何もせず測った。
 その次の立ち幅跳びでもあの突風が起こり、その後も時たま彼女を助けるかのように何かが起きていた。

 中でも印象的だったのはソフトボール投げだ。
 名前が投げたソフトボールを事もあろうか何処からか現れたペリカンが咥えて持っていってしまったのだ。暫くすると相澤の持つ端末に“863メートル”の表示。
 二回目を投げても、今度は鷹がきてそれを捕まえて持っていってしまう。そして“858メートル”の表示。
 不思議なことが二回も連続して起きればそれは最早仕組まれたこと考えるのが普通だ。
 そうなると十中八九彼女の“個性”なのだろうとクラスメイトは思案する。

「ケロ……名前ちゃんの“個性”って一体何?」
「ふふん。今はまだ秘密です」

 片目を閉じて人差し指を口元にやる仕草に、クラスメイトは可愛いと感じざるを得なかった。
 中でも彼女の大ファンを公言している上鳴と峰田と瀬呂は、心のカメラにその姿を焼き付けていた。

 一人、名前の“個性”が何なのか知っていた相澤はその“個性”の汎用性の高さに呆れていた。


カワイイボクにぴったりでしょう!

 八百万百は輿水名前と同じ中学校に通っていた。
 八百万が名前の存在を認知した時には、彼女は既にアイドル道をひた走っていたし、一度も同じクラスになったことが無かったため“同じ学校に通う芸能人”という認識しかなかった。
 しかしクラスメイトの女子が度々彼女の噂話をしているので情報元の分からぬ噂は耳にすることが多かった。

 某男性アイドルと付き合っているだとか、若手ヒーローに言い寄っているだとか、時には枕営業をしているなんて噂もあった。本当にどれも根も葉もない。

 聡明な八百万は、まことしやかに女子の間で交される噂を鵜呑みにしようとはしなかった。
噂で決め付けられることが多かったため彼女の噂を鵜呑みにするつもりはなく、そもそも余り興味もなかった故に特に気にしたことはなかった。

 しかしその数日後、偶然廊下で見かけた名前がメディアでのイメージとはかけ離れすぎていて驚いたのを、高校生になった今でもはっきりと覚えている。
 その時の名前は物静かで表情も無に近く、暗いとさえ感じさせられる姿だった。
 メディアでは明るく自信に溢れた姿しか映していないのでてっきり友人も多く常に笑顔が絶えない人物だと思い込んでいたのだ。
 現実は八百万の想像と全く違っていた。
 芸能活動との両立はしていても学校では心を許せる友達はおらず、それどころかクラス内でも孤立しているようだった。

 名前が通ると女子たちが集まってひそひそと何かを話している光景は最早いじめのそれに立ち会ってしまったようで居心地が悪い。
 普段は穏やかなお嬢様でも一度嫉妬の炎を燃やしてしまえばそれは消えることがないのだと知った。嫉妬すると鬼になるというが、本当なのだと思い知る。
 その嫉妬こそ、八百万にとって初めての“他人に向けられた明確な悪意”であった。

 そんな折、進学先で名前と同じクラスになり、八百万は彼女に話しかける機会を失い続け、ついには第一回目のヒーロー基礎学の時間になってしまっていた。
 自分よりも関係性の薄い蛙吹はとっくに彼女と友人関係になっているというのに自分は話しかける勇気すらない。八百万は焦った。

「ふふん。どうです? カワイイボクにぴったりでしょう!」

 そう言ってヒーローコスチュームを自慢するように一回転してみせた名前。
 その仕草にクラスの半数以上が彼女の可愛さを再認識する。

 名前のヒーローコスチュームは可愛らしくアレンジされた所謂巫女服のようなものだった。
 ノースリーブで肩から二の腕にかけてが露出しており、袂の広い袖が左右の腕に装着されている。薔薇の髪飾りが名前の可愛さに華を添える。
 金の装飾が施された膝丈の緋袴には同じ柄の大きな緋色のリボンが付いており、両サイドが大きく開いているため上に着ている白衣の裾とほんの少しだけ太腿が覗いている何ともフェチズムを擽るデザインだ。
 緋袴のスカートと白のニーソックスから生まれる絶対領域に一部の男子は胸の高鳴りを感じざるを得ない。

 一見、ライブの衣装のようで実用性が無さそうに見える。

「ええ、とっても似合うわ」
「そうでしょうそうでしょう」

 蛙吹と友人関係に発展してからはカメラを向けられていなくても明るい面を見せるようになり、蛙吹はその姿に安心していた。
 大人しい名前も可愛いと思ってはいるが、やはり明るく自信に満ちている方が名前らしいと思う。
 名前のオンオフの割合は、柿ピーの柿の種とピーナッツの割合くらいがちょうどいい。

「梅雨さんのコスチュームもなかなかカワイイですよ。まぁ、ボク程ではありませんけど!」
「そうね、ありがとう」

 機能性を重視し、特に可愛さを意識してデザインした訳ではないので蛙吹自身返しに困るのだが、そのまま自己完結してくれたので良しとした。


 いつものヒーローコスチュームを纏ったオールマイトと演習場内にある一棟のビルディングに入る。初めて行われるヒーロー基礎学はヒーローチームと敵チームに分かれての戦闘訓練である。
 敵チームが核を持って立て籠もっているという何ともアメリカンな設定だ。ヒーローチームの勝利条件は制限時間内に敵チームに確保テープを巻くか核に触れること。逆に制限時間内にどちらも達成出来なかったり確保テープを巻かれてしまったら敵チームの勝利となる。

 基本一チーム二人ずつのペアマッチとなるのだがクラス総数が奇数のためどこか一チームだけ三人となる。
 そして三人チームとなったのが名前と八百万と峰田のCチーム、敵役である。

「とりあえず八百万さんの“個性”で鉄板を出して頂いて扉を塞ぎましょう。定石です」
「……」
「八百万さん! 聞いてるんですか!」
「! あ、はい! わ、分かりましたわ!」
「ったく。ボクのカワイイ声を無視するなんて本来ならば許されませんよ!」

 話しかけるのならば今が絶好のチャンスではあるが如何せん今は授業の最中だ。私語は慎まねばらないと律する一方で、この機会を逃したらこの先一生名前と話す機会など訪れないのではないかという一抹の不安もある。
 そんな狭間で揺れていたせいか名前が咎めるまで八百万は心ここに非ずであった。
 意識を浮上させた八百万は名前の指示通り“個性”で鉄の平板にコの字型の鉄板を組み合わせた強度の強い鉄骨を創造し、名前と二人で扉を塞いでいく。
 ちなみに身長が低く、鉄骨を運ぶことが出来ない峰田は核のハリボテの周りに自身の“個性”である球体状の髪をばら撒きつつも、名前のフェチズム溢れる腋と絶対領域、さらには八百万の惜しみなく晒される太腿と胸元を凝視することに集中している。

 それなりの強度を要する鉄骨は、勿論重く、八百万本人でも扉を半分覆う頃には手が疲れているにも関わらず、名前はそんな素振りを一切見せずにてきぱきと自分のすべきことを熟していく。
 輿水名前は身長も低く華奢で、それこそ力仕事など自分のすることでは無いと突っぱねるイメージがあるが、その実根は真面目で努力を怠らない。ライブ会場やテレビ局内でも積極的に手伝いを申し出るタイプであることは世間では知られていない。
 またも自分の持つイメージと違う行動をしている名前に、八百万はとうとう自制出来なくなってしまった。

「輿水さん」
「? 何です? 八百万さん」
「私、貴女に謝りたいことがありますの……」
「ボクに謝りたいこと……?」

 はて、何でしょう。と名前なりに八百万との接点を探してみたが二人が接触したのはこれが初めてで、何一つとして心当たりはない。
 名前が疑問を持つのも無理もない。これから始まるのは八百万の一方的な私情なのだから。


そんなのも気にしてません

 八百万が名前に独白し始めたと同時刻、モニタールームでは一方的に話を聞かさせる名前の表情が明らかに無になっていくことに疑問を抱いていた。

「名前ちゃんたち何の話してるんだろう……」
「作戦会議……ではなさそうね」

 蛙吹の予想通りそこで広げられている会話は八百万からの一方的な謝罪であり、名前にとってはどうでもよいことだった。
 一人その内容を聞いていたオールマイトは、彼女のことを知る良い機会だと思い、敵チーム側の音声だけオンにする。
 ヒーローチームのスタートまであと一分もない。

『でもあれは明らかにイジメの類いでしたわ』

 すると一番初めにクラスメイトたちの耳に入ってきたのは罪悪感に押しつぶされそうな八百万の声だった。
 “いじめ”という不穏な単語に、名前が被害側か加害側で話は大きく変わる。

『あんなのいじめに入りませんよ。ああいう連中は小さい頃からいましたし』

 その言葉にクラスメイトたちは名前が被害者側にいたことを悟る。
 確かに普段の彼女は言い方が悪いが暗い部類に入る。故にそこに漬け込んでいじめの標的にされていたのだと。

「陰口も嫌がらせも根も葉もない噂話も、全て慣れました」

 無表情のままの名前の言葉に八百万は奥歯を噛みしめる。

 小さい頃から可愛いという自覚があった名前は妬みや嫉みを向けられることが多く、嫌がらせも多く受けてきた。
 しかしそれは、相手が自分の可愛さを認めていることになるのだと考えると寧ろ優越感しかない。変な所でポジティブシンキングなのも名前の長所である。

「でも変な噂も沢山……!」
「そんなのも気にしてません。たかが噂如きにいちいち反応していたらキリがありませんからね。言いたい人には言わせておけばいいんです」

 鉄板を移動させながら、はっきりと言う。
 芸能人、ましてやアイドルをしていれば批判的な意見も存在し人気や知名度が上がるにつれそれも多くなるのは仕方のないこと。特に名前のキャラクターは人を選ぶ。
 そんな有象無象の戯れ言に踊らせれていては大人気アイドルは務まらない。

 輿水名前は強かった。強く、気高く、凛としている。
 彼女の芯の強さはモニター越しにも伝わっていて、“ただちやほやされたいだけの女の子”という一般の印象を足元から崩していった。



「ボクのこと、何も知らないくせにっ……!」
「ええ、何も知りませんわ。だから知りたいんです」




「名前ちゃん! 私とも友達になろう!」
「えっ、何ですか……!?」
「俺一生ファンやめねぇから!」
「俺も! 一生付いてくって決めたっ!!」
「輿水の芯の強さ、伝わってきたぜ!」

「は、え? な、何なんですか一体!?」

 会話が全て筒抜けだったとは知らない名前はこの状況に訳がわからず、助けを求めて蛙吹に視線をやる。

「敵チーム側だけ音声がオンになっていたのよ」
「え……えぇっ!? ボクは聞いていませんよ!
どういうことなんですか!?」

「オールマイト先生! これはプライバシーの侵害ですよ!?」


二人きりは勿論NGですけどね

 上鳴電気は彼女の大ファンであり、寧ろファンだからこそ恐れ多くて近寄れないかもしれないと前夜に悶々としていた。が、教室の扉を開けて実際に彼女を目にした時には
 こんな塩らしい輿水名前を見るのは初めてだった。


「すみません、この後はライブの打ち合わせが入っているので無理ですね」
「で、ですよねー」
「明後日の放課後なら予定は無いので大丈夫ですよ。二人きりは勿論NGですけどね」

「……しゃあっ!!」



・委員長決め回

「オールマイトか輿水名前について何か一言でも!」
「オールマイトに直接お話伺いたいのですが!」
「我々は輿水名前にインタビューをしたいんですが!」
「名前さんに直接お話を!!」

 オールマイトと輿水名前。この二人が雄英高校の関係者となったことにより連日正門にはマスコミが押し寄せ、どちらでも良いからその姿をカメラにおさめようと躍起になっていた。
 ちょうどこの日オールマイトは非番で、名前も生放送の仕事が入っており学校に来るのは午後からとなっている。そんなことも知らず朝早くからマスコミは殺到し、登校してきたA組の生徒も例外なくインタビューを受けていた。

「オールマイトは、筋骨隆々? 名前ちゃんはすっごく可愛い!」

 各々オールマイトと名前に対する感想を答えていく。



 アイドル活動においてユニットを組んでも進んでリーダーシップを発揮する名前が手を挙げていない現状は些か不思議であった。

「名前ちゃんは委員長やらへんの?」
「ええ、ボクは何かと忙しい身ですから。委員長の役職は他の方に譲ります」

 名前の回答に麗日は納得する。確かにそうだ。
 アイドルとヒーロー科の両立は只でさえ難しいというのにこれ以上重責を担うのは流石の輿水名前でも体が保たない。



 自身が他の生徒と共に食堂で昼食を摂れば場がパニックになるであろうことは容易に想像がつくと、名前は栄養面にも気を使った特製の弁当を持参している。




「マスコミのみなさん! そんなに話が聞きたければボクが直接お話して差し上げましょう!!」

 ふふーん。とメディア用のスマイルを浮かべた名前が相澤と山田を守るようにマスコミとの間に入る。
 それによりマスコミの気は名前へ向き、相澤たちは解放される。
 流石にマスコミへの対処の仕方が手慣れてる。


最高のライブにして差し上げます

 週末に行われた輿水名前の単独ライブ。上鳴と峰田と瀬呂の三人は、それぞれ高校入学の数か月前に苦労して入手したチケットを使い会場入りした。
 教室でその話題で盛り上がった際はを唯一上鳴がアリーナを取れたと自慢していたのが彼らの記憶に新しい。

 デビュー当時から知っていて恋心に近い憧れを抱いていたアイドルが、まさかクラスメイトになろうとは思いもしなかった。
 メディアやステージ上の自信満々な名前しか知らなかった三人にとって教室内での大人しい名前の姿は意外であったし、それ以上にそのギャップに心を撃ち抜かれたのは言うまでもない。
 更にはヒーロー基礎学での八百万とのやり取りでそのファン魂に火をつけてしまった。
 彼女のオフの姿を共有出来ているという高揚感に胸踊った。それはもうリオのカーニバル並みに踊った。


「梅雨さん百さん、本日はボクのライブに来て下さりありがとうございます!」
「こちらこそ招待して頂きありがとうございますわ!」
「これ差し入れよ。良かったら受け取って」
「ありがとうございます! フフーン。今日は最高のライブにして差し上げます!!」

 今まで家族以外では事務所の先輩後輩や仕事関係の人にしか渡したことのない関係者招待チケットを初めて友人に渡したのだ。


チアガール姿でもボクはカワイイですね

 雄英体育祭。個性の発現によって廃れてしまったかつてのオリンピックを思わせる程の盛り上がりを見せるこの祭典は、生徒の実力を見せる場としても活用され、複数のカメラによって生放送されるのが通例だ。
 客席の一角を丸々埋めている名前のファンに、テレビのロケよりも多いカメラの台数。
 流石の名前もアイドルモードをオンにせねばと張り切っており、その頑張り通りトーナメント戦の出場権を得るまでに至った。

 午前の部終了から午後のトーナメント戦が始まるまでの間、トーナメントに出場しない生徒を中心にレクリエーションが行われていた。
 峰田の策略にまんまと乗せられてしまった八百万たちA組女子は漏れなくチアガールの衣装を纏っており、当然名前もチアガールへと変容していた。
 最も、名前はテレビ番組でこういった衣装は着慣れているためそれが峰田たちの嘘であったことが発覚しても然程怒る素振りもなく寧ろこの状況を楽しんでいるようだ。

「ふふーん。チアガール姿でもボクはカワイイですね」


 レクリエーションの目玉は何と言ってもアイドル輿水名前とDJプレゼント・マイクによる特別ライブだ。
 実はこの二人、以前よりラジオ番組での共演経験が何度かあり、この特別ライブの企画を持ちかけたのも彼だった。
 雄英体育祭の場で教師公認のライブが出来るなんて滅多にないことだと、彼女は二つ返事で引き受けたのだ。
 とは言っても名前もトーナメント戦の出場が決まっているため曲数は少なかったが、それでも彼女の気分は最高状態に持っていけた。やはり自分は歌うのが好きなのだと再認識する。


勝利の女神でもあるんです

「自分のポテンシャルの高さが怖くなります……」


「カワイイボクがそう簡単にやられるわけないんですよ!」

「ふふーん。ボクはカワイイだけではなく、勝利の女神でもあるんです!」
『自称・勝利の女神名前ちゃーん!』


・ヒーローネーム

「ボクはそのまま“カワイイは正義”輿水名前です!」


・楓さんと名前

「名前ちゃんを見付けたからいたず……げふんげふん。声をかけようと思って」
「ちょっと! 今いたずらって言いかけましたよね!? ボクにいたずらする気だったんでしょう!?」
「うふふ。そんな」
「惚けたってダメですよ。楓さんは前科があるんですからね!」
「前科? 何のことかしら……」
「この前“個性”使ってボクのスカート捲ったじゃないですか! 完璧にセクハラですよ!?」
「二人きりの時にしかいたずらはしていないし、何より私たちの仲ですもの……ね?」
「ね? じゃありませんよ! まったくもう……」


・期末試験(実技)

「ボク自身、この“個性”がどう作用するのか把握しきれてないんですよね」

「未知数なボクもカワイイ……」


・合宿

「カワイイボクが応援に来てあげたんですからさっさと終わらせて下さいよ」
「応援のためだけに来たのかい? 随分と暇なんだね」
「暇な訳ないじゃないですか。夜更かしは美容の大敵ですよ! そもそもボクは先生に相談があって来たんですから。貴方達の応援はついでですよ、つ・い・で!」


・轟と名前

「甘えても良いんですよ。ボクはカワイイだけじゃなく包容力もありますからね」

 最後に母親に甘えたのはいつだっただろうか。ぼんやりと思った。



・必殺技

「ふふん。ボクは既に持っていますよ。必殺技」

「これがボクの必殺技“運命崩し”と“運命返し”です」

 運命をも捻じ曲げる程の幸運で全ての攻撃が当たらない“運命崩し”と、運命をも捻じ曲げる程の幸運で全ての攻撃を弾き返す“運命返し”。どちらも防御に特化した技だが、デメリットがないことを考えるととても強力だ。

「どちらの技もとてつもない集中力を要しますけど大丈夫です」



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